58.試験前
縁もゆかりもない場所だと思ってた王城の前についてしまった。あっちに居た時はサークリスの裏の支配者みたいになってた為に呼び出されたりしたけど、まさかこっちでも来る羽目になるとは思ってもみなかった。
「冒険者ギルド南支部のマルスールだ。今日は試験を受ける者たちを連れて来た」
「は! 話は聞いております。案内の者を連れてまいりますので少々お待ちください」
「うむ」
仮にもギルドマスターだし、連絡も来てるなら何の問題もないよなと思っていたのだが、走っていく兵士の言葉が俺に届いてしまった。聞くつもりはまったくなかったんだがな。何を言っていたかと言えば、
「あのおっさん誰だよ。他は特徴一致してるしスイナさんもいるけど……」
だった。ギルドマスターってあんまり表に出る仕事じゃないんだなぁなどと思った。このおっさんに表に出て仕事するだけの能力があるか疑問だが仮にもギルドマスターだしなんとかなるのか?
なんだか緊張しますとかそんな事を話しながら少し待っているとさきほどの兵士と見た目騎士っぽい人が一緒にやって来た。
「こちらの方がたです」
「あぁ、ご苦労。皆さん、お待たせして申し訳ありません。私は第三騎士団所属副団長のアルメディアです。皆さんの案内をさせていただきます」
「マルスールだ。よろしく頼む」
「はい、では皆さんついてきてください。くれぐれも離れないようにしてくださいね。不審者として捕まってしまいますから」
ここまできて不審者にはなりたくなかったので、ついて行く事にした。しかし、第三騎士団か。
「エリナ、騎士団っていくつあるか知ってるか?」
「第三までだったと思うよ。お城警備の第一、貴族の第二、平民の第三って習ったよ」
「あながち間違ってはいませんが、ざっくり過ぎる説明ですね。学校ではその程度にしか教えてないのですね」
「え、あ、はい」
「では、せっかくなので少しご説明しましょう」
そう言ってアルメディアさんは騎士団について教えてくれた。
「第一は城内を守る者たちになります。場内という場所柄、他国の要人も来ますので武力以外にも礼儀作法なども必要となり、腕があり人格者のみが第一に所属できます。最初から腕がいいものなどいないので第二や第三からの移動になります。第二は貴族街の警備もしますのでそれ相応の身分がないと騎士の身の方が危険になりますのでこちらも貴族中心になります。そして第三ですが、主に外回りの仕事が多くなります。そうなると外の様子がわかって、ある程度妥協する事ができる平民出身の騎士が多くなります。ですが、貴族出身者も多数在籍していまして、将来第一に移れるように日々努力を重ねているのですよ」
「適材適所という事ですね。ついでに第三は人材育成もやっていると」
「その通りです」
貴族と平民をわけておくことで無用なトラブルを回避、一緒にやる第三はそれを覚悟して入れよ? って事だろう。裏の理由なんていくらでもありそうだ。
「平民でも教わって礼儀作法を覚えると第一に行けるんですか」
「礼儀作法を身に着けるのは大変ですし、それを自然と行うのはさらに長い期間がかかります。ですから礼儀作法に時間を取られるよりはと皆、訓練に勤しんでおりますよ」
「そうなんですか」
「エリナ、それもあるけど平民ってだけで見下す人もいるから迂闊に入れられないんだよ。トラブルを防ぐ人たちがトラブルの元になったらどうしょうもないだろ?」
「確かにそうだよね」
「その通りではあるんですがね」
そう言ってアルメディアさんは苦笑いしていた。わざわざ言わなくてもいい理由だしな。
そうしてお城とぐるっと回る形で側面というよりは後方に近い場所まで移動すると平屋建てのひたすら頑丈そうな建物が見えた。
「あの建物が今回の試験会場であり、我々が普段使っている訓練所にもなります。今回は見学者が多くおりますが気にせず、存分にその力をふるってください」
「やっぱり見学者多いんですね」
「アーマードボアを三人で撃破と聞けばその実力確かめずにはいられないでしょうから」
「ほとんどユキトくんのお手柄だから気後れしちゃうよ」
「足に攻撃してダメージ与えたんだからそれは十分に攻撃力があるって事だと思うけどね」
「そうなのかなぁ」
「エリナちゃん、アーマードボアの防御力は物理だけじゃなくて魔法もそうだからね。弱点以外を攻撃したなら普通は二級クラスの実力が必要だからね」
「そういうものですか?」
「そういうものです」
アクアも足切り落としてたなぁなどと思いながらアクアをフードから取り出して腕に抱き撫でてやる。なんとなく嬉しそうだ。
そして、建物につき中に入っていく。
中は体育館というよりは陸上競技場みたいになっていた。観客席にはすでに人が座っていた。なんかやけに存在感のあり、服装が豪華な人がいるが気にしてはいけない。その横に居る人がやけにお姫様っぽくても気にしてはいけない。
入ってきた俺達を迎えてくれたのは、強者の雰囲気を纏う男性と豪華なローブを着たお歳を召した男性。そして俺をやけに睨んで来る比較的若い男だ。最後の男だけ感じる力が弱い。どうしてこの場にいるのだろうか?
「よく来てくれた。第三騎士団団長のバリオットだ。よろしく頼む」
「私は宮廷魔法使いのフィルバリア・コーラリスという。本日の試験どんなものを見せてもらえるか、楽しみにしておったよ」
「第三騎士団所属、エリオット・ダングスレーだ。貴様の力見せてもらう」
先の二人はどちらかと言えば友好的だが、最後の一人はかなり俺に対して敵意を向けて来る。なんでそんな敵意を向けられるのかさっぱりわからないがまったく怖くない。俺が涼しい顔をしてるので更に睨んで来る。
その様子を止める事すらしないのはなぜだろうか? どちらかといえば現在進行形で不機嫌の度合いを増しているこちらの女性陣の方がよほど怖い。手早く話を進めてしまおう。
「この度、特級試験を受ける事になりました。ユキトです。こちらがエリナ、こちらがミヤビとなります。それで試験はどのように行われるのでしょうか?」
「うむ、一対一で戦ってもらう。ミヤビは私とエリナはフィルバリアと、ユキトはエリオットとなる。順番は好きでいいがどうする?」
「では、ミヤビ、エリナ、私の順番でお願いします。使用する武器はどうすればいいのでしょうか?」
「そちらに訓練用のものがある。好きな物を使うといい」
その訓練用のものを見るがグレイブがなかった。仕方なく木製のグレイブを取り出して団長に見せる。
「ミヤビはこれを使ってもよろしいですか? どうやらグレイブはないようですし」
「ふむ、本来そのものの技量を見る為なのでそちらで準備したものは使ってはいけない決まりになっているのだが」
「だったら、服一式全部用意したうえで普段どのような武器を利用しているかを確認して、その上で試験を行うべきではないですか? 技量だけを見たいというならそれ相応の準備をお願いしたい」
「貴様! 誰に向かって口をきいているのかわかっているのか!?」
「こちらはまともに試験内容を聞かされてないんだ。だったらそっちがすべて準備を整えるのは当たり前の事だろ? それともちゃんと実力を測らせずに落とすことがそちらの目的か?」
「貴様……いい加減にしろ!? そうか、道具がないと何もできない屑どもなんだな! 団長、こんなやつら相手にするまでもありません」
「この場の責任者は誰だ? その人に決めてもらおう。こちらとしてはすでにスイナがパーティに入った為に特級の依頼を受ける事ができる。試験を受ける必要すらないわけだが」
まさか、試験開始前に装備でゴタゴタした話になるとは思わなかった。むしろ今まで誰も文句言わなかったのだろうか? 使い慣れた武器以外で戦うとかけっこうめんどくさいから文句も出た気がするんだけどな。
それにいい装備を手に入れるのも実力の一つだ。足踏みしてるから装備で解決というのは気にくわないが、それができる装備だって存在してる。
それを手に入れられる幸運も実力のうちだと思うけれどね。そんなやつは長生きできないだろうけど。
「そちらにいるギルドマスターはどう思う?」
「我か? 我は自分が普段使う武器を使うのが当然だと思うが」
「それで命が奪われたらどうする?」
「双方にその可能性があることを納得させたうえでやればいいだけの話であろう」
なんというか揉めるのもバカらしくなってきた。このまま帰ろうかと考えていると誰かが近づいて来た。
「お前たち試験はどうした」
「総団長……実は」
総団長とか言う人だったらしい。三つの騎士団のまとめ役なのだろうか? 話を聞くと総団長はため息をついた。
「規則規則と頭が固い。今回の事の重要性はわかっているはずだ。しかも木製のグレイブを出しているのだろう? それで実際に戦っている訳ではあるまい。それを使って戦えば良いだろう」
「よろしいのですか?」
「さっさと始めろ。陛下に無駄な時間を使わせるな」
「は!」
時間を無駄に使った。そんな印象を持ちながら試験が始まるのだった。




