40.帰還
エリナは誘って甘えてその気にさせてくる。自分からもっともっとと求めては来ないけれどその気にさせるのがうまいのだと思う。
つまり俺が乗らなければ短く済むのだ。そうとわかっていても乗ってしまうのが惚れた弱みというかなんというか。けっきょく日が変わる手前でエリナに睡眠魔法を使う事で終わらせることとなった。自分の意志の弱さが憎い。
「ユキトくんがあんな強引な手段をとるなんて」
「軽くって言いましたよね?」
「まだまだ余裕だったもん」
多少すねられはしたものの、明日はしっかり休みを取れるようにがんばって今日はがっつりするようにがんばるからと言えば機嫌を治してくれた。なんとなくそうなるようにされた気がするけど気のせいだと思っておきたい。
回収するものは全て回収し、エリナとミヤビに外からしっかりと小屋の魔道具が動作してるのを確認してもらい、十分な量の魔石を燃料としておいてきた。
あれだけ置いてあれば1年は持つと思う。もちろんそんなに放置するつもりはないのだが想定以上に魔道具の魔力消費が大きかった場合などに備えるとなるとやっぱり多くあった方があんしんできる。
……毎度のことながら過剰に心配し過ぎなのかもしれないと思うが、ないよりはあった方がいいよなと自分を納得させてとりあえず迂回路の防衛線を張っていた場所に向かう事にした。
所々まだ残っていたヘルキャットを倒しながら進むと防衛線を張っていた場所にまだ多くの人が残っていた。やっぱり数日程度じゃ安全の確認がしきれなくて維持してるよなと思いながら近づいていく。
あのおじさんが居てくれれば助かるなぁと思ったが、こちらを見て反応して近づいてきたのは救援に来たなら残れと言っていた奴だった。
「ご無事だったんですね! 皆心配してましたよ」
「そうなんだ。それであの時のおじさんはいる?」
「あぁ、アルディスさんね。それはまぁ、取りまとめ役だからいますけど……。それより怪我人がまた出たんです。治療してもらえませんか?」
「ユキトくん」
俺達を無視してエリナにだけ話しかけ、おじさんの事を聞けば嫌そうな顔を隠さずに露骨に話を逸らした。
エリナは俺に判断を求めて来た。なんとなく適当な理由をつけて連れまわしたいのがわかったのだろう。
だが、もしかしたら本当にケガ人はいるかもしれないと思い判断を求めたのだと思う。
俺の感知してる範囲ではそこまでの重傷者がいるとも思えなかったし、元々ここには物資も人もいたはずだ。俺達がそこまで出しゃばる必要もないだろう。
「とりあえずそのアルディスに会ってからだ。そこで要請があれば治療に当たればいいと思う。おそらくケガと言っても魔力や薬の節約の為に、簡単な治療しか受けられてないやつらの事だろうし」
「そ、そんな事は!」
「そちらの手に負えない重傷者なら話は別だけど、そういう人がいなかった場合はわかっているよな?」
少し言葉に魔力を乗せて言ってみれば効果てきめん。完全にびびっている。その程度で絡んできてほしくはないが見た目からは俺が強いっていうのはわからないからな。
……成長という要素や魔法があるのだから見た目から強さを測るというのは中々難しいと思う。それでも視覚からの情報に頼ってるんだよなぁなどと思いながら俺達はアルディスの所へと案内された。
「無事にまた出会えてホッとしているよ」
「向こうでだいぶヘルキャットも狩ってきたからこちらへの攻撃もだいぶ少なくなったと思ったけどそうでもないのか?」
「かなり減ったよ。しかもほとんどが少数だった。だからこそ手柄を求めたバカ共がする必要もないケガをした」
「治療は必要か?」
「こちらだけで手が足りる程度の物だ。それでどれほど狩って来てくれた?」
「手あたり次第やったから数えてない」
俺の答えに唖然としていた。五十程度を簡単にあしらったのを見ているのだからそれほどの事もないと思うのだがそうでもないのだろうか?
「そんな顔するほどの事か?」
「普通は数を数えていくらの儲けが出たと喜ぶんだと思うが数えてないのか」
「そこに驚くのか。そう言えばこの前のヘルキャットはどうした?」
持って行っていないならついでに運んでもいいかなと思って聞いてみた。物資のやりとりをしているならすでに運ばれた可能性の方が高いとは思うけどな。
「すでに町に運んである。後日ここに参加した者たちに等分されるはずだ。君たちも数に入っている」
「そうか。それで言っておかないといけない事がある」
「なんだ?」
「俺達の売る数が数だから値崩れを起こす可能性がある。あまり恨まないでくれよ?」
運ばれているならその分の利益は確定でいいだろうけど、俺達の持ってる数はかなり多いと思う。
最初のヘルキャット狩りの半分や、俺がついて行かずエリナ達だけで狩ったものは魔石を抜いたり、食用にしたりしているので手元に残すつもりだがそれでもだ。
あのギルドで取り扱いの出来る限界までにするか、値下がりしない程度に抑えるかは向こうでの対応次第になる。
「それほどの数か」
「たぶんな。後の事は任せる。俺達は町に戻ってゆっくり休んで先に進ませてもらうよ」
「襲撃も減ったし、そろそろ規模を縮小して今度は町の南側をって話になってる。そっちに手は貸してもらえないか?」
「断る。手を貸すくらいなら俺達で片付けた方が早い。それで他の連中は納得するのか?」
「……しないだろうな。元々俺達の問題だ。俺達でなんとかする」
「ぜひそうしてくれ。それじゃ必要ないケガをするなよ?」
「当然だ。油断はしない。今回は本当に助かった。礼を言う」
「依頼だからな。それほど気にする事でもないさ」
そう言って俺達はその場を後にして町へと戻っていった。アルディスの所を離れる時に幻術を使って周りには見えないようにして出て行ったので絡まれる事もなかった。
門につくと前と同じ人が立っていた。その人から声をかけられギルドが俺達が帰ってきたらすぐにでも報告を聞きたいと聞いたので予定通りギルドに向かった。
ギルドにつくと例の変な受付嬢もいて思いっきりミヤビの名前を呼びながら手をふってるけど無視して後から対応してくれた受付嬢の下へと行く。
そして今度は迅速に向こうの受付嬢は連行されて行った。
「申し訳ありません。しっかり言い聞かせて罰も与えたのですが……」
「バカは死んでも治らないって事かな……。それで報告はここですればいいかな?」
「はい、すでに五十匹のヘルキャットが搬入されてその立役者が皆さんだというのは聞いているのですが、その後の事を聞かせていただけますか?」
「話すより実物を見せた方がいいかな。俺の空間収納は容量が異常に大きいから成果は入れてあるんだ」
「わかりました。では解体場にご案内します」
最初に丁寧に対応しなかったせいで口調が崩れたままだ。困る事もないしこのままでいいか。果たしてここの解体場の処理能力はどれくらいなのか? 値崩れしないのはどのラインなのか? どうなるんだろうな。
案内された先で人を紹介された。
「この方が解体場のリーダーのデリックさんです」
「デリックだ。それで何をどれだけ持って来たんだ?」
「ヘルキャットなんですけど、どれくらいならここで解体して値崩れ起こさないでいけますか?」
「値崩れ心配するほどの量があるとは到底思えないが、今は暇だからな百でも二百でもどんとこいってもんよ」
「なら出しますけどどこに出せばいいんですか?」
「面白れぇ。まずはここに二十出してくれ。その後は向こうの冷蔵庫に積んでおいてくれればいいぜ」
「なら出しますね」
言われた通りまずは二十並べていく。ポンポン出て来るのに唖然としながらもすぐに動き出して解体を始めた。
その後は冷蔵庫の方にガンガン積んでいく。慈悲などない。ちょっと言ってみたかっただけだ。そして二百きっかり出してから笑顔で
「まだまだありますよ」
と言ってみればその様子を見ていた受付嬢さんは言葉も出ないようだった。デリックさんは解体の方に回っていてすでに何匹か解体が終わったようだ。積んだ所から引っ張り出して外へ運んでと仕事をしている。
「すごい量ですけどまだあるんですよね?」
「あるよ」
「……どうすればいいのでしょうか?」
こっちに聞かれても困ってしまう。寒いしいったん外に出ようと提案しようと思った所でデリックさんがまたヘルキャットを取りに来た。
「おぉ、全部出し終わったのか?」
「まだたくさんありますよ」
「あーじゃぁそこに出しておいてくれ。空間収納に入れておいても腐るだけだろ」
そう言えば状態を維持したまま仕舞っておけるって説明していなかった。説明すれば対応も変わって来るだろう。むしろこの量からなにかしら仕掛けがありそうって思わないのかな? この光景を見たらそこまで頭が回らないかもしれない。
「俺の空間収納なら腐らず状態を維持したままにできますよ」
「何!? だったらまた明日朝来てくれ!」
「明日はがっつり休みます。これは決定事項です」
「くっ……。仕方がねぇ。明後日また来てくれ。そん時までに商業ギルドの連中とも話はつけておくからよ」
「よろしくお願いしますね」
「冒険者ギルドとしても今日の分は明日には清算できるようにしておきます」
「いや、だから明日は来ないから。それと百匹分は防衛やってた人達にも分配しといてくれ。ここでだいぶ在庫が出て値下がりするであろう事に対する詫びって事で」
「よろしいのですか?」
「それでなくても俺達だけでだいぶ稼いでるんだ。後方で守ってたって名目で多少は分けてやらないとな」
俺達がここまでする必要はないけどそれでも多少はこういう事をしておかないと色々突っかかって来そうな気がするのだ。突っかかってくる奴はどんな理由でも突っかかってきたりするけどな。
そして今夜はがっつりでした。




