63.屋敷の掃除
俺、エリナ、ミヤビ、スイナ、トウカ、カヤは昼頃にギルドで案内人と合流して屋敷へと向かった。
この集団とにかく目立つ。キレイどころは揃っている。巫女装束はもちろん、里で着られている着物もこちらではめずらしい衣装だ。カヤも別方面で可愛らしさを振りまいている。そしてスイナがいる。ギルドに所属してなくても有名な特級冒険者。
もう一度言うがとにかく目立つ。だから俺が自分に幻術をかけて周りから見えなくしているのは当然だといえる。
注目を集めながらも俺達は屋敷へと到着した。さすがはお姫様を住まわせるだけの事はある。貴族街の入り口付近とはいえ、明らかにでかい建物だ。
「おっきいね!」
「本当に大きいなぁ」
「こんな大きくてどうするつもりなのかな?」
「これが権力というものですか」
「こんな大きな家に住みたいなんて思った事もないよ」
「巫女達も大変そうねぇ」
みんなその家を見て思った事を口にした。とはいえここで立ち止まっている訳にもいかない。みんなで家の中に入って行った。そこには執事とメイドと使用人達がいた。そしてシーリアが一緒にいた。
「ようこそ我が旦那様。まだまだ恋愛感情はないがよろしく頼むよ」
「こちらこそ、それはともかくわざわざお出迎えを?」
「私はもう姫ではないしな」
「名義上はってだけでしょうに、それにまだ広く国内外に伝えてないんでしょ?」
「それは準備が整い次第と父が言っていたね。あぁ、それと父が依頼を出すと言っていたから明日にでも冒険者ギルドで話を聞いて来てくれ」
「父って国王だよね? 国王直々の指名依頼って厄介事の臭いしかしないよ……」
「時期が悪かったと諦めるしかない。私にとっては幸運だがな」
確かに使徒の事がなければシーリアとの出会いはなかったと思う。だけど俺がここにいるのって使徒絡みぽいからなんとも言えなかった。そこにロマンスグレーな老執事が前に出てきた。
「挨拶をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ん? あぁ、よろしくお願いするよ」
「それでは、お初にお目にかかります。セルスと申します。この家の使用人の取りまとめも私が勤めさせていただきます。よろしくお願いします」
「よろしく、話は聞いてると思うけどここにいるトウカが中心となってこちらからも日中働いてくれる者たちが来る。その辺の打ち合わせはまかせていいかな?」
「なんとかやってみます」
「こちらも家の中の仕事をするものは多くありませんのでよろしくお願いします」
そうして、次々とこの屋敷で仕事をする人たちを紹介された。こちらも改めて自己紹介をした。
「自己紹介はこんなものかな? セルス、今この屋敷の中はどうなってる?」
「シーリア様のお部屋や共用の場所はすでに配置済みです。二階の向かって右側の奥がシーリア様のお部屋になります。我々は一階に住み込みで働かせていただく事となっています」
「二階は基本俺達が使っていいのかな?」
「お好きなようにお使いください。ただ、ユキト様のお部屋は出来ればシーリア様の隣にお願いします」
「まぁ、優先順位としてはそうなるか。みんなは好きに部屋を選んでくれ。その部屋に設置して回るから」
「なら私はユキトくんの隣がいいな」
「了解了解」
「あぁっと、そうだシーリア」
「なんだ?」
「この屋敷って誰の持ち物になるんだ?」
「私と君のものだな。だが私は君のものだから君のものとして考えていいだろう」
「なら俺がある程度いじっても問題ないな」
「危険なものでなければな」
「シーリアも含めて、大事な家族がいる家に変な事はしないさ」
「私も含めてか」
「当然だろ? 違うのか?」
「今の段階でそう思ってもらっているのはありがたいよ」
シーリアに確認をとった俺は、それぞれが決めた部屋に家具を配置していく。俺が家具を配置すると言ったので、どんな風に運び込んでいるのか不思議に思ったシーリアやそのお付きのメイドさんがついて来て見ていたが目を丸くしていた。
こんな風にいくつもベット、テーブル、イス、クローゼットをポンポン出すのは異常だから仕方がないと言える。
……空間収納は日々少しずつ大きくしていくものだし、トウカに許可を得てカヤに教えるのもいいかもしれないと思った。
例によって俺の部屋のベットはあちらの家におきっぱなしになってるベット同様大きいサイズのものだ。
部屋のものをすべて設置し終えた俺は、左側奥の部屋へと向かった。俺がここに向かう時に幻術やら別の物も発動させている。だから今ここに俺が来てる事をわかっている人は誰もいない。
「ちゃちな魔道具使ってるな……。いや、この程度なのかこれでもダンジョン産なのか……」
左側の一番奥の部屋は魔道具によって隠されていた。たぶんミヤビもこの辺りの違和感は感じていたと思う。逆に言えばその程度のものでは、俺には目立つものにしか見えない。キレイに開いた空白地帯とでも言う感じだろうか?
そしてこの先にあるのはこの屋敷に入ってからずっと感じてる非常に気に入らない効果を持つ魔道具だろう。そう思いながら部屋の中に入って行った。
「俺じゃなければ中に入れなかったかもしれないな。シーリアにいじる許可は得てるしさっさとやるか」
そこには更に見つけられないように隠して魔道具がおいてあった。ここにおいてあった物の効果は監視と言えば聞こえはいいかもしれないけど、ようは屋敷内部の盗撮と盗聴をするものだ。
何の為に誰がつけたのかは知らないが、許可なくこんなものを設置されてはたまったものじゃない。しかもこれは、盗撮盗聴エリア内に居る者達から少しずつ魔力を吸い上げて動作するタイプのものだったのでさっさと回収する事にした。
弱い隠ぺい用の魔道具も回収して、床板を張り靴箱を設置してから俺の作った魔道具も設置。転移魔方陣も敷いてしまう。動作チェックを行ってから部屋を出た。
「さてと、このまま必要のない魔道具は全部回収させてもらおうかね」
俺が感知できた魔道具はまだある。外敵に対する効果を持つものはいいとしても屋敷内部に効果を及ぼすものもある。気分は盗聴器の捜索と回収だろうか? 気分が悪い。
色々とやり終わった後は四人で夕食を作る事になった。俺、トウカ、カヤ、メイドさんだ。
「これは私達の仕事ですから」
と俺とカヤは最初、メイドさんにこう言われて追い出されそうになった。しかし、トウカに色々と教えないといけないし、カヤも教えると約束している。その為強引に作り始めた。
最初はメイドさんだけギスギスしていたが、最終的にはこちらに引きずり込んだ。俺の特級料理は伊達ではないのだ。しかも指導スキルで教える方も完璧。失礼だとは思いますがご指導よろしくお願いしますとまで言わせた。
そして食事となった。
「城でもこんなおいしいもの食べた事がない」
「そう言ってもらえるなら嬉しいよ。だけどまだ俺が一緒じゃないとここまでにならないからなるべく教えられるときは教えておくよ。俺が居なくても十分に美味い料理は出てくると思うけどな」
「それでもこれを一度食べるとな。冒険者だとここにいない事も多いだろう。なるべくここに帰って来るんだぞ」
「はいはい」
こうしてシーリアは完全に胃袋を掴まれた形となった。それに里の食材は王都では流通していない。おかしなことは考えてないとは思うが早いうちにこちらに完全に引き込めたらなと思っている。一番の問題はおそらく使用人がどれだけ国と繋がっているかだろうけどな。……もしかして全員?
「そうそう、父から言われてる事があった。子供は早く作れ。だ、そうだ」
「言い方は悪いけどしがらみが多い方が王国としては俺を繋ぎとめておけるから安心なんだろうな」
「それもあるだろうが、祖父としてただ可愛がれる孫がほしいそうだ。兄や姉の所に王が行くのは色々問題があるからな」
「そもそも王が直接出向くなんて事がまずいだろ……」
「父はけっこう自由な人だよ。今は忙しくてそれどころじゃないけど。忙しくて時間が取れないにも関わらず無理やり特級昇格試験には顔を出して更に忙しくなったらしいけど」
俺からすればあの特級試験でみた王様っぽい人って感想しかないが娘から見るとそんなものなのかなと思った。
ふらりとやってきて、遊びに来たぞ。とかやりかねないのかもしれない。




