46.到着
翌日俺達は馬車に同行していた。ただまぁ俺達がのんびりと馬車に乗って移動などするはずもなかった。
「ユキトくん、のんびりだねー」
「俺達の基準からすればだけどな」
「普通は馬車の横を走り続けたりしませんから。他の人達が驚いてるでしょ?」
「これくらいならみんな出来るんじゃないのかな?」
「仮にできたとしても、ずっと走り続けるのは無理だぞ? そろそろエリナも人外の域に入ってる自覚を持つべきだぞ?」
「比較対象がユキトさんと私ではわかりにくいと思いますが、こうやって馬車の横で走り、しかもそのペースがのんびりと言うのは絶対に普通ではないですからね」
馬車を操っている御者さんもうんうんと頷いている。この前管理者に会った時にミヤビは百六三、エリナは百三十七のレベルがあった。俺自身は百九十ほどまで上がっていた。
あっちでの法則がそのままこっちに通用するかはわからないものの、レベルが一上がると、全てのステータスが一上昇した。これにスキルの上昇分を足して種族補正値をかけた値が最終的な値になっていた。
ちなみにヒューマンだと全ステータス均一、狐人族だと魔力と速さが少し良く、力は低め、体力が少し低くなっていた。
初心者向けのヒューマン、中途半端な狐人族という扱いだった。
魔法を使う時、基本は動かないので速さが必要になる場面は逃げる時くらいなのであまり使い道がない。魔力だけならエルフが優れていたし、多少は耐久力もほしいとなれば大人しくヒューマンを選んだ。速さなら他の○人族の方がよっぽど速い。
狐人族の特徴である幻術は育てに育てないと中々使い道がなかった。服屋を経営していたプレイヤーがNPC狐人族を雇用して、幻術でお客の幻影を出し服の着せ替えをしながら三百六十度からお客自身の目で見れるサービスは中々うまくいった。
アイディア料として服を置いてもらったのはいい思い出である。
話は脱線したが、何が言いたいかと言われればおそらくだがエリナとミヤビはは一時の速さでは確実にミヤビの方が速いが、体力に関しては実はエリナとミヤビはそれほど大差ないと思われる。スキルの上昇値次第ではエリナの方が高い可能性もある。
あくまでもステータスの値だけの話ではあるけど、特級に近い能力だけはもっているのだ。完全に経験不足です……。
「そうなのかな?」
「そうなんです。まぁ俺と一緒にいるからどうしてもこうなるのは仕方がない事だけどね」
「ユキトくんのせいで私も人外扱いだよ」
「その言い方はひどくないか?」
そんな会話をしながら走っていてもやっぱりちょっと暇になり、俺は後ろ向きで走りながら回避訓練と称して二人に当たっても痛くない光の球を投げてみたり、ミヤビと戦闘しながら走ってみたり、エリナは走りながら的を射抜く訓練をしてみたりしながら俺達は進んでいく。
周りの皆さんは呆れるばかりだった。ちなみにあの中に二級の人もいるそうなのでおそらくエリナも二級には問題なく上がれるんじゃないかと思っている。もう少し魔法のバリエーションを増やす必要がある気はするけどな。とはいえ広範囲魔法は撃てる場所があまりないし……ライトウェーブとアレも教えてみるだけみようかな? 能力的には十分撃てるはずだし。
そんなこんなで走り続けて里のある森の前までやって来た。
「ミヤビさん、どう考えても馬車が通れる道はなさそうだよ?」
「普段は幻術で誤魔化しているんですよ。しかも里の者以外では狐人族でもその道を探し出すことはできないとされています」
「それだとユキトくんもわからないの?」
「さすがに俺ならわかるけど、普通は無理だろうな。神狐の作り出した幻術でそこを通過できるのは基本、その加護を受けてる者に限るって条件かな? 加護を得る手段は信仰だから、帰ってくる気があって外に出るならまずはしっかりと信仰心を持っていないとダメだね」
「そこまでわかるものなのですか?」
「解析しようと思えばなんとなくわかるってくらいだけどな。とりあえず馬車に乗せてもらうか。三人で手を繋いで歩くのもいいけど、出来れば俺は全力で力を抑える方向でいきたい」
「どうして?」
「術に変に干渉しそうで怖いんだよ。長くこの状態を維持してるものだからこのままにしておきたい」
「わかりました。では兄上に乗せてもらえるように頼んで来ます」
元々馬車に乗せてもらうスペースは空けておいてくれたので問題ないとは思うけど、こういう確認は大事だと思う。大丈夫だと勝手に思って行動したら相手にとってはって事はよくある話というわけだ。
「兄上がどうぞと言っていました。こちらへ」
「わかった。俺は乗ってからは大人しくしてるから里についたら教えてくれ」
「わかりました」
「なんか寝ちゃうみたいだね」
「意識的に力を抑えるとなるとけっこう集中力が必要なんだよ。寝るというよりは外界の情報が入って来にくくなるから強めで頼むよ」
「はーい」
そして馬車に乗ってからは意識的に力を抑える。幻術は里のまわりの森にかけられてるものみたいなので里に入ってしまえば問題ないと思う。何かあったら俺が張り直すことになるんだろうけど、おそらく森自体を一つの物と考えて魔道具化してるからやり直すとなれば大変な作業なのでできればやりたくない。
必要ない作業を増やさない為にも俺は力を抑える事に集中した。
集中してるところで揺さぶられたのを感じた。俺はゆっくりと自分を元の状態に戻していく。
「着きましたよ」
「あぁ、ありがとう」
「すぐそこにいるはずなのにいないみたいでびっくりしたよ」
「そういうのも含めて抑え込んでたからな。それにしてもなんか出迎えでもきてるんじゃないのか? やたら人の気配を感じるぞ」
「兄上が呼びに来るまで中にいてほしいと言っていましたので待っているのですが、いつ動けるのでしょう……」
「そんなに時間はかからないんじゃないか? あんまりもったいぶる必要もないだろうし」
「どちらかと待ちに待った瞬間ですから皆、早く早くと思っていると思います」
「そう言われるとなんだか緊張するな。そうは言っても俺は俺でしかないけど」
「それでいいと思いますよ」
そんな風に話していると馬車に近づいてくる人がいた。この感じはソウタさんかな?
「お待たせしました。里の者たちがぜひ出迎えたいと待っております」
「なんかすごい人がいるみたいなんですけど」
「出てこれる者たちはほとんど出迎えに来ているはずですから」
話の規模がでかいよ! と思ったが自分たちの信仰対象が、しかも長い事確認されなかった存在がポッと出てきたらそれは見たくもなるのかなと思う。またなにか話をさせられるのだろうか?
「覚悟を決めて出るしかないか」
「皆の前で話をするのが苦手な事はつたえてありますのでおそらく長達がなんとかしてくれると思いますが、よろしくお願いします」
「わかりました」
まずは整列と受け入れの心構え、そして人前に出る心の準備……。よし行こうか。
「二人とも悪いけど付き合ってもらえるか?」
「もちろんお供いたします」
「私こういう人前に立つの初めてだよ。大丈夫かな?」
「大人しく俺のそばにいればいいと思うよ。二人がそばに居てくれれば俺としても心強いし」
「うん、わかった。しっかりそばに居てこの場所は私の物ですって伝えなきゃダメだよね」
「あー、うん、二人には両脇を固めてもらって付け入る隙がないって思ってもらった方がいいか。嫁さん二人でも大変だし」
「え?」
「ん?」
ミヤビから驚いたような声が聞こえた。ちなみに結婚は特に書類をどこそこに出すとかはない。本人たちの認識があればそれでいい。
……一緒にいるとは言ったけどそれを結婚して嫁さんが出来たと思ってたのはもしかして俺だけか?
「えっと……あれ、二人がお嫁さんって認識してたのは俺だけ?」
「私はそうだと思ってたよ? ずっと一緒にいるんだよね?」
「私はその……仕える者としてという認識だったのですが……」
「その事は夜にでも話をしよう。今するとおそらく時間がかかる。外では人が待ってるし」
「わ、わかりました。お、お供します」
今になって認識の違いがある事に気が付いた。本来なら今すぐにでも話をするべきだろうが待ってる人たちがいる。
別れ話に向かうような内容でもないし、とりあえず今のところは保留させてもらって目の前の事を終わらせようと思う。
どこかに手続きするとかであればわかりやすいのにと思いつつも、そもそも人の数を把握するのが難しいのだからそこまで手がまわってないのかとも思った。
だから頭を切り替えて目の前の事に集中だ!




