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59.試験

 まさか始まる前に一波乱あるとは思ってもみなかったが、ミヤビの試験が始まった。


 ただ、相手が悪い。ミヤビの最近の対人戦は俺との訓練だけで、しかも相手に対する対処などよりも、技術の習得に努めて来た。

 一方相手は騎士だ。外回りとはいえ様々なタイプの武器を相手にする事もあるから対処法も知ってるはずだ。


 だからと言ってミヤビに勝てる可能性がないわけじゃない。魔法で強化、相手の妨害、回復と防御主体のカウンター狙いならいけると思ったがミヤビはそれをしなかった。

 自身の強化はしているが、真正面から倒すつもりだ。ミヤビが冷静ではない様子が気になる。


「ミヤビさんは大丈夫かな?」

「大丈夫じゃない。正面から倒すことに意識が向きすぎてる。あれじゃあ勝てない」

「ユキト君……あれだけ戦えれば特級には上がれると思うよ」

「そうとは思いますけどね」


 ミヤビの攻撃が届く事もあるがどうにも浅い。体制を崩させるために受け流したり色々してる相手の思惑通りにはならずに体制を崩して決定的な隙を見せる事はないが、相手に押されている。

 それにしても両手剣をあれだけ動かすには相当な筋力が必要だ。技術も力もあり、ミヤビほどではないが速さもある。金属鎧であれだけ動くとかどんな体力してるのかと思う。俺もやろうと思えばできるがうるさいから絶対にやらない。


 周りは見逃すまいと目を見開いてみている。あの騎士団長も全力に近い状態で戦ってるのだろう。これだけの戦いを見る事はそうそうないのだと思う。


 しかし、状況が動いた。今までは反応し切れなかったミヤビの小さな隙をついて両手剣を思いっきり振りぬいた。

 なんとかグレイブを盾に直撃は免れたものの吹き飛ばされ、ゴロゴロ転がっている。

 あいつ後で殴ってやると思ったが、これで一旦距離が離れて時間ができた。試験はここまでだろうと思った。だがその前にミヤビから今まで感じた事のない力が噴き出して光を纏ったまま相手に向かって突撃した。


「まずい!」


 相手とミヤビの攻撃が交差するその地点に瞬間的に移動した俺は双方の攻撃を魔力を纏わせた手で止める。


「なんと!?」

「ユキトさん?」

「ミヤビそこまでだ! 相手を殺すつもりか!」

「ですがこれくらいなら」

「自分の体の状態を確認してからそういう事は言ってくれ。最後の一撃見てたな」

「……あぁ」

「俺が止めなければどうなってたか。理解してるな」

「死んでいただろうな……」

「なら試験はここまでだ。ミヤビはとりあえず瞑想しつつ落ち着きなさい。進化したのもあるのか気持ちが高ぶってるみたいだ」

「進化……?」


 進化する事で見た目が大きく変わる種族もいればそうでない種族もいる狐人族の進化は基本しっぽの数が変わる。

 ミヤビはそのしっぽが四尾になっていた。二尾、三尾はどうしたと思うがとにかく四尾になっていた。


「普通なら祝ってやりたいところだが今はダメだ。待機場所に戻って瞑想。いいね?」

「は、はい……」


 なんか色々起こって処理し切れてないようだ。まぁそんなもんだろうなぁと思う。何が進化を促したのか。まったく俺にはわからなかった。




 続いてエリナだったのだがあっさり片が付いた。これは時間内に最大火力でという試験だった訳だが、


「ヴァルキリー! ランスチャージ!」


 ヴァルキリーを召喚してそのまま一点突破のランスチャージ、防御した宮廷魔法使いはあっさり防御を抜かれてそのまま貫かれそうになったので槍を掴んで無理やり止めた。良い子はけっして真似をしてはいけない。ヴァルキリーは全身力の塊なのだ。普通にランスを触っただけで大けが間違いなしなのだ。魔力を纏っているからこそできる荒業である。


「光の遺失魔法、ヴァルキリー……まさかこの目で見られることになるとは……」


 腰抜かして座り込んでた宮廷魔法使いがそんな事を言いだした。ヴァルキリーも失われた魔法の一つだったのか。そうじゃないかなぁとは思ってたけどこれで特級へのアピールは万全であるはずだ。


「おつかれエリナ」

「うん、それとありがとう。まさかあんなにあっさり防御抜けるとは思わなかったよ」

「気にするな。でもまさか二連続で俺が最後の攻撃を止める役目になるとは思わなかったよ」

「私達二人が特級に上がったら、その攻撃を止められるってだけでユキトくんも特級だよね。そんな事しなくてもユキトくんは私達より強いけど」


 そんなんであっさりと終わってしまい、最後に俺の出番となった。




 とはいえ、相手のどこを見ても強者の雰囲気がしない。なんでこんなのが相手なのだろうか?


「貴様は私が倒す! 化けの皮剥いでやるぞ!」

「さっきの見ててそれを言うのか?」

「うるさい!」


 うるさいのはお前だと言いたいところだが開始が宣言されてしまったので試験開始。俺は片手剣を持って相手の攻撃を回避したり、受け流したりしていた。

 受け流すと面白いように体制を崩すのでその度に蹴りを入れて吹き飛ばしていた。パターンにすれば反撃してくるかと思えば何度やっても同じ展開、しっかり立ち上がって来るのは評価したいがそれ以外はまったくダメだった。


「いい加減降参してくれないかな? 弱い者いじめみたいで嫌なんだけど」

「うるさい! 貴様、貴様だけは私が倒す! 愛する者の為に!!」

「そっちの都合押し付けられても」

「貴様に勝たねば、貴様に私の婚約者を奪われるのだ! 私は心の底から姫を愛している! だから貴様を倒す!!!」


 めんどくさい展開来たというのが正直な感想だ。しかも姫とか言った。それってつまり例の姫なのだろうか?


「シーリア姫?」

「貴様が姫の名前を口にするな! 姫が穢れる!」


 名前を言っただけで穢れるとか言われるとは……。今の俺なら無理を通そうとした奴を殴り飛ばせるし逃げられるけど普通はそうじゃないよなぁと思いつつ、これに愛されて愛してる人が嫁にくるとかものすっごい不安でしかない。

 かと言って負けるのもどうかと思う。すでに俺は騎士団長とミヤビの間に入り、双方の攻撃を止めたり、宮廷魔法使いが張った防御を突破した魔法を素手で捕まえたりとしている。それなのにこの程度の相手に負けるとかありえない訳だ。


「これ以上はないか」

「いくぞ! これでもくら」


 これ以上は必要ないと判断して戦闘を終わらせた。魔力を叩きつけてちょっと頭を揺らしてやったらそれで終わりだ。つまりその程度の相手だった訳だ。




「では、真打登場と行こうか」


 そう言って出てきたのは先ほどいた総団長だった。真打ってなんだ真打って、もしかして今までのは前座か? うわぁ……時間を無駄にした。


「真打?」

「私と戦ってもらおう。それが本当の試験だ」

「……わかった。さっさと始めてくれ」


 開始の合図が告げられ一呼吸置いた後、総団長は壁に叩きつけられ動けなくなっていた。

 俺が近づいて殴り飛ばした。見た目だけではそんなもんだ。本当は色々とやってるけどな。

 周りが呆然としたなか俺達の昇格試験は終了した。




 試験の終わった俺達は今度は城の中に案内されて豪華な部屋でくつろいでいた。ちなみに今いるのは俺達だけで、ギルドマスターはギルドへと帰っている。


「ミヤビは落ち着いたか?」

「はい、ご迷惑をおかけしました……」

「どうして急に進化したのかはわからないけど、落ち着いたなら言っておくよ。おめでとう」

「あ、ありがとうございます」

「エリナも見事な一撃だったよ」

「私もまさかあんな簡単に突破するとは思わなかったよ」

「ミヤビもエリナちゃんもすごかったよ。ユキト君の最後のアレで全部持っていかれたけど」


 最後のとはもちろん総団長があっという間に戦闘不能に陥ったあれだ。周りは確かに呆然としてたしな。


「手ごたえがないとはいえ試験が終わったと思ったら、ここからが試験だ! とか言うもんですから、めんどくさくなって」

「それであれってどうなの?」

「見た目は派手でしたけど、実際気を失ったのは魔法のせいだし魔法で保護もしてるガ一つなく寝てるだけだよ」

「それを一瞬でやるってどういう事……」

「そういう風に設定してあるから引き出すだけですよ」

「私の知ってる魔法と違うよ」

「イメージ次第でどうとでもなるのが魔法ですから」


 こんな風に話をしながら時間を潰していた。早く誰か来ないだろうか? そもそも呼び出されて何の話をされるんだろうね。

おまけ



ミヤビサイド


 私はグレイブで思いつく限りの攻撃を繰り出す。

 戦い始めてすぐにこの攻撃的な戦い方では勝てないとわかってしまった。


 普段相手にするのは魔物ばかり、訓練は色々と手を変え品を変えやってくれるとはいえ基本的に私に合わせて戦ってくれるユキトさんのみ。圧倒的に対人戦闘経験が不足している。


 それに対して相手は普段から騎士たちと戦う、もしくは指導する立場に居る人だ。能力的には多少劣るくらいしか違わないと思った。それでも圧倒的な経験の差で私は攻められない。


 勝つのならばもっと防御主体にして、魔法を使い時間をかけながらじわじわと削れはいずれは勝てる。だけどそんな事はできなかった。


 私が求めるものはユキトさんを支えられるだけの力。あの程度の相手に消極的な手段で勝っても何にもならない。ならば今は負けると思っていてもひたすら全力で目の前の敵を倒すという経験を積む時だと判断した。



 だけど相手だって私を見ていた。私の動きをダンダン覚えてきている。

 不味いと思った時は体が吹き飛ばされていた。

 もう、ここまでかと思った。だけど、心の奥で私が叫ぶ。

 この程度で諦めるのかと、この程度で本当にユキトさんの役に立てるのかと、ランクが並ぶのだぞと。


 私には冒険者をやって培ってきた知識はある。だけど、スイナさんの事を考えればもうそんなものはなんの役にも立たない。

 私にできる事はなくなってしまうのではないか?

 ……いらないと言われるのではないか?


 そんな事はないと否定しながらも一度思ってしまえば心にこびりついてしまう。

 ならば今自分にできる事は何か? 勝って自分の強さを多少でも認めてもらう事。ユキトさんにはかなわなくてもこの世界の最強クラスの者には勝てると言う事を見せるしかない。

 すべては私がユキトさんのそばに居る為、居られ続ける理由の為に。ただひたすらにユキト様のお傍に置いて頂く為に私は!


 そう思った時に心の殻が割れたような気がした。さきほどの心の底にいた私がふっと上がって来て私に言った。


「ようやく私は私の力になれる」


 私は突き動かされるままに相手に向かい武器を振るう。そして結果は、


「ユキトさん?」

「ミヤビそこまでだ! 相手を殺すつもりか!」

「ですがこれくらいなら」


 私は立ち上がり攻撃をしたがこれくらいの攻撃止められるのではと思った。


「自分の体の状態を確認してからそういう事は言ってくれ。最後の一撃見てたな」

「……あぁ」

「俺が止めなければどうなってたか。理解してるな」

「死んでいただろうな……」


 意味が分からなかった。あの一撃で死ぬ? そんなことがあるはずがない。でも自分の体の状態とはどういうことだろうか?


「なら試験はここまでだ。ミヤビはとりあえず瞑想しつつ落ち着きなさい。進化したのもあるのか気持ちが高ぶってるみたいだ」

「進化……?」


 おばば様も進化してしっぽが増えた。つまり私のしっぽも増えているのだろうか?


「普通なら祝ってやりたいところだが今はダメだ。待機場所に戻って瞑想。いいね?」

「は、はい……」


 私は混乱していた。だから今はただユキトさんに言われたままの事をしようと思う。力を暴走させて人を殺しそうになり、ユキトさんに止められた。


 ……もし嫌われたりしたら、もう生きてはいけない……。




エリナサイド


 私の試験は単純で時間内にできる最大火力をというものだった。

 なんでそんなに制限時間が長いのかな? って思ったけど、ユキトくんと出会う前の私と今の私を比べたら全然違う。だからきっと今の私の感覚がおかしいんだって思う。

 だけどそれがユキトくんと行動するということ。私はもうユキトくんなしじゃ生きていけないと思う。

 離れても帰って来てくれるってわかってれば我慢できるけど、もし嫌われちゃったら……。たぶんその時点で私は壊れてしまうんじゃないかなって思う。

 実際はもしかしたら平気だったりするのかな? そうなったらそうなったらで呆然としちゃいそうだけどね。


 開始の合図が出た。深呼吸してイメージを固める。時間はあるからいつも以上にしっかりと、見た目はユキトくんに教えてもらった通りだけど攻撃のイメージはユキトくんのイメージ。

 きっとどんなものでも貫き通す。ユキトくんは俺一人じゃ戦えない強大な魔物がいっぱいいるぞって言うけど、私にはユキトくんが傷を負う事すら想像できない。

 私にとっての最強のイメージそれはユキトくんになる。

 だからそのイメージをヴァルキリーに乗せて解き放つ。


「ヴァルキリー! ランスチャージ!」


 それでも向こうだって十分に防御を練っているはずだからそれなりに持ちこたえて威力が落ちて平気だと思ってた。だけど防御はあっさりと抜かれてそのままだとあの人に突き刺さってしまう。そう思ったら、ユキトくんが掴んで止めていた。

 常識外れな人だと思う。だけど私にとって、そして私達にとって最高の夫だと思う。


「おつかれエリナ」


 声をかけられるだけで笑顔になってしまう。私は本当に本当にこの人の事が好きなんだなって思う。 



ちょっとした閑話みたいなものでした。

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