42.アルタレア
その後順調に歩みを進め、王国からやって来て最初に訪れる事になる連合国側の町アルタレアの近くまでやってきた。
「ユキトさん、エリナ。あそこが王国からもっとも近い連合国側の町アルタレアになります」
「アルタレアまでくれば里までは後少しってところか?」
「そうなります。普通に移動しても二日後にはつけます」
「ねぇ、ユキトくん、ミヤビさん、聞きたい事があるんだけどいいかな?」
「どうした?」
「ここって連合国なの?」
そう聞かれた俺は疑問符を浮かべた。ミヤビも同じような事を考えてそうな顔をしてる。
……そして俺は気が付いた。
「聖教国と王国の間にあるような検問所とかがあるって思ってたって事?」
「え? ないの? 国と国の境にはあるって聞いたよ?」
「連合国は種族事で国を作り、その集合体ですから国境の概念が薄いんですよ。ですから聖教国との道には検問所があるのですが、王国側は昔の名残もあって検問所はないんです」
「昔の名残?」
「はい、王国建国の歴史は知っていますか?」
王国はもっとも新しい国だ。元々は聖教国がこの大陸を統一支配していたが、ヒューマンが増加して、ヒューマン至上主義者が現れ反乱を起こして帝国が出来上がった。
帝国はヒューマン以外の種族を捕まえ奴隷としたので、南東にある帝国から離れた西側一帯に作られたのが各種族の国であり、それをまとめて連合国となった。
そして聖教国はざっくりした地図でL字を反対にした形になったが、下に伸びる棒の部分はそれほど開拓が進んでおらず、帝国と連合国の緩衝地帯になっていた。
この緩衝地帯を開拓し帝国と連合国の間の壁になるべく出来上がったのが王国だ。
そんな建国の理由から帝国はヒューマンと奴隷にされた他種族、聖教国は帝国に誘拐されないようにヒューマンがほとんどを占め、連合国にはヒューマンはほとんどおらず、王国は共存共栄を願いヒューマンが多いながらも様々な種族が入り混じり生活をしている。
確かこんな感じだったはずだ。そうであれば検問所がないのも理解できる。
「俺はたぶん大丈夫だと思う」
「私も学校で習ったから大丈夫だよ」
「ならお分かりいただけると思いますが、連合国を守る壁役をしてくれる国ならばそういうものは必要ないだろうという訳です」
「そうなんだ」
「そういう建前だよ。連合国はさっきも言った通り種族事に国を作ってる。もちろん様々な種族がいる町もある。首都や今から行くアルタレアなんかはそうなる。だけど基本的に種族で固まってるから、検問所みたいな場所を作るとどこの誰を派遣するかってだけで大変なんだよ」
「……そういう事情は出来れば内緒にしておいていただきたかったです」
「えっとつまり、連合国としては作らなくてもいい理由を作って、そういうゴタゴタを回避したかったって事?」
「そういう事情もあるって事だね」
むこうでのクエストで聖教国の検問所の当番に関してのいざこざに巻き込まれるというものがあった。
お使い系クエストだったが、報酬が良かったので参加者も多かったのだ。俺は面倒なのとほしいものがなかったので参加していない。
その知識がそのまま当てはまったようだった。
こんな話をしていて町がすぐそこまで来たところでふと思った事をミヤビに聞いた。
「ミヤビ、今更だけどこの町や国がヒューマンに対して抱いてる感情ってどんなものがあるんだ?」
「と、言いますと?」
「ここじゃ最悪エリナがただ一人のヒューマンとかにならないか? それで変な感情なんかがあると非常に困ると思ったんだよ」
仲良くしてたはずなのに追い出されたり、仲間を奴隷として誘拐されたりした人たちが祖先の国な訳でそういう感情もあるんじゃないかと思ったのだ。
とはいえ昔々の話だし、人の行き来はあるので問題ないとは思うが一応だ。
ちなみにミヤビはあてにならない。里の歴史は古く聖教国が大陸を支配してる時からすでに里というなの小国で自給自足していたはずだからだ。だから里は狐人族が作っている国に参加していない。
そういう場所が西側にいくつかあった為、開拓がしやすく西側にヒューマン以外の種族がやってきた理由でもあった。
「この町はたまに見るくらいはヒューマンがいたはずですし問題ないはずですよ」
「それなら良かった。アクアにかけてるようにエリナにも幻術をかけて外見だけいじる必要があるかなって思ったんだよ」
「そんな事しなくても大丈夫だと思いますよ」
「でも、一度でいいからやってみたいかも。三人そろって狐人族って」
「それって自分で姿を確かめられないとなんの意味もないんじゃないか?」
「そうだった」
エリナはこのまま入っても大丈夫そうだし、そのまま俺達は町へと向かって行った。
門に近づくとこちらを見ていた門番が走って来た。いったい何事?
「ミヤビ殿! お戻りになられたのですね!」
「一時的な帰郷です。旅の目的が達成されたことを報告してから私は再び外へと向かいます」
「そうなのですか……。ミヤビ殿がいなくなり皆寂しがっております」
「そう言われるほど私はこの町に来てはいませんが……」
「旅に出てもう戻る事はないと言われたのとまた来るかもしれないと可能性が残っているのでは心境も違うというものです」
可能性の有無は確かに大事だと思う。ミヤビはキレイだし強いしで色々な意味で居てほしい存在なのだろう。ただ、冒険者じゃない門番の人はさらに接点が少ない気がするのによく知ってるなぁと思った。
それに仕事放棄していいのだろうか?
「それはともかく仕事はしなくていいのか?」
「え? あぁぁぁぁぁぁ……。怒られる……」
「それじゃ町に行こうか」
門の所には代わりの人が立っていた。そして彼は連行されて行った。自業自得である。
「ミヤビ殿、若い奴が迷惑をかけました」
「いえ、お気にならさず。何か変わった事はありましたか?」
「ミヤビ殿がもう来られないとおっしゃられていましたからな。それを聞いた連中が寂しがってるだけで特に問題はありはしませんよ」
「そこまで接点はなかったはずなのですが……」
「ミヤビ殿は美人ですからな。無理だとわかっていても惹かれてしまう男心というところでしょうか。バカが出てきたらのしてやってください」
「そういう人が出ない事を祈りましょう」
こうして俺達はようやく町の中に入る事ができた。
この町は多くの種族が暮らしているので慣れ親しんだ形、聖教国が統一していた頃の町を参考にしている。王都も似たような物なので町自体ではそれほど目新しいものはない。
しかし、俺とエリナにとってはだからこそ不思議な景色に見えた。
「わかってはいたけど、ヒューマンが見えないな」
「うん、しかも町並みは似てるからものすごく変な感じ」
王都では七割ヒューマン、三割がそれ以外の種族と言った感じだったがここでは見る限りヒューマンがおらず様々な特徴を持った人たちが多くいた。
そして連合国以外ではほとんど見られない獣ベースの獣人もいた。この獣ベースの人達は元々西側に住んでいた人達を祖先にもっている。
人ベースの狐人族の里ような場所の方が珍しいのだ。
「二人にはそう見えるのですね。私にとっては懐かしい景色ですが王国の町では私も似たような感想を持ちました」
「確かに俺達とは立場が逆なら似たような感想も持つな」
「あぁいうけもくじゃらの人って初めて見たよ」
「彼らは連合国から外には基本出ませんからね。それでは私が使っていた宿に案内させてもらいますね」
町の中を歩いていると周りから視線を感じる。見知らぬヒューマンがいるという視線が少し、あれってミヤビじゃないか? って感じの視線がほとんどって感じだ。
そしてミヤビから視線が移ってあの男誰だよ? って感じだった。いつも通りの軽い隠ぺいはかけてるいるのだが、ヒューマンよりも能力の高いこちらの人達には効かないようだ。
明日町を出る時には気をつけておこう。そう思いながらも今この時に変な奴が声をかけてこないことを祈った。
そんな俺の思いとは裏腹についにミヤビに声をかける人が現れた。
「もしかしてそこにいるのはミヤビかい?」
「え? ……あ、お久しぶりです、兄上。まさか里に戻る前に兄上と会えるなんて思ってもみませんでした」
声をかけてきた狐人族の優男はどうやらミヤビの兄のようだった。ついに変な奴が声をかけてきたか……。なんて思ってしまって本当にごめんなさい。




