48.宴会
「それではこのよい日に乾杯!」
「「「「「乾杯!」」」」」
俺達が家がどうこうと言ってる間に宴会の用意は整い、里のすべてをひっくるめての大宴会になった。だけど酒を勧めるのはやめていただきたかった。
里の中央広場がメイン会場で俺達はそこに陣取っているが、里の人達はある程度たつと中央広場から別の場所に移動して、別の場所から中央広場に来て飲めや歌えやとしてる。落ち着いて食べたり飲んだりできないじゃないかと思ったけれど、里の人は全てここに押し込むのは無理だ。
だから、こうして入れ代わり立ち代わりというスタイルになっているのだろう。
最初のうちは大変だった。とにかくみんな俺の所に挨拶に来てくれた。しっかり列を作って軽い挨拶をして握手をしたりした。どこぞのアイドルの握手会みたいだなとか思ったのは内緒だ。
俺の手をしっかり握って泣き出す人もいたので中々混沌とした握手会会場だった。いや、宴会場か。
ミヤビは他の巫女たちに連れていかれて、視界の中にいるがそこそこ離れた位置で質問攻めにあってるようだった。嫁の事もしっかり話をしないといけないよな。
そしてこの状況の中でちょっと可哀想なのがエリナだ。見渡す限り狐人族。ヒューマンどころか他の種族は一切いない。
最初は俺も挨拶を受け続けていたのでアクアだけがエリナのそばにいた。同じメンツがここにいるなら会話もできるだろうけど、次々と入れ替わってしまってはまともに話す機会もないのだろう。
こっちが一段落ついたのでエリナをこっちに呼び寄せた。
「エリナが蚊帳の外になってて悪いな」
「仕方がないよ。今日の主役はユキトくんだし。やることなくてついつい食べ過ぎちゃいそうだけど」
「普段あれだけ動いてるから大丈夫だと思うけど食べすぎには注意してな。慣れない素材と調味料だから体が驚く可能性もあるし」
「夜に動くしっていいたいけどあのお布団を汚すのは気になるからはやく家に戻ってゆっくりしたいかな」
相変わらずな発言だけど、俺としても人様の家でするつもりもない。だからこそ家が欲しい訳だけど
「家は早く話がついてほしいんだけどな」
「なんか気合入ってたよね」
「あんまりやりたくないけど社とかに一時的に転移魔方陣を敷かせてもらって、建築費用出して作ってもらう事になるかもな」
「やりたくないんだ」
「一度敷いたものは物はどこかに持っていけないから壊さないといけない。壊すとその転移魔方陣に繋がってる転移魔方陣全てが一日二日使えなくなるし」
ちなみに購入や新築問わずにしっかりと代金は支払う事は話し合いの中で決めてある。あの宿は外貨獲得手段でもあるのだ。しっかり代金は支払う。とはいえ本音は主に俺の精神安定の為である。
最初は二人とも無償提供しようとしたからそれは断ったのだ。家のような高価なものをもらってしまっては心臓に悪い。
転移魔方陣に関しては元々こういう仕様だ。今まで固定してあった出入口がただの穴になってその周りが不安定になり、それがそのまま転移魔方陣ネットワークすべてに影響を与えるらしい。
「そうなんだ。後ミヤビさんの事もしっかりしておかないとね」
「あれなぁ……。元々そういう立ち位置ではあったけど、あれだけやっててもまだ自分自身はその位置に居ると思ってるとは思ってもみなかった。俺がちゃんと言葉にしなかったのも悪いとは思うけどさ」
「私もびっくりしたよ。でもちゃんと好きだって言ってあげないとダメだからね。ちゃんと言葉にしないとダメなんだから」
念押ししてくるけど別の声も聞こえてくる気がする。そう言えば最初に言ったっきりエリナにも言ってない気がする。
俺はエリナの耳元に口を近づけて、好きだよって言うと満足そうに笑って私もと言ってくれた。
ちゃんと言葉に出すって事は大事な事だと思った瞬間であった。
「でも、ユキトくんのお嫁さんはまだ増えそうだよね」
「いや、さすがにここで巫女さん全部いただきとかやりませんよ?」
「それもあるかもって思ったけど、それ以外からも引っ張って来そうだよね」
「引っ張ってるつもりは毛頭ないんだけど……」
「私を助けた時に俺の物にしてやる! とか思った?」
「……思ってないけど見事になってるな」
「そういう事がまだまだ起こりそうだよね」
「勘弁してほしいなぁ」
「そうでなくても増えてほしいけど」
これがフラグになることがあるのだろうか? フラグなんて大抵立った気がするだけで気のせいなんだから……気のせいだと言ってください。
そして最後のつぶやきはいったいどういう意味なのだろうか?
けっきょく宴会が終わる前に俺達は屋敷に引き上げる事になった。少しずつ人が帰ったり帰らせられたり、地面を寝床に寝たりして規模が小さくなり中央広場に収まる数にまでなった。
だが、この中央広場にいる人たちは猛者だ。これに付き合うのは無謀との事でウメさんに連れ出してもらったのだ。
ちなみに長はこちらの方面でも長のようで、先頭に立って騒いでた。ご老人、自重してください。
そして現在三人で向かい合っている。アクアはゴロゴロしてる。これはいつもの光景だ。
「それでは会議を開きます。お題はお互いの認識の確認です。という事で……はい、エリナ」
「え、えっとミヤビさんもお嫁さんだと思ってたよ。どうぞ」
「私はあくまでも従者としてお情けをいただいてるものだとばかり」
「俺はミヤビの事も好きだし、嫁さんだと思ってたよ。ちゃんと言ってなかった俺も悪かったと思うけどってなぜ泣く!?」
「す、すみま、せん。まさか……その、好きだと、言ってもらえる、とは、思っても、みなかったものですから」
涙もろい所があるのだろうか? 確か最初に加護があるって分かった時も泣いてたし、でも加護があるって分かった時の反応で泣くってけっこういたから種族的なものか? とりあえず今は泣き出したミヤビを抱きしめて頭を撫でた。
年齢が十歳以上俺の方が年下なんだがこういう事に歳は関係ないだろう。関係ないならなぜこんな言い訳臭い事を言ってるのだろうか?
しばらく俺はミヤビを撫でていた。エリナが羨ましそうに見てたので後で撫でてやろうと思う。
それからしばらくしてようやくミヤビは落ち着いた。
「大丈夫か?」
「その……お騒がせしました」
「この程度ならどうって事ないって、これで泣くほど嫌だったって言われたら」
「そんなはずないじゃないですか!」
「お、おぅ……ごめん」
ちょっと茶化して仕方がない人ですね。みたいな反応を期待してたのだけど予想以上に強い返しが来て思わず謝ってしまった。
「今のはないと思うよ」
「そうか、少し雰囲気を軽く出来たらと思ったんだけどごめんな」
「いえ、私こそ大きな声を出して申し訳ありません」
「ミヤビさんは悪くないと思うよ」
「ミヤビが謝る事はないよ」
ここは悪役を進んで引き受けるべきだろう。いや、非は俺にあるのだから進んで引き受けるって言うのもおかしいか?
「それでだ。ミヤビの答えは? 思いはしっかりと言葉にしないと誤解を招く物だというのはわかったんだ。はっきり答えてくれるとありがたい」
「そ、それはその……」
真っ赤になりながらソワソワする様子で気持ちはわかるというものだが、何も言わずに待つ。ミヤビは助けを求めるようにエリナを見るがこっちもこっちでニコニコしながら見てる。退路はないのだ。逃げようにも今いる場所は俺の腕の中、答える以外に道はない。
俺としたのが初体験だったし、恋も心に秘めた物はあったかもしれないが表に出した事は今までなかったのだろう。
しかもこういうとアレだが女性は二十五までに大抵は相手を見つけるが、それを超えて行き遅れとなってるミヤビはそういう恥ずかしさもあってうろたえてるんだと思う。
「その、初めはお仕えする気持ちが強かったんです。夜のご奉仕はその……そういう事に興味はありましたし、ユキトさんなら優しくしてくれるかなと思いまして……。ですけど、あの、一緒に過ごして、体を重ねていくうちに巫女として仕えると言うよりも一人の女として、お、思うようになりまして、ただ年齢はすでに行き遅れに足を突っ込んでいますしそれであの」
「もう一歩踏み込んだ答えがほしいな」
「それはその……お、お慕い申し上げております」
「それじゃ俺のお嫁さんって事でいいかな?」
「はい……よろしくお願いします」
俺は抱きしめてた腕を緩めて嬉しそうに微笑んでるミヤビにキスをした。
その後はエリナも参加して軽くスキンシップを取って眠った。前にも言ったが人様の家でまでやるつもりはないですよ?




