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47.里

 八月十五日、王都を出て一ヵ月とちょこっと。俺達は里に着いた。

 そして馬車を降りるとずらりと人々が並んでいた。いったい何人いるのだろうかと思った。

 その集団の前には二人、前に出ている人物がいた。


 一人は狐人族のおじいさん、だが背筋はしっかりしているし着ている物にも気を使ってる様子から里の中でも上の存在だと思う。

 もう一人は狐人族のおばあさん、小柄ではあるがこちらも背筋がピンとしておりかなりの風格がある。そして何より巫女服姿がミヤビとの関係を物語っているようであった。後、しっぽが二本ある。つまりこの人は進化を経験してるという事だ。ミヤビが話を聞いて何か得るものがあるといいけど……。


 俺達がソウタさんの先導で馬車の前に出ると、二人がこちらに来た。


「ソウタ、ご苦労だった」

「とんでもございません。それでは私は下がらせていただきます」


 おじいさんがうむと頷くとソウタさんは下がった。そしてこちらを向いた。


「お初にお目にかかります。この里で長をしております。ゲンゾウと申します。あなた様のご来訪心よりお待ちしておりました」

「そうですか、私の名前はユキトです。ユキトと気軽に呼んでください。立場はどうあれ、私はまだ生まれて十五年程度の若輩者ですから」

「お心遣い感謝いたします。ユキト様」


 様もいらないとは思うけど、それは今後どれくらい仲良くなるかによるかな? と思う。さっきから力の取り込みでけっこう大変だけど、そのおかげであまり難しく考える事なくできているのは、良い事なのか悪い事なのか……。その答えは全てが終わってからかな?

 ゲンゾウさんはそう言うと一歩下がり、今度はおばあさんの方が前に出てきた。


「お初にお目にかかります。この里で巫女達をまとめ、社を守っておりますウメと申します。皆からはおばばと呼ばれております。あなた様がこちらに向かって来るのを感じ取り一日千秋の思いでお待ち申し上げておりました」

「そう言えばミヤビも力を辿ってきたんだったっけ。先ほども言いましたけどユキトで構いません。こうして皆さんにお会いできて私も嬉しく思います」


 巫女達のまとめ役という事はミヤビの上司になるわけだ。そんな風に思っていたらゲンゾウさんは頭を下げた後くるりと後ろを向き、里の人達に声をかける。


「我々の信仰の対象である神狐様がお越しになられた! 皆の者打ち合わせ通りに宴会の準備だ! ユキト様にご満足いただけるように盛大にやるぞ!」

「「「「「おおーーー!!!」」」」」


 おおと返事をして里の人達はそれぞれの場所に散っていった。しかしながらだ。


「いきなり宴会か。普通はもうちょっとこう……ないのか?」

「厳かな儀式もできますが行いますか?」

「……遠慮しておきます。宴会位が俺には丁度いいです。里全体での宴会なんて規模ってのが気になりますけど」

「様々な料理が並びますのでお楽しみください。ですがまだ準備もありますし、ひとまず屋敷へお越しください」

「長は指揮を取らなくてもいいんですか?」

「それは次代の連中に任せております。里の中でも先んじてご挨拶できるのは年寄りの特権ですな」

「そうはいっても同行した者達からは後れをとっておりますけどね」


 挨拶の時はだいぶ堅苦しい感じだったゲンゾウさんとウメさんだが、今はなんというか普段っぽい雰囲気になっている。普段を知らないのであくまでぽい感じとしか言えないけどな。


「それはそれ、これはこれだ。では参りましょう」


 俺達はゲンゾウさんの案内で屋敷へと向かった。里の中を歩いているとこちらを見てほとんどの人が頭を下げている。十中八九俺に向かってだよな……。

 ジーっとみてる子供がいたから手を振ってみたら逃げられた。


「子供に逃げられた」

「里の中がこんな状態で外からのお客となれば気にはなるのでしょうな。頭くらいは下げてほしいものだが」

「子供じゃまだまだ信仰とかは難しいと思いますよ」

「そういうものですかな」


 そんな事を話してたら子供が戻ってきた。しかもなんか増えてる。


「お前たち! そんな所におらんで挨拶くらいしたらどうだ!」

「「「わーー! じじいが怒ったーー!」」」


 子供だしこんなもんだよなと思いながら里を歩く。里の建物は木造の平屋や二階建てが多い。テレビとかで見た江戸の風景とかそんな感じだ。

 ミヤビは後ろでウメさんとこれまでの事を話しているみたいだった。後ろなのでまったく様子がわからない。ミヤビの事だから変な事は言ってないとは思うけどなんとなく心配になるのはなぜだろうか?

 なんだかんだで一番暇を持て余してるのはアクアだろう。あまりにも暇なのか人の頭の上に乗っている。元々ない威厳が更に低下してる事うけあいだろう。

 エリナは建物などが珍しいのだろう。キョロキョロしている。子供に手を振るとビクッとしながらもエリナには手を振り返していた。解せぬ。




 屋敷に着いたが立派だった。武家屋敷? って感じだ。どうしてこの里はここまで日本の影響を受けたとしか思えないものばかりなのだろうか? もしかしたら日本を基準に考えること自体が間違っているのかもしれないが今はなんとなく懐かしい風景を満喫したい所だ。


 屋敷に上がる時は当然靴を脱ぐ。客間に通されてようやく一息つけた。終始視線を浴びるというのはやはりけっこう精神にくるものだ。かと言って隠れてしまう訳にもいかないだろう。


「ここまでお疲れさまでした。よくお越しくださいました」

「いえいえ、こちらとしても一度は来てみたかったですし、気にしないでください」

「ほう、理由を聞かせていただいても?」

「ミヤビの里帰りというのもありますけど、一番は食事ですね。前の町の宿で食べましたけどご飯は美味しいですね」

「ユキト様は米をご存じだったのですね。ほとんどこの里でしか生産がなく外で食べるにはアルタレアの宿くらいしかないはずなのですが」

「その辺りの事は秘密と言う事でお願いしますよ」

「心得ました」


 言っていいのかもしれないけど、前世の記憶がどうのこうのっていうのをわざわざ言う必要はないだろう。言わなければ言わないなりに察してくれるはずだ。

 あ、でも、もしかしたらまずいかも?


「ゲンゾウさんは使徒について知ってますか?」

「聖教国に現れた神の使者という事だけは聞き及んでおりますが、それがどうかしましたか?」

「その中にはこの里の事を知っている者もいます。ですからそちらにも注意を向けておいた方がいいかもしれません」

「そうなのですか? ふむ、とりあえず今のままでどうにかなるのか追加がいるのかは相談してみましょう」


 どうやら聖教国に常駐してる間諜みたいなのがいるみたいだ。里でそういう人を派遣するというのは効率が悪い気がするけど……。


「里で間諜を派遣してるのですか?」

「里でというよりも連合国の間諜部隊の一つがこの里の者というだけですよ。他の人には教えないようお願いします」

「俺だからって必要ない事を教える必要はないぞ」

「わかっております。とはいえ聖教国が連合に属するこの里に下手な手出しはしてこないと思いますけれどもね。正攻法で交渉に来ても追い払うと思いますが」

「その辺は任せますよ。それとお願いがあるのですがよろしいですか?」

「よほど無茶でなければどのような願いでも出来る限り叶えてみせましょう」


 普通は神様お願いします! だと思うけどこっちのお願いは聞いてくれるらしい。それなりのお返しはしないといけないと思うけどな。


「小さくていいから家がほしいんです。俺達は基本冒険者として動くから王国の王都にいる事が多くなります。そうすると里に時間をかけてやって来る事は難しくなります。だから王都の家とここの家を結ぶ転移魔方陣を敷いておきたいんですよ」

「転移魔方陣ですと!? そ、そのような過去の大魔法をお使えになるのですか?」

「嘘を言うつもりはないですよ」

「それはそうですが」

「なるほど、転移魔方陣による転移と言う事であれば納得ができます」


 そう言って話に入ってきたのはウメさんだ。巫女をまとめる立場と言う事はミヤビと同じことができるという事だと思う。


「私達巫女は存在を感じ取る事ができる。こちらに近づいて来ていたはずなのに急に遠くへ行ったり戻ってきたりとしておりましたから。つまりはそういう事だったのですね」

「そうなります。……そうするともしかして来ると知っていた訳ではないですし、やきもきしたのではないですか?」

「ほほほ、そうですね。お越しいただけるだろうかと巫女一同ハラハラしながら待っておりました。それでその転移魔方陣を設置する場所は社ではダメなのでしょうか?」

「どっちかといえば気楽にこちらに遊びに来たいと思っています。そうすると社だと大仰しいかなと思うんです」

「しかし、空き家などあったか? 大きい所はすべて人が入っている気がしたがなぁ」

「本当に小さくていいですよ? いざとなったら転移魔方陣を敷ければそれだけでいいですし」


 俺としては大きくても手に余るから小さい家の方が助かるのだが


「そういう訳にはいきません。我々にも誇りがあるのです。立派な家を建ててみせましょうぞ!」

「いやいや、出来ればすぐにでも入居可能な物件かもしくは土地を少しもらえればそこに小屋を建てるから」

「小屋など笑止ですぞ!」


 けっきょく家の事はこの後の宴会が終わった後にそういうものを管理してる人に同席してもらって決める事になった。本当に大きな家はいらないんだが……いらないよね?

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