39.小屋
時間もそれなりに過ぎて俺は伐採の真っ最中だったが二人が俺の所に戻ってきた。戻って来たといっても最初にいた場所に居る訳じゃない。伐採しながら二人を追いかけていたのだ。だから、ある程度魔物も回収してある。たまにかじられてしまっているものもあったが、そのかじってる魔物はそのまま素材や魔石になったのでマイナスはないだろうと思う。
「そっちはどうだった?」
「私はあんまり出番はなかったかな?」
「私は久しぶりに実戦で弓を使いましたが……。動かないのであれでは訓練の的当てと変わりませんね」
その後にアクアは土の上をゴロゴロ転がっていた。エリナの出番がなかったくらいなのでアクアもやることがなかったので暇だったとでも言いたいのだろう。
「エリナは回復役なんだから本来出番がない方がいいんだからね? 特に問題がなかったのなら良かったよ」
「何度か上から襲われましたが、しっかりと叩き落とせましたので問題はありませんでした」
「遠距離できない人は確かにわざと落ちて来させて途中で叩き落したり、落ちてきたのを避けて地上で戦ったりしてたな。下手に地上に降ろすとたたかいにくかったりするけどな」
「そうなる前に倒せたのは良かったことだと思いますが、降ろしてから戦った方が訓練になったでしょうか?」
「安全第一だ。無理はしなくていい。そもそも俺は危険を冒してまで二人に何かをさせたいわけじゃないし、俺としても最終的には農業やりながらあれやこれや作って生活したいから今は冒険者として稼いでるだけだしな」
「魔道具作って売った方がお金になるのに仕事にはしたくないって言いながら冒険者やってるんだよね」
「特級くらいになっておけば周りも手を出せないだろうしな」
「なっておこうでなれるものではないですよ……」
俺もまだ正式登録した頃は一級の力や特級の力はもっと上だと思っていた。しかし、スイナさんの力の一端を感じ、ミヤビの全力を簡単に受け止めてきてしまった今では、特級へのハードルなど依頼をこなした数くらいしか思いつかなかった。
「普通ならそうなんだけどな」
「ユキトくんに普通を求めるのが間違ってるんだよ」
「いや、エリナ。そうかもしれないけどもう少し言い方というものが……」
「でも、ユキトくんだし」
「そうですね。ユキトさんですし」
もうこのやり取りも慣れました。でも、おそらくエリナはまだしもミヤビの実力は特級クラスはありそうだからね? エリナはエリナで同世代ではおそらく最強クラスの戦力だからねと口には出さないが思った。
口に出したらあーだこーだと言いあう事になり時間がかかるかなと思ったのだ。
「はいはい、それじゃテント張った所に戻るぞ。今日中に最低限加工だけは終わらせておきたいからな」
「キレイにしてありますけど明らかに土がむき出しになってる場所が広がってますよね」
「この程度じゃ大して影響もないだろ。さっさと戻るぞ」
「うん」
「はい」
こうして木を手に入れた俺は戻ってからガンガン加工していった。まずは小屋と柵を作るのに必要な木材だけを加工して、それが終わったらすべての木を乾燥させて枝を落とす所まではやっておいた。
その次の日は小屋と柵を作った。小屋と言っても小さなログハウスなので壁は厚い。厚くなっていた方がエンチャント容量が大きいので丸太のままでひたすら防御力、魔法防御力、耐久性を上げるようにエンチャントしていく。アーマードボアの牙を触媒にして更に強化してある。
住むことは考えてないので窓はない。ひたすら防御一辺倒だ。さらに壁の四隅に魔道具を埋め込む。燃料を入れて置けるように箱がむき出しでおいてあるが見栄えなど気にしない。この魔道具は魔物や人避け、隠ぺいや幻による柵と小屋を隠す物になる。中央には転移魔方陣を敷き、王都に戻りしっかりと動作してる事を確認した。
確認した後で、マーカーによる帰還じゃなくて転移魔方陣同士の初めての移動だったと思い出したが思い出した所で何がどうなるものでもないと思いそのまま作業を続けた。
柵は設置したけどあまり意味がないような気がしてる。それでも魔物除けなどの効果は絶対じゃない。直接小屋に攻撃されるよりはいいかと思い柵を用意してあるだけだ。
しかも、小屋はともかく柵は確実に取り壊して拡張していく。なので柵は手抜きだ。太さなんかは無い為にエンチャントも防御力を上げる程度になっている。
俺が小屋と柵を作り終えたのは昼過ぎだったが、エリナ達が帰ってきたのは夕方近くになってからだった。
エリナ達は俺がここで作業してる間、ヘルキャットを狩って来てもらっていたのだ。
「おつかれ。ケガはない?」
「この程度でしたら問題ありません」
「ヘルキャットくらいなら私でも問題なく倒せるよ」
エリナはヘルキャットくらいと言っているが、あそこにいた冒険者達が聞いたらなんの冗談かと思うと思う。
ミヤビは彼らの目の前で戦っていたし凛とした姿で言われれば、この人にとってはヘルキャットなんてと思えると思う。
だがしかし、柔らかい印象を与える姿で治療を行っていたエリナが必死になって戦っていたヘルキャット相手にくらいと言われてしまえば信じてもらえないと思う。
同じような事を思ったのかミヤビも苦笑してる。
「エリナが問題なく倒せるのは知ってるけど、大事な人の心配をするのは当然だろ?」
「えっと……、そうだよね」
えへへと笑うエリナも可愛いが、どう反応していいのかちょっと戸惑ってるミヤビもあれはあれでいいものだと思う。
「それでヘルキャットはどうしてきた?」
「私達ではさすがに運べませんので言われた通り魔石だけ取り出して、後は土に埋めたと表現すればいいんでしょうか? 魔道具で処理して来ました。これはすごいですよね……」
俺が渡した魔道具はゴブリンなんかを地面に食わせていたあれを魔道具にしてみたものだ。魔力消費も案外少なく、燃やさないので目立たないし臭いもしない。欠点があるとすればそこに生えてる草もキレイになくなるのでそこだけポッカリ土がむき出しになるくらいだろうか?
「ちゃんと処理してきたなら問題ないよ。それにしてもだいぶ遅くなったな? 最低でも夕方までに戻るって言ってたから予定通りと言えば予定通りだけど」
「それはその……、もう転移魔方陣で移動できるんだよね?」
「できるけどそれがどうかしたか?」
「うん、今夜は家に戻りたいなって思って」
そう言ったエリナの表情で理解した。チルアスで泊まってそこで発散する予定だったものが先延ばしになっているのだ。さすが見た目とは違って夜は肉食系なエリナだ。
ミヤビを見るとこちらもニッコリしてるのですでに打ち合わせ済みなのだろう。俺としても嬉しい事なのでその提案に乗る事にした。というか時間的にもう乗る以外の選択肢はない。
「俺としても嬉しいお誘いだからいいけど、事前に言ってくれてもいいのに」
「そうしたら、戻るのを優先するんじゃないかなって思って」
「いやいや、俺だって二人とのふれあいは好きなんだから断ったりしないって、里を目指すのは早い方がいいけど今更少し日数が伸びるくらい気にしないって」
「そうなの? 里に行くのものすごく楽しみにしてたみたいだから……」
「それだけを考えてたら、家を作るとか言って全力で横道を走り出しそうなマネしないから」
「そう言えばそうだね」
「そう言う事。それでも明日はしっかりチルアスに戻るから。特に期限がないとはいえ完全に連絡を絶ってるのもまずいだろうし」
死んでると思われてるかもしれない。それならいいけれど、ヘルキャットが減ってるからと探しになど来られたら、帰りの歩調を合わせないといけないかもしれない。
おそらく、あの道でしばらくは様子見になるからそうはならないと思うけど、どうなるかわからないのだ。
「確かにそうですね。今日の所は軽くと言う事にしておきましょうか」
「軽くかぁ……。ユキトくん明日はしっかりしてくれる?」
「それは明日の状況次第になるかな? でも、数日野宿って向こうは思ってくれてるだろうから明日町に行って明後日くらいはゆっくり休めるだろ」
「それなら今日は軽くだね。夕食食べてお風呂に入って早く家に戻ろっか」
「エリナ、早く始めればいいやとか思ってないか?」
笑いながら誤魔化すエリナが可愛かったけどもこれで本当に軽く済むのかと思うのだった。




