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6.森初戦

 朝食をとった後、混雑するギルドへとやってきた。十五歳になり孤児院を出る前は起きてすぐにパン一つだけもらってギルドへやってきて、級外の依頼が張り出されるのを待って飛びつくように依頼を受けていた。

 それがたった三日前の話だ。しばらくは来るなと言われた孤児院が懐かしい。来たら確実にお金を置いていく俺の生活を心配しての一言だとわかっていても来るなはひどいよなと思ったりもした。


 なにはともあれ、この程度の混雑慣れてるのだ。それに今から依頼を見る九級は元々常時依頼ばかりなのでそれほど人もいない。

 内容は、ゴブリン退治、ウルフ退治、毒草の採取等々だ。

 毒草は処理して解毒薬になる。他の体に悪そうな植物の採取依頼は大体処理して薬にするのだ。それと九級の依頼は森の中がメインになるものが多い。森の外の依頼もあるが依頼料が低かったり、非常にめんどくさいものばかりだ。

 ギルドの思惑が透けて見えるようだった。そんな訳で今日は南西方向にある森へと向かう事にした。




 パーカーという服のせいで少しばかり視線を集めたが気にせずに森にやってきた。

 戦う事に関しては何の心配もしていない。ただ、今日初めて人型を殺すことになる。肉屋の解体の手伝い依頼とかを受けた事はあるので血には慣れてる。

 ゲーム内では問答無用で叩き潰していたが同じことができるだろうか? そんな不安に襲われたが冒険者という仕事を続けていくなら避けては通れない道だろう。

 下手をすれば人を相手にしなければいけないのだ。人型程度で弱音を吐いてはいられない。そう決意して森の中に入っていった。




「そして悩んだ結果がこれか……」


 俺のまわりにあるのはゴブリンの首なし死体。最初だからこそ魔法を使わずに剣でと思って五匹のゴブリンに奇襲をかけた。


 意識を研ぎ澄ませてゴブリンに反撃する時間を……いや、驚きから立ち直る隙すら与えずに続けざまに五匹の首を切った。

 そしてそれを見てもこれで終わりか程度の感想しか出てこなかった。ここは血を見て吐いたりするのがセオリーなんじゃないのか? そういうのがないパターンも確かにあったけど。などと小説知識を思い出していた。

 思い返してみれば十二歳からギルドで町中の依頼を受けて来て血を見る機会などいくらでもあった。初めて解体手伝いに行った時だって


「初めてのやつはこれみてゲーゲー吐く奴が多いのにお前は平気なんだなぁ」


 なんて言われてた。つまり心配する必要もなく大丈夫だったみたいだ。いや、人型は初めてなのだから不安に思うのは正しい判断のはずだ。予想以上に平気で逆に俺っておかしいのかと少し焦ったくらいだ。


 ゴブリンの胸を開き、魔石を取り出し、魔法で水を出して血を洗い流してから袋に閉まった。

 死体は出来れば燃やす、土に埋めると言う事になっている。死体が残っていれば魔物の餌になり数が増えてしまうからだ。

 とりあえず三匹は土の魔法を使って土の中に飲み込ませた。残りの二匹分は風の魔法で魔物がいる方に血のにおいを流した。


 俺の感知できる範囲の人はどこにいるか確認している。その人たちがいるのとは反対側にいる魔物に風を送り血のにおいでおびき寄せる。

 俺は俺で風を纏ってにおいが漏れないようにしつつ、アクアに支援魔法をかけた。


 移動速度から次の相手はウルフだとわかった。肉も売れるし毛皮も売れる。解体はギルドで買取り金額から手数料を引かれるがやってもらえる。だから今からやるのは傷の少ない死体の作り方。……サンダーニードルでいいか。


「アクア、ウルフだけど行くか? それともこれは見送ってゴブリンとまずやってみるか?」


 腕にのっけたアクアは伸びたり縮んだりして、ウルフとやり合いたいらしい。三匹ほど近づいて来てるから二匹はこっちで倒して一匹はまかせてみよう。


「それじゃ降ろすぞ? 一匹だけ流すから思う存分やってみろ」


 そう言うとやる気満々なのかそのまま飛び降りた。風を使って降りる時の衝撃を和らげようとか思ってたけどまったく問題なく飛び降りた。これくらいは余裕でできるくらいに能力が上がってるのか……。


 そんな事を思ってる間にウルフがやってきた。二本のサンダーニードルをウルフの頭に突き刺して倒した。ウルフくらいの速度なら問題なく狙ったところに当てられる事がわかった。

 先頭だった最後の一匹は仲間がやられたのにも気づかずにアクアへと飛びかかった。アクアはコロコロっと前に出て下から上へと飛び上がった。キレイに顎に入り上に飛ばされて落ちた。


「アクア、まだ息があるから止めを」


 俺の指示を聞き落ちたウルフの腹に体当たりを食らわせてウルフは完全に死んだ。ピョンピョン飛び回ってアクアも嬉しそうだ。問題なさそうなのでアクアはこのまま下で魔物と戦ってもらう事にして、ウルフを回収しまた風を操って血のにおいを運び魔物をおびき寄せた。


 アクア対ゴブリンは一対三でも支援込みのアクアが圧倒した。魔法効果が切れた所にゴブリンが来た時は一対一でやらせてみたが問題なく勝てるようだった。


 最終的にその場所ではゴブリン二十三匹、ウルフ十四匹倒すことができた。上々の結果だけど呼び寄せていたので近くに魔物はいなくなってしまった。

 奥に行こうかと思ったけどやめることにした。この数だけでもゴブリンは四回分、ウルフも四回分の依頼を達成したことになる。一日の成果としては十分だ。

 ウルフの解体を頼むのであれば人の少ない時間に行った方がいいだろう。魔石だけ先に取り出してもらって換金してもらって解体の待ち時間を使って資料室で色々と資料を読むのもいいかなと考えながら帰った。





 ギルドの横にある道を入り解体場に直接入った。


「らっしゃい。用件はなんだ?」

「ウルフの解体お願いしたいんですけどいいですか?」

「おう、いいぜ。一匹からでも受けるぜ。その代わり売り上げの二割こっちでもらう事になるがいいか?」

「はい、お願いします」

「それでウルフはどこだ?」

「む……空間収納の中にあります」

「そうかそうか、んじゃちょっと待っててくれ。おーい! 客だ案内してくれ!」


 おっちゃんに呼ばれた案内の人に連れられて中へと入っていった。無限倉庫って言おうとしたけどこっちでは聞いた事がなかったのでわかりやすい方を選んで言ったのだ。

 解体場では何人かが仕事をしていたが広い場所の割には人が少ない。おそらくまだメインの時間帯じゃないからだと思う。


「それじゃここに出してもらっていいかい?」

「はい、お願いしますね」


 無限倉庫の中から十四匹を次々と出すと職員さんの目が丸くなってた。いきなりこれだけの量出されたらびっくりするか。


「あの」

「は!? ちょ、ちょっと待っててね! 応援呼ぶからね!」


 その後に来た応援の人たちにも頼んで魔石を先に取り出してもらい、ギルドに報告に行った。この時に二匹分の肉は後で受け取りたいとお願いしておいた。今は手が空いてる時間なので人海戦術で一気にやってくれるそうだ。資料室に行ってる時間はないらしい。


「それで今日の成果がこれね。この成果見るとどう考えてもユキト君の能力が上がってるんだけど体は本当に大丈夫なの?」

「まったく問題ないですよ。むしろ調子がいいくらいです」

「そう……この調子だとあっという間に八級に上がりそうだね。どこかクラン探しておく?」

「いえ、クランに所属する事は考えてないです」

「そうなの? いつまでもソロだと必ず行き詰まるし、危険だよ?」

「それでもソロでやってくつもりです」

「そう……。そういう人もいるけどね。無理しちゃだめだからね」


 心配してくれるのは本当にありがたいが、クランに所属する気はなかった。

 クランというのは元々はパーティが大型化したり、横のつながりで親しくしていたパーティ同士が集まり、情報を共有したり住む場所を共同で確保したりした事から始まっている。

 それをいつの頃からかクランと呼ぶようになり、王都で冒険者を続けていくのならどこかに加入するべきだと言われている。

 だが、クランに入ると王都が拠点になるのでどうしても行動が制限される。

 ゲーム時代のホームがあった場所も気になるし、連合国にある里にも行けるなら行ってみたい。

 でもまずは孤児院に恩返しするところから始めようと思ってる。そうしてある程度恩を返せたと思ったら他の町に行ってみようと思う。


 力の解放前はそんな事考えた事もなかった。きっと生きるのに手一杯でそんな余裕が生まれるなど思ってもみなかったのだ。それが今ならある程度色々な事ができる。もちろん俺が最強! みたいには思ってないがそれでも一級以上の実力があるはずだ。実際全力で力をふるった事がないのであくまでもゲームの時の感覚をこちらにあてはめた予想ではある。実際にアーマードボアを素手で殴ればこの感覚がもっとはっきりするだろうか?


「実際にパーティ組んだら相手の方が大変そうですけどね」

「あ~、それはあるかもね」


 そんな風に言ったらスイナさんも笑って同意してくれた。実際俺と同じランクで組めば俺の方が圧倒的に強くて組んでる意味がない。高いランクと組めば俺のせいでまともな依頼が受けられない。けっきょくソロになりそうな気がした。


「それじゃ今日もおつかれさま。ウルフの解体頼んであるんだよね? もらうの忘れないようにね」

「そうですね。しっかりもらって帰ります」


 スイナさんに挨拶してからしっかりウルフの代金と二匹分の肉を受け取った。無限倉庫なら腐らないから次に孤児院に行った時にチビらにご馳走してあげよう。

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