4.スライム
今日はさっそく王都の東側にある川にやってきた。王都の東門や南門から出て近い場所は新人がスライム探したり、薬草探してるので更に南下してきた。
あんまり南に行くとゴブリンが出てくることもあるから注意が必要だ。俺はソロだし十分気を付けないといけない。ゴブリンが出てくることを期待してここにいるわけではない。けっして出てくることを期待してる訳ではないのだ。
ここなら新人が来ることもないので薬草もけっこう生えている。ゴブリンがたまに出て来るから来れない訳じゃない。単純に遠いのだ。わざわざ普通に歩いて片道三時間もかけてここまで来る必要はないのだ。
むしろその移動時間を減らして薬草採取やスライム退治をするべきだ。
それならばなぜ俺はここに居るのか? 簡単な話だ。身体能力がどんなものか確認するために全力で走ったら三十分もしないうちにここについてしまったのだ。
ちなみに時計自体はある。ただ、高価なため今の俺では手が出ない。それではなぜ時間がわかるのか? 答えとしてはなんとなくとしか言えない。それでも時間がおそらく正しいのだろうと思う不思議。移動距離も速度もなんとなくわかる。何かしらのスキルの恩恵だろうか? 便利だけどね。
薬草は依頼一回分の十束だけ採る事にした。もっと採ろうと思えば採れるのだが紐が無いのでまとめきれない。だから小さい方の道具袋に入れていたのだけどどう考えても二十束入るだけの大きさがなかったので、十束で我慢した。無限倉庫なら入れたままの状態を維持できるけど、たくさんの薬草をいちいち取り出すのが大変なのだ。
薬草を採り終えて、今度はスライムを倒す。探す必要もないさっきからそこかしこにいるからだ。とりあえず一回だけ試しにマジックアローを使ってみる事にした。実際の威力を確かめる。
「マジックアロー」
この世界のスライムは核のないタイプだ。白い眼のようなものがついてるがそれが本当に目なのかどうかはわからない。色は周囲の環境や種類によって変わる。ここだと川辺で水の影響を受けてるので青だ。大きさは三十cmくらいのグミみたいな形をしている。
そんなの関係ねぇとばかりにマジックアローはスライムを貫き地面に穴を空けた。その穴の中に手を入れてみたら肘まではいってしまったのは驚いた。
「ダメだ……マジックアローでこの威力じゃ魔法を使う時は気を付けないと……。範囲魔法なんて使ったらそこらじゅうひどい事になるな……」
火なら効果範囲は燃え尽き、水ならぐちゃぐちゃ、風なら色々な物を巻き上げ、土なら地形変化がとんでもない事になるだろう。状況に寄るだろうけど気軽に使えるものじゃないのはわかった。
討伐証明はすべての魔物が持っている魔石だ。だが、マジックアローの威力のせいかスライムの魔石が見当たらなかった。と、いう訳で今度はサンダーニードルです。期待してますよ?
「サンダーニードル」
当たるとパンとはでて魔石になった。小指の爪ほどしかない魔石だが、人生初の魔石ゲットだ。
「よし、この調子で集めよう。十匹退治で依頼一回分だから後八十九匹分の魔石を集めたら昇格だ」
ちなみにスライムを二十匹倒して二回分の依頼をこなすと千リーレになり、冒険者として生きていくのに最低限の収入になる。
個室をこのまま使いたいなら四回分は依頼をこなす必要がある。だが、目の前にはたくさんのスライム。スライムは川のどこにでも万篇無くいるのではなく、スライム溜まりといわれるポイントがあり、そこに集まっている。きっとここはそういうポイントでしかも人がほとんどこないのだろう。
つまり狩り放題、スライムは知らないうちに増えるからなんの問題もなく倒せる。倒せるんだけど……あまりにも単調だった。
サンダーニードルを撃つ。魔石を回収するをずっと続けるのだ。爪ほどの大きさしかないのでまとめて倒すと場所がわからなくなる。それでもがんばって昼頃までやった。
「どれだけ集まったかな……。まだランクアップ分は集まってないだろうなぁ……。それにポイントなら狩りつくしておいた方がいいよね」
スライムも溜まり過ぎると害になる。大体その前に水で流されて行くんだけどたまに水をせき止めるくらい溜まったりすることもあるらしい。でも、めんどくさい。
寝っ転がりながら休んでいたらピョンピョンとスライムがやってきた。寝てる俺に体当たりしてくる。振り払おうと思ったその手を止めた。なるほど、自分でやる必要はない訳か。
俺はスライムを捕まえて言葉を紡ぐ。
「我が名はユキト、汝と契約を望むものなり、返答はいかに」
魔物の使役、つまり従魔スキルを使ってスライムと契約、そのままでは同じくらいの強さなのですぐに死んでしまうだろうけど、支援してあげれば圧倒的な強さで蹴散らしてくれるだろう。しかもその体内に物を入れる事もできる。空間収納ではないので、体の中で入れた物がプカプカと浮いている状態だ。それを使ってある程度貯まったら道具袋の中に吐き出してもらえばいい。
元々従魔スキルはほとんど使っていなかった。友達にスライム最強育成やろうぜ! と誘われて付き合った時に上げたっきりだから初級止まりだ。けっきょくスライムはスライムだった。炎を吐く事もなければ人の姿に変化することもなく進化もしなかった。
それでも、この世界で基準で四級指定の魔物を単独で倒せるくらいの強さには成長していた。
スライムから魔力が返って来たのでそのまま契約する。名前は前のと一緒でいいだろう。
「名を授ける事により汝との契約とする。汝の名はアクアなり」
こうして、俺とスライムことアクアの契約は果たされた。ステータス画面がないので成長具合がわからないのが痛いが、のんびりと育てて行こう。
スライムを育成するのとランクアップをどんどんしていくのは両立できない気がしたが、なんとかやっていこうと思う。こっちでの今までの生活は余裕を持たずに必死になっていた。少しくらいはいいだろうと自分を納得させる。
孤児院のチビらよ。おいしい食事は少し待ってておくれ。もう少し蓄えができたら行くからな。
「それじゃあ、アクア。お前には今からスライムを倒してもらう。同族だけど頼むぞ」
そういうと契約によって繋がったラインから小さく反応が返って来る。伸びたり縮んだりもしてる。はいはい、了解。
「ほれ、魔力だな。ゆっくり食べな」
俺は指先に小さな魔力の塊を出した。アクアはお腹すいた。食事くれたら働く見たいな反応を返してきたのだ。腹が減ってはしかたがないので魔力をやることにした。指先を自分の体内に引き込みそこから魔力を吸い上げている。俺からしたら微々たる量だ。まったく問題ない。
しばらくして満足したのか指から離れてピョンピョン元気よくはねている。準備は万端といったところか。
「それじゃよく聞くこと。今から支援魔法をかける。そうすれば負ける事はないけど無茶はしないように。スライムを倒して出てきた魔石を回収。とりあえず十個集めたら戻って来る事。いいな? ……よし。それじゃ魔法をかけるぞ。オールブースト、ディフェンス、アタック、オートプロテクション。よし、行って来い!」
オールブーストは全体、ディフェンスは防御、アタックは攻撃の強化魔法、オートプロテクションは一定時間ある程度の物理ダメージを自動で防いでくれる魔法の盾のようなものだ。
かけ終わってからディフェンスいらなかったかな? と思ったが保険は大事だ。
そしてすぐに戻って来るアクア、体の中には魔石が十個すでに浮いていた。アクアさん早いです。ご褒美に撫でてさしあげましょう。
「もう集めて来たのかよしよし、それじゃその魔石をこの中に吐き出してくれるか? おぉ、アクアはいい子だな。まだ貯め込めるか? 二十個はいけそうか? 無理せずに帰って来いよ」
アクアにとってあの程度余裕だったらしい。たいして指示も出してないし、ステータスが見れないのでなんとも言えないが、自分よりも格下の相手の成長を促進させる指導スキルも効果を発揮しているのだろうか? 支援魔法のおかげで過剰火力なのでレベルが上がっているのかどうかもまったくわからない。
ただ、三十匹も倒せば確実にレベルは上がってるはずなので支援魔法が切れたら一度、素の状態で戦わせる必要があると思う。なぜ三十かって? すでに倒して戻って来てるからですよ。
「よしよし、アクアは本当に優秀だな。この中に魔石また吐き出してくれ。いい子いい子。ん? どうした?」
平気、まだいけると訴えかけてくるが何が平気でまだいけるのかわからない。そうすると袋の中に入り魔石をごっそり体内に仕舞い込んだ。そしてピョンピョン動き回ってから袋に戻って魔石を袋の中に戻した。その光景をぽかんと口を開いたままみてしまった。あんなに貯め込めるんですか?
「もっと、たくさん一度に持って来れるって言いたいのか? わかった。よろしく頼むよ。ただ、ギリギリまでじゃなくて余裕を持って戻ってくるんだぞ? それじゃ魔法かけなおすからな」
その後、アクア無双が始まった。支援が切れたはずなのに戻らなかった時はあせったが、問答無用でスライムを倒していた。一応ヒールをかけたが必要ない気がした。なんだか成長が早い気がしたが、相手がスライムなので確認ができない。ゴブリンとどこまで戦えるかが成長を見る機会か? フル支援でやればゴブリン相手でも死なないだろうか? できれば殺さずに育てていきたい。
そんな思いを知ってか知らずか、アクア無双は続く。もう少しで空の色が変わりそうだなぁなんて思う頃、スライムの姿はアクアを残して見えなくなっていた。道具袋も魔石でいっぱいになった。……どれだけ入ってるのだろうか?
「アクア、魔物ももういないし帰るよ」
そう言うとアクアが戻って来て胸に飛び込んできてグリグリ体をおしつけてきた。そして何かを伝えて来た。
「……はいはい、食事ね。魔力でいいのか? それとも水とか他の物がいいのか?」
返ってきた反応は魔力、魔力、魔力、魔力の連呼。どれだけ魔力好きなんだろうか? お金もかからないしこっちも助かるけどね。
「それじゃ一度おろすぞ。ほら、食べな。食べ終わったら……抱きかかえて町まで走るか」
アクアの移動速度じゃ絶対に追って来れないので抱えていくしかない。従魔は確か……冒険者ギルドで登録すればよかったはずだよな? 今から行くとピークにひっかかるかな? 慣れっこだからいいけど、アクアの事で変に絡まれないといいなぁ。ギルドの中なら大丈夫かな?
魔力を食べ終わったアクアを抱えて王都に戻るのだった。