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43.里風宿

「私もまさか買い物でこちらに出て来て会えるとは思ってみなかったよ。それでそちらにおられる方が?」

「はい、ユキトさんです」

「初めまして、ミヤビとここにいるエリナとでパーティを組んでいます。ユキトと言います。よろしくお願いします」

「エリナです。ミヤビさんにはいつもお世話になってます」


 さきほど変な奴と思ったのは心の中なので心の中で謝り、それを外に出すことはしない。してないと思う。

 そして挨拶は大事だ。ミヤビのお兄さんならしっかりしておくべきだろう。


「ミヤビの兄でソウタと言います。お会いできて光栄です。本来ならばちゃんと挨拶をさせていただきたいのですが、里でもない公の場所ではさすがにユキト様にもご迷惑をかけてしまう事になりますので、簡易な挨拶ですがお許しいただけたらと思います」

「その気遣いに感謝します。それで買い物は終わったんですか?」

「はい、すでにすべての買い物は終わっています。馬車に全ての荷物を載せてもらえるように頼んであります。それでその……ユキト様達のご予定は?」

「このまま宿で休んで明日には里に向かう予定です」

「ならばぜひ馬車に乗っていってください。広く場所を取る事はできませんが座る場所を確保するくらいはできますので」

「とりあえずその辺りの話は宿でしませんか? こちらはまだ宿を決めていませんしソウタさんの泊まってる宿に合わせますので」


 ミヤビに案内してもらう予定だったが、どうせなら家族が一緒の方がいいだろう。それに積もる話もあるだろうし、里に帰ってからだと色々ありそうなのでできる話はしておくべきだと思ったのだ。


「そうですね。宿は灯火という名の宿になります。我ら里の者がいつも利用する宿になります」

「ミヤビ、そうすると行き先はもしかして一緒だったりするのか?」

「はい、私が案内しようとしていた宿が灯火になります」

「それならなんの問題もないんでまずは宿に行ってそこで話しましょうか」

「そうですね。他にも護衛として里の者を連れてきていますので挨拶をさせてください」

「わかりました。とりあえず行きましょうか」


 そして俺達は今夜泊まる灯火へと移動した。道中変な奴に絡まれる事もなく歩けたのは本当に助かった。




 宿についたがはっきり言ってここだけ違った。明らかに浮いている。他の人から見れば違和感。里の人からしたら一目でわかる里様式。そして記憶を刺激される日本の旅館風な建物だった。


「よくこの建物をここに建てておいて文句が出ないな。ここだけ違和感バリバリだろ」

「出来てすでに長い時がたっていますから、ここの人たちにとっては普通ですよ」

「そうだとしてもやっぱり変な感じだな……。違和感があるってだけで雰囲気は好きだけど」

「そう言っていただけるとうれしく思います」

「見た事ない感じだよね」

「里の様式ですからね。里は独自の文化を歩み続けてきましたから建物も他の場所とは違う印象になるのも不思議ではありません」

「そうなんですね」


 俺やエリナの感想にソウタさんが答えてくれる。ただ、いつまでもこうして入り口で立ってる訳には行かないので中に入ろうと思う。


「ここに立ってるのも邪魔だから中に入らないか?」

「そうですね。あぁいや、少々お待ちを。私が先に入って伝えてきますのでしばらくここで待っていてください。突然ミヤビとユキト様が入って来られたらきっと仕事どころではなくなってしまいますので」

「あー……わかった。もう少しここで待ってるよ」


 ソウタさんは宿の中へと入っていった。ミヤビが来た事を知ったら騒がれて、さらにその横にいる狐人族はもしかして……やっぱりか! と騒がれる未来が見えるようだ。そうならない為にも先に話を通してもらっておく必要がありそうだ。


「なんというか、本人からしてみるとそんな大仰なって思うけど、目の前に信仰対象と同じ存在がいればそれは騒ぎになるよな。それにミヤビもどうやら人気らしいし」

「ユキトさんに対してならわかりますが、私もそうなのでしょうか? 信仰の為にこの身を捧げていましたので、まわりからの視線というのを気にしたことがなくて……」

「高嶺の花って事かな? ミヤビの旅立ちを知った里の男どもが大騒ぎしたりはしてなかったの?」

「そう言えば、おばば様がそれを伝えた時に男たちが泣いたり叫んだりしたと聞きましたが……。いくらなんでも冗談と聞き流していました」

「実はそれは真実なんだろうな……。里に着いたら後ろから刺されたりしないよな?」

「そのような者が居たら近づいて来た段階で斬ります」

「もっと穏便にすませようよ」


 そんな風に話をしてしばらく待っていた。待ち時間が長くないか? って思うのもあるけれど宿の中が騒がしいのも気になる。

 騒ぎの中にいきなり放りこまれるのとこうして待たされるのどっちが失礼になるのかな? なんて思いながら待っていた。




「大変お待たせしまして申し訳ありません。用意が整いましたので中にどうぞ」


 そう言われて用意? と思ったが入っていった。十数人の人が並んでいた。


「いらっしゃいませ! ユキト様、ミヤビさん、エリナさん」

「ミヤビすまないけど対応を頼む」

「え? あ、わかりました」


 俺はさっきソウタさんと会った時に、ミヤビと会った時同様に信仰による繋がりができたのはわかっていた。だけど、ミヤビと比べれば細い繋がりであった為に対して気にしていなかった。

 そして今、ここにいる十数人すべてが神狐を信仰してる者たちらしく、一気にその繋がりが出来てしまった。

 ミヤビと比べればみんな細いとはいえ、それがまとめて、しかもそれぞれが違う力を送って来るのだ。

 一つの力に対応が終わる前に次が来て、を繰り返している。少しずつ飲みこんでいるけれど、それでも平静を装って立っているのがやっとだ。


「はい、こちらが私のお仕えしてるユキトさんです」


 そのミヤビの言葉と共に流れて来る力がさらに大きくなった。今までが今まで信仰していた目に見えないものに対してのものだったのに対して、今流れて来てるのは目の前にその存在が居ると言う事を知り力強くなっている。

 本来なら一声かけるべきだとは思うんだけどそれどころじゃない。地味に力が解放されてから一番つらい時間を過ごしている。


「えっと、ユキトさん?」

「……すまない、疲れが……出てるみたいだ」


 そういうと周りがバタバタしだして移動を促された。促されたはいいけれど一人では動くに動けない。

 スッとミヤビが支えエリナも補助に入ってくれて移動する事ができた。




 部屋に入ると靴を脱がされて中に入る。目の前の床は畳である。俺はそのまま寝そべった。多少楽になった。周りを見たり聞いたりする余裕が出てきた。


「お布団の用意をしますのでしばらくお待ちください」


 丁寧だが急いでる様子で布団を敷いてくれる。この畳の上でも十分ですよ? と思ってもしゃべるのは億劫だ。


「用意できましたのでこちらにどうぞ」

「引っ張って」


 なんとか右手を上げてそう言うとミヤビが手を掴んでズルズルズルと引っ張ってくれた。抱き上げるとかそういう距離でもないし、そもそも抱き上げるのが大変だしで、これくらいでいいと思う。


「様子はこちらで見ています。何かあったらよろしくお願いしますね」

「はい、何かあればなんなりとお申し付けください」


 そう言って案内してくれた人は去って行った。今部屋にいるのは俺達パーティだけだ。


「ユキトさん、その……話はできますか? 理由を聞いても大丈夫でしょうか?」

「手短に話して寝る。信仰が繋がって力が流れて来た。それを処理しきれないのが現状。寝て起きればたぶん多少なりとも解消されるはずだから今は……眠い……」

「わかりました。後はこちらで対処しておきます。今はゆっくりとお休みください」

「おやすみなさい。ユキトくん」

「あぁ、おやすみ」


 この調子だと里に入る時どうすればいいんだ? と思いながら俺は意識を手放し眠りについた。

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