55.スイナ
スイナさんは真っ赤になっていた。あうあう言ってるがこれは待っててあげるべきなんだろうか?
「スイナさん、がんばって!」
「がんばってください」
エリナとミヤビは応援し出したし、やっぱりそういう用件なんですよね? あうあう言ってたスイナさんは大きく深呼吸を数回してようやく多少落ち着いたらしい。
「ユ、ユユユユユユキト君! あ、ああああああ、あのあのね!」
「はい」
「私にもエッチな事してください!」
「……はい?」
「あぁぁぁぁぁぁぁ、ま、間違えた。ち、違うの違わないけど違うのそうじゃないの!? さっきエリナちゃんに今夜ゆっくりユキト君に可愛がってもらえばいいって言われたからそれであのだから!」
「もう一回深呼吸して落ち着きましょうね? 落ち着きましょう」
テンパり過ぎて思いっきり自爆したスイナさん。ちょっと過保護なお姉ちゃんって感じがドンドン壊れていく気がした。可愛いからありだけどな。
スイナさんは再び深呼吸を開始したが中々終わらなかった。
「お、落ち着きました。それであれなんです。私もその、ユキト君のそばに居させてもらいたくてですね」
「つい最近、しっかり言葉にして伝えておかないと相手に伝わってない事があるって知ったばかりなので意地悪してる風に見えるかもしれませんけど出来ればどうしてそばに居たいのかを聞かせてもらえますか?」
「うぅ、ユキト君それは本当に意地悪だよ。……でも、ちゃんと伝えないとダメだよね。わ、私スイナはユ、ユキト君の事をひと一人の男性として……す、好きです!」
「ものすごく年下好きですね」
「「はぅ」」
エリナのツッコミにスイナさんはともかくミヤビもダメージを受けていた。ミヤビにしても十以上違うしな。スイナさんに至っては……よくわからないな。
それにしてもいつから目をつけてたかにもよっても色々ありそうなんですが
「えっと、スイナさんはそのお姉さんみたいに思ってたわけなので、意識が変わるまで待ってもらえますか?」
「あ、うん、待つってエリナちゃん?」
「ユキトくんちょっとごめんね?」
そう言ってスイナさんを引っ張って言ってなにやらヒソヒソと話をしている。聞こうと思えば聞こえるけど聞かないのがマナーだろう。
「何の話してるんだろうね?」
「エリナは積極的ですし、待ってるだけじゃもったいない押し倒して行こうと言ってる気がします」
「……確かにそう言われればそんな事言う気がする」
「トウカ先輩はどうするのでしょうか?」
「いや、俺に聞かれても……カヤがいるし無理なんじゃないの?」
「どうでしょうか?」
ちょっと待ってほしい。この流れだともしかしてスイナさんも一緒に暮らすことになるのだろうか? そうなると住む場所はどうなる? でも今はスイナさんは自分が暮らしてる場所がある。
……だからといって一人でそこに帰すことになるのはさすがにどうかと思うし、エリナが断固阻止しそうだ。
まさか屋敷を建ててる途中でこんな問題に直面するとは……。転移魔方陣の事も話して里でお世話になるか? それもどうなのかと思う。
むしろ一緒にいて何が問題なの? とばかりに爛れた夜が加速するのか?
「ユ、ユキト君、私の事はスイナってこれからは呼んでね! それと私がんばるから」
「何をがんばるのか聞いてもいいですか?」
「え、えっと……夜の事?」
「無理をする必要はないんですよ?」
「ユキト君、わ、私もユキト君のお、お嫁さんになるから、もっと普通に話てほしいな」
「いやでも……。わかりました、じゃなくてわかった。スイナ。これでいい?」
「うん、これからは一緒にパーティも組むからよろしくね」
「え?」
今パーティも組むって言ったか? スイナさ……スイナは冒険者資格を凍結してたはずだけど……。
「ダメ?」
「いえ、ダメじゃないですけど……資格凍結させてたんじゃ」
「だから解除してもらったよ。一応名目上はユキト君達が試験に合格するにしろしないにしろついていって監督するのがお仕事だけど、あくまでも表向きで私がユキト君と一緒にいたいだけだね」
「さらりとぶっちゃけましたね」
「うん、それと口調」
「あー気を付ける。……慣れるのに時間がかかるのは勘弁してほしい」
「ずっとそうだったもんね。あ、ミヤビも私の事スイナって呼んでいいからね」
「わかりました。よろしくお願いしますね。スイナ」
「こちらこそよろしく」
女性の団結は早いようだ。仲がいいのはいい事なんだけど俺の立場がドンドン弱くなっていく気がする。
あぁ、でも基本的に俺が決めた事にNOを言わない二人だったのがNOもしっかり言ってくれそうなスイナさ……スイナが入った事はいい事なのかもしれない。
その後パーティの更新をしたり、解体場に行ってアーマードボアを出して大騒ぎになったりしながらギルドを後にした。
ちなみに夕方のギルドが忙しい時間が終わったらまた来る予定だ。冒険者資格を取り戻したスイナはすでにほとんどの仕事の引き継ぎを終わらせていた。
それでもギリギリまでやってほしいとの要望に応えて受付にいたらしい。その代わり俺達がいないので気持ちが落ち込み、それに反応して魔力があんな状態になっていたらしい。冒険者には涼しいと評判だったらしいがスイナの場所に行くのは怖くていけなかったそうだ。
そんなスイナも今日、俺達が来た事によってギルド職員から冒険者に戻る事になった。なのでこれで仕事納めだ。今日中に特級の方の日程が決まればスイナに聞けばいいので楽なのになぁなどと俺は思っていた。
そして、明日からはどの受付に行けばいいのだろうか? その辺もスイナに任せようと思う。
ギルドを後にした俺達は一旦家に戻りそのままサークリスへと移動した。
ミヤビは大丈夫だと思うが、エリナは現状のままだと力不足な気がしないでもないので新魔法を覚えようと言う事でやってきた。まずは俺が実演する……実演できるといいな。
「実際自分で使うのは初めてだから失敗したら幻術で見せるから見てて」
「ユキトくんが使えない魔法を私が使えるようになるのかな?」
「相性とか使用頻度の問題もあるからな。とりあえず出来なかったらその時に考えようと思う」
「場当たり的だね」
「否定はしない。とりあえずやろうか」
ヘルキャットなどの魔物がだいぶ減った平原に立ち、イメージを固める。思い浮かべるのはアルルがよく使っていた翼を広げ槍を持った女性のイメージ。イメージを魔力に伝えて解き放つ。
「ヴァルキリー」
そう唱えると俺の頭上に翼を広げ槍を持った女性が現れた。問題なく発動して一安心と言った所か。
このヴァルキリーは現れる姿を変更できるので、あっちに居た時にはそのエディットにとてつもなく時間をかけてるプレイヤーもいた。
「これが今回エリナに使えるようになってもらいたい魔法のヴァルキリーだ。攻撃しかできないけど、色々できる汎用性の高い魔法になる」
「……えっと色々ってどんなことができるの?」
「接近してくる敵を自動で攻撃したり、敵集団の頭上に飛ばして光の矢を連発したり、逆に一撃で大きな攻撃もする事ができる。逃げる時に使って後方を攻撃させたり、時間稼ぎをさせて自分が大きな魔法を使うための時間稼ぎに使えたりもするね」
「私にも使えるかな?」
「練習次第かな? 特級突破には必要な魔法だと思うよ。後、回復魔法も教えるからがんばって覚えてね」
エリナはどっちもいけるのだからどっちとも覚えておくべきだろう。エリナはできるかなぁと言いつつ発動させるべく練習を始めた。
「それじゃミヤビ、こっちはこっちで戦闘訓練行くぞ。アクアは適当に遊んでてくれ」
「よろしくお願いします」
エリナばかりが不安そうに見えたがミヤビも相応に不安なのだと思う。特級持ちの実力というのはスイナさ……スイナくらいしか知らないし、そもそも全力戦闘は見た事がない。
接近戦が得意な特級だと未知数だし、そもそもミヤビも総合力で競うタイプだ。不安があるなら体を動かすしかない。
そういう訳でミヤビとの戦闘訓練に入る。
訓練は夕方近くまで続き、お風呂で汗を流してからスイナを迎えに行った。
エリナはヴァルキリーを覚えるのに一苦労したがなんとか覚えることは出来た。回復魔法までは手がまわらなかったが手持ちでもなんとかなると思う。
どちらかというとミヤビの方が焦っている気がする。エリナは新しい魔法を覚えるというわかりやすいものがあるのでモチベーションを上げられるけれど、ミヤビは新しいアーツを覚えるという事はやっていない。
その焦りがおかしなことにならないといいなぁと思うのだった。




