60.姫様
話しながら待っているとコンコンとノックの音が聞こえた。声をかけ入室を促すと性格が軽そうな、でも服装のしっかりした男と訓練場で豪華な人の横に居たお姫様っぽい人もいた。
その二人も席に着いた。
そのお姫様っぽい人は俺の白とは違い銀色に輝く髪を腰まで伸ばし、背の高さは女性の平均的な高さ、胸は少し大きめといった感じだろうか? どちらかといえばきつそうな目つきをしている。
「やぁやぁ、お待たせして申し訳ないね。君たちと色々とお話しするための資料を持って来ていたらついつい時間がかかってしまってね」
「いえ、スイナは昨日パーティに入ったばかりですし、こちらはこちらで色々話すことはありましたから」
「それはよかった。君たちの事は見させてもらっているから自己紹介はいらないよ。と言う事でまずは私の紹介からだ。財務関係を取り仕切っているバラドラーマ・コンセンサという。よろしく頼むよ。そしてこちらが」
「私の名はシーリアだ。さきほどの試験の結果、私は君に嫁ぐことになった。君が望めば貴族にもなれるがどうする?」
「地位や名誉に興味はないので」
「その方がいい。慣れてないものがやったところで食われるだけだ」
ふ、っと薄く笑うお姫様。ずいぶんと正直な姫様のようだが、こちらとしては話やすい。話しやすいがすでに嫁ぐことになったとか言われた。フラグがばっちりたってたな……。
「姫、話には順序があるのですよ? 無視して嫁ぎ話をしないでくださいよ。それにすでに決定事項のように言わないでください。いくつか条件を満たしてもらわないとダメなんですから」
「それをするのはお前の役目であり、成功させないと王にどんな説教食らうかわからないのだろ? それに失敗したら私はまたあの男の婚約者になるのだぞ? 死ぬ気でやれ」
「精いっぱいやらせてもらいますけどねぇ」
今の言葉で確信したが、この姫様どうやらあの吠えてた男との婚約が嫌そうだ。誰がどう見ても絶対誰があんなのの嫁になるかというのが書いてある。だから俺は質問してしまった。
「あの男が嫌いですか?」
「大嫌いだ。若手の騎士で家柄も良く、実力も上の方だ。それでも、あの愛のささやきを聞くと体が震える。あんな気持ちの悪いセリフをよくもまぁポンポン言えるものだと思うよ」
「それよりはポッと出の冒険者の方がいいと?」
「そんなところだな。とはいえ嫁になるからといって肌を晒すかどうかは別の問題だがな」
「すでに三人いますし、もう一人予定してる人がいますから無理にすり寄って来なくても大丈夫ですよ」
「それは気が楽でいいな。養われるだけの無駄飯ぐらいだがよろしく頼むよ」
「何か仕事を覚えてくれると助かるんですけどね」
「その辺は今後相談していくとしよう」
エリナ達がどう動くかわからないが、だいぶ気楽に接する事ができそうだ。女は生まれながらの女優というからどこまで信用できるかはまだ判断しきれないけどな。
「お二人が仲良くなるのはいいのですが、条件をですね。満たしていただかないといけないわけでして……」
「それでその条件は?」
「細かい事は後にするとして大まかに言えばこの国の利益、防衛力となるようにうごいてほしいと言う事ですね」
「使徒と戦争始めたら最前線で戦えって事ですかね? 他にも攻めてくるかもしれませんが」
「ぶっちゃけるとそんな感じですね。その代わりこちらで新居は用意いたします。人も最初のうちはこちらで費用をもちましょう。他に欲しいものがあればご用意いたします。その力、この国の為に使ってはいただけませんでしょうか?」
欲しいものが手に入る。実に都合のいい話だ。使徒との戦争というのも現実として起こるかわからないし……起こる気配があるから誘われてるんだろうけど、準備さえ整えておけばなんとでもなるだろ。
「今欲しいものと将来ほしいものがありますがそれを飲んでいただけるなら力になりましょう」
「可能な限り応えて見せましょう。それで望むものは?」
「あくまで一冒険者としてもらいたいので強制的にこちらのものを取り上げるような事はしないでいただきたい」
「それは当然でしょう他には?」
当然と言ったが転移魔方陣の事が知られた場合もそれは出来ない事になる。それでも無理やりやろうとすれば約束が違うと色々やれるので問題はない。
「それで後はですね」
それから俺は自分の要望を伝えていった。一番はサークリスを再び作り上げる為の土地の確保だ。これは開拓許可を出すのでその辺りをいじりまわして問題ないと言う事になった。
それでいずれこの地を統治する人がほしいと言ったのだが、それに関してはそこの開拓がうまくいったらという事になった。
それと新居の人員は最低限にしてもらった。日中は巫女達にきてもらって仕事をしてもらおうと思っている。そのため、一部区画を姫達からは干渉できない場所にしてそこに転移魔方陣を敷く予定だ。
ただ、巫女さん達ではこの国の人に対する対応がしきれないと思うのでそこはメイドさん達に期待する事にした。
それ以外にも細々した物を決めて行った。暇になったのか女性たちは仲良くお話し中だ。髪をかき上げるしぐさなどなど絵になる姫だが、仲良くはできてるようで良かった。できなかった場合は家の中で接触をしないように色々仕切る必要もあったがその必要はなさそうだった。
「いやぁ、大変有意義でした! 開拓ができれば税収が上がるので期待しておりますよ」
「ゆっくりやっていくつもりなので期待はほどほどにしてください」
「いえいえ、私はこの事を陛下に報告して来ます。……っとそうでした。流れでここまで来てしまい言い忘れていたことがありました。」
「なんですか?」
ここまできて言い忘れていた事とはいったいなんだろうか? 少し身構えてその言葉を待つと、
「本日の特級試験おつかれさまでした。お三方の特級昇格おめでとうございます」
「本当に今更ですね!」
「私も自己紹介の後言うつもりだったんですよ? ですが姫とあなたの話の流れで流れてしまったんですよ」
「あー確かに……」
「なんだ? 私が悪いと言いたいのか?」
女子同士で話していたところからこちらに姫が声をかけてきた。バラドラーマは慌ててそれを否定する。いつ完全に王族から離れるのかわからないけど今はまだお姫様だろうし下手な事はいえないのだろう。
「それほどうろたえるな。私が権力で何かするはずないだろ? エリナもミヤビも見事なものだった」
「ありがとう」
「お恥ずかしい限りです」
「何、私も最初に言わなければいけなかったのだが、どうにも話をするのが楽しくて後に流してしまった。スイナの冒険譚もなかなかのものだった。すぐではないにしろ一緒に暮らすんだ。また話をきかせてほしい」
「もちろん」
俺は本当に仲良くなったなぁと思った。良い事だね。
「それでは今日はここまでとしましょう。荷運びなどが終わってから屋敷には案内させてもらいます。今、拠点にしている場所を教えていただけますか?」
「あー……。実はダンジョンで見つけた魔道具を使って人が近づかないようにしてるんですよ。ですからギルドにでも言付けお願いしておいてください」
「そんな事しなくてもすでに荷物はまとめてある。明後日には搬入も終わるだろ? だったら余裕を見て明々後日にどこかで合流してくればいいだけの話じゃないか」
「それならその方が楽ですね」
「……でしたら、三日後の昼頃に冒険者ギルド前にいたしましょう。それでよろしいですか?」
「問題ないですよ」
「では、そのように今日はここまでとしましょう。おつかれさまでした」
「また会う時を楽しみにしているよ。それと君は私の事をこれからは姫ではなくシーリアと呼んでくれよ」
「わかりました。シーリア」
「口調が固い」
「……わかった。これからよろしくシーリア」
「よろしい」
そう言ってフッと笑ってシーリアは出て行き、バラドラーマも一緒に出て行った。その後に来たメイドさんに案内されてようやく城から出る事ができた。
正直疲れたのでさっさと帰りたい。
「おつかれさま」
「あぁ、そっちはそっちで仲良くなったみたいだな」
「うん、お姫様だからどうかなって思ったけど、きっと大丈夫だよ」
「それは良かった」
「それにしてもすでに新居が準備されているってのはどういう事なんだろうね? 荷物もまとめてあるって言ってたけど」
「元々もうすぐあの男の人と一緒になってそっちに移り住む予定だったんだって」
聞かなきゃ良かったって思うよ。




