38.森
家を建てる予定地を拠点にとりあえず二日ほどかけて、山の南側から道のある方を重点的に狩ってまわった。移動中も思っていたがかなりの数が繁殖していた。これなら押し出される形で山の向こう側まで行くなぁと思った。
数に関しては数えていない。ロゲホスの時はある程度数を覚えていた方がいいかなと思って数えていたが、ヘルキャットは適当にギルドに提出するだけなので必要ないと思ったのだ。ある程度お金に余裕ができてざるになってるというのもある。
ヘルキャットは食用としてはそこそこうまく、革製品としてもそれなりのものが作れる。と俺は思っているが実際こっちではどういう扱いなのかはさっぱりわからない。肉に関しては解体してから食べてるので味は保証する。
その他には小屋を守るための魔道具をせっせと作っていた。材料になる魔石はヘルキャットの魔石で十分だし、燃料もヘルキャットの魔石があればいい。山に近い方はだいぶ狩ったがまだまだ数は十分にいるし、南の森の中にも多くの魔物が生息しているはずなので魔石の確保は十分できるはずだ。
ヘルキャットもそれなりの数を狩ったのでそろそろ家を建てたいと思い、今日の予定を発表する。
「今日は南の森に入ろうと思う。最初は未見の魔物も多いからゆっくり進んで目標はメタルゴーレムがいる奥地の入り口あたりまで行きたいかな」
「魔物の事を聞いてもいいですか?」
「入り口あたりにいるのがフォルフォレスネーク、木の上から落ちて来るから基本的には俺がプロテクションを張りながら移動する。シャドウスライムは影から体当たりとか魔法を使って来るから気を付ける事。影に入ってるから安心してるのか気配はばっちり確認できるから大丈夫だと思う。ウォーターバード、シャドウスライムのおこぼれを狙ってるから、近くにシャドウスライムがいる可能性が高い。動きも早くて水魔法を使って来る。最初のうちはこんなもんかな」
「他にもいるの?」
「今のが手前側にいる魔物で、中層がロゲホスのウルフ版ロゲルフ。各種属性魔法への耐性が高い。だから打撃で倒すか、マジックアローみたいな無属性魔法で倒すことになる。フォレストボア、全身ツタで覆われたボア系の魔物でアーマードボアの小型版みたいな魔物だ。火に弱いけど森の中だから火気厳禁ってところだね。ベーグ、ベアとオークを混ぜたような魔物でとにかく力は強いし、ゴブリンみたいに何匹かで固まって行動するから気を付けること。後はメタルゴーレム。金属製のゴーレムで魔法は効きにくいし、斬るのもイマイチ、だから打撃での攻撃が基本。そんなところかな?」
一気に説明し過ぎたか? とも思ったけども先に与えておく知識としてはこんなもんだろうと思う。後は実地であれこら言いながら確かめていけばいいと思う。
「その魔物達を狩って来ると言う事でいいのですか?」
「いや、メタルゴーレムがいる辺りの木が建築資材としていい感じだから伐採が主かな? ロゲルフの毛皮とか色々とほしいものはあるけど、まずは家からだね」
「家なの? 転移魔方陣がある小屋だけにするのかと思ってたけど」
「……そうだよな。里に行く用事もあるんだし小屋にしておくか……。チルアスにも行って報告しなきゃならないし」
「ユキトさんがなさりたいようにやってもらって構いませんよ」
「いや、一番の目的は里に行く事だし今日中に、最悪でも明日にはここから離れられるようにがんばろうか」
「がんばろー」
「ユキトさんがそれでよろしければお願いします」
そうなると森の中まで入らなくてもいいかもしれない。木の状態を見ながらそれを決める事にした。
そして森の近くまで来たのだが
「う~ん……。やっぱり変わってるか」
「どうしたの?」
「ヘルキャットが繁殖して外に広がったみたいに、森も広がってるみたいだな。そのせいでヘルキャットは更に押し出されたんだと思う」
「そうだとしてもどうするの?」
「う~ん」
とりあえず木を一本調べてみる。しっかり育ってはいるけれど普通の木だ。家を建てるなら物足りないけど一時的に小屋と柵を作るくらいならこれくらいで問題ないだろう。
「うん、この辺の木を切って行こうか。ガッチガチに強化する自宅ならともかく小屋程度ならこのくらいでいいし、他の家を建てる時もここの木を切って森を多少でも小さくするか」
「そんな事をして大丈夫でしょうか?」
「切るだけだと魔物が溢れだしてくるからいずれは奥に潜ってガーディアンも倒さないといけないかな。やっぱり増えてるのかなぁ……」
「そのガーディアンというのはどれほど強いのですか?」
「んー……おそらくミヤビが多少もつかもたないかって感じかな? 間違っても倒しに行けなんて言わないから安心していいぞ」
「そのような魔物がいる場所に行くのですか?」
「俺にとってはその程度だからなぁ」
すでにフレスベルグを実際に倒してしまっていてはその程度扱いになってしまう。もちろん戦闘条件が違うし、向こうにいた時でもそれなりにソロでは苦戦していた相手なので下手をうてば死ぬ可能性はもちろんある。あるけど、まったくそういう恐怖を覚えないのはいいことなのか悪い事なのか……。
「そんな事はとりあえず置いといてだ。ミヤビは今何匹くらい補足できてる?」
「木の上ですよね? 三匹ほどでしょうか?」
「それじゃそれを撃ち落としてくれる?」
「……なまらない程度にしか弓はやってないのですが」
「ダメでも動き出せばどこにいるかわかるから、エリナが仕留めればいい。そうなったらエリナよろしく」
「うん、ミヤビさん任せてね」
「わかりました」
「落ち着いてゆっくりやればいいよ。フォルフォレスネークは基本自分の攻撃範囲内に入らなければ動かないから」
「はい」
ミヤビは弓を構えた。そして弓が光り出す。動かない的ならいきなりアーツを使っても問題ないだろう。しかし、実戦で弓を見るのは久しぶりかもしれない。最近はグレイブを振り回しての大立ち回りがメインだからなぁ。
そんな事を考えていると矢が放たれた。アーツ魔乗せを使って矢に魔力を相当乗せて撃ちだしてる。あれだともしかして……。フォルフォレスネークに見事命中してドサっという音と共に落ちて来た。
「どうやら倒せたみたいですね」
「低いよりはいいんだろうけど、今のは威力が高すぎるぞ。ちょっと待ってて」
俺は今フォルフォレスネークが落ちて来た木を魔力剣で斬り、二人に当たらないように木を倒して矢の後を見せてみた。
「ほらこことここ、つまり威力が高すぎて貫通してどっかに矢が飛び去っていった訳だ」
「ここまで威力が出るのは私も想定外だったのですが……」
「ロゲホスはともかくあれだけデーモン系を倒して、ここでもヘルキャット倒せばそれは成長して今までの感覚で撃てば結果も変わるな」
「俺の見立てだと今の七割くらいでちょうどいいはずだ。それくらいの威力でとりあえず一匹やってみようか」
「はい」
再び弓を構えてアーツを使って矢を放つ。今度も一発で落とせたが今回のやつは頭が木に隠れてたはずなのに頭をしっかり貫いて倒していた。その後の矢を今度は追っていたのだが、すぐに力を失て落ちていた。威力はまぁこんなものかと思いながらもまだ矢に残っていた魔力の残滓のせいでちょうど矢の落ちた所にいたシャドウスライムが入り込んだ影があり、直撃お亡くなりになったのはご愛嬌だろう。後で魔石を回収しておかないと。
「貫通したけどその後すぐに落下。威力としては十分かな。それじゃミヤビはこの辺にいるフォルフォレスネークを四十くらい狩って来てくれ。ミヤビの感知できる範囲は今倒したフォルフォレスネークが限界みたいだから距離には気を付けるように。エリナとアクアはミヤビの護衛。上からの攻撃も地上からの攻撃も両方とも気を付けるようにな。俺は木を確保してくる。倒したのは放置しとけば俺が後で回収する」
「わかりました」
「わかった」
さて、各自役割分担をしてそれぞれの仕事に入る。とはいえ俺は一応感知範囲にエリナ達を入れておく。離れすぎないように木を切る位置を少しずつそちら側に移していい。
木を切り収納、木の根も掘り起こす。掘り起こすといっても土の魔法で地面から根を吐き出させるように動かしてるので大した力入らない。
掘り出した根も回収しておく。いくらでも入るからと無造作に大量に入れすぎてる気もするが気にしない。入ってる物はなんとなくわかるし、きっと問題はない。問題はないはずだ。
小屋一つ、それを守る柵、その必要量よりも多くの木々を伐採して行った。この過程で隠ぺいの効果を上げるためのシャドウスライムの魔石やその他諸々の魔物や植物素材を採取して行った。植物素材なんかを入れる整理用の袋や箱も必要だなぁと思いながら作業を進めていくのだった。




