36.却下
その後無事に町に着き、冒険者ギルドへと行ったのだが
「そんなのうちじゃ無理じゃ! お願いだから王都に戻って対応しておくれ」
とギルドマスターに泣かれてしまった。そんな訳でアーマードボアの魔石をハニエルさんに預けて向こうに届けてもらう事にした。一緒に戻らないかと言われたが当初の予定通り進むことにした。戻ってもいいのかもしれないけど、なんとなくスイナさんに長く空けると言って出てきた手前このまま戻るのがなんとなく気恥ずかしく思えたのだった。
それにここから王都に帰り、再びここに戻って来る時間を先に進むことに費やせば移動するだけなら連合国に入れるくらいまで進めるはずだ。
とはいえ、途中でチルアスに寄ってサークリスへと向かうのだからそこまでは進めないだろうけど早く移動したかった。
素材が俺を呼んでいる。そしてお米が俺を呼んでいる。ものすごく自己中心的な欲求で今回の旅は彩られていた。……このパーティって基本俺の欲求で動いてるけどな。
そして八日後、俺達はチルアスに到着した。馬は元気でも俺達がいないから魔物やそもそもの移動速度が違う。俺達が居た時は六日でついたがハニエルさん達は王都にはまだついていないと思う。
俺達が一緒にいるとあのバカ共の戯言に付き合わされると思ったのも先に進むことを選んだ理由だ。
だが、チルアスについた俺達はすんなりと目的地にいけなさそうだった。それは町の門での事だった。
「少し待ってくれないか?」
「なんでしょうか?」
俺達はいつも通り片手を上げて挨拶をしてそのまま入ろうとしたら止められてしまった。なにかあるのだろうか?
「三人だけで歩いて来たという事は冒険者で間違いないだろうか?」
「そうですよ」
「そうか、ならギルドへ行ってもらいたい。今南側で問題が起こっていてな。できる限り協力してもらいたいのだ」
「問題ですか?」
「今すぐどうなるという問題ではないが、早く対処しなければ街道に、そしてこの町に影響がでかねないのだ。頼む」
「わかりました。ギルドの場所は?」
「そうか、最低限荷運びの手伝いだけでもしてもらえれば助かるからよろしく頼む。場所はここをまっすぐ進めばすぐにわかると思う」
南側とはいえおそらくは山よりもこちら側の話だとは思うが、物理的には一番近い町になるのでここは一つ役にでも立って名前を覚えてもらおうかなどと思いながら俺達はギルドへと向かった。
すぐに見つかったギルドに入ると、入ってきた俺達をみた職員に動きがあった。
「あ! ミヤビさん! こちらへお越しください!」
「ミヤビ知ってる人か?」
「ここに来たことはないので私にはまったく覚えがありません」
「でも、呼ばれてるぞ?」
「ミヤビさーーん!」
「……行きましょうか」
ミヤビは一級の冒険者だし、俺達の知らない今までの行動の中で相手が名前を憶えていただけだと思うけど、人前であんな大声を出されて名前を呼ばれた方はたまったもんじゃないとわからないのだろうか? 人前とは言えギルドの中は閑散としているけど……。
「ミヤビさんが来てくれたなら百人力です!」
「まずは状況の説明をお願いします」
俺が前に出るとめんどくさい事になりそうなのでミヤビに任せる事にした。その方がスムーズに話が進むだろう。
「は、はい! 実はこの町の南側の山をヘルキャットが超えて来てしまったんです。現在、迂回路の方にほとんどの冒険者が行ってしまっていまして……。ですから山手前及び山の中の討伐をおね」
「却下」
「ユキトさん」
「却下だ却下。山手前はまだしも山の中なんぞ誰が行くか」
「あなたには聞いていません。ミヤビさん、お願いできませんか?」
「あのユキトさん」
俺が口を挟まないというのをなんとなく理解してくれていたミヤビにとってはいきなり俺が口を出してきたのが驚いたのだろう。こちらの様子を伺っている。
受付嬢はなにこいつ? という視線を向けて来る。
「そもそも報酬の提示もないのに受けるやつはただのバカだ。自分の仕事もまともにできないんであればあんたは研修からやり直してこい」
「む、ミヤビさんならきっと助けてくれると」
「それがギルドの総意って事でいいのか? 他の職員もそれでいいんだな!」
そう言うと他の職員が目の前の小うるさい受付嬢を引っ張っていった。なんか色々言っているが気にする必要もない。そこに別の人がやってきた。
「その……まことに申し訳ありませんでした」
「どうせ人がいないんだ。もっと早く自分たちの判断で処理してもらいたかった」
「返す言葉もございません。まさかあのような対応を取ろうとは……」
「とりあえず、現状はなんとなく理解した。俺達の実力はミヤビが一級で俺とその娘が五級だ。だけどミヤビから見て実力は三級以上というお墨付きが出てる。だから、迂回路から山の向こう側の平原に入り、ヘルキャットを減らしてくる。そうすると報酬はどうなる?」
「その提案はありがたいのですが、大丈夫なのですか?」
「問題ない」
「少々お時間頂けますでしょうか? 相談してまいります」
そう言って席を離れて行った。これで山は回避できた。俺にとってはその安心感だけで良かった。だが事情がわからない二人はどことなく困惑している。
「結論から言えば俺は虫が嫌いだ。あの山には虫型の魔物が多く存在してる。そんな所には俺の精神安定の為、そしてなにより山の為に入りたくない」
「ユキトくんが虫が嫌いってのはわかったけど、山の為って?」
「燃えカスすらも残さない為にフレイムキャノンを連発すると思う。そうなれば山の木々は広範囲にわたってなくなる事になる。しかも、冷静に徹底的に殲滅していくと思うから地形が変わる。下手するとめんどくさくなって荷電粒子砲で新しい道を作るくらい地形を変えてしまう可能性がある」
「虫が嫌いで地形を変えるなど笑い話にもなりませんよ」
「だから迂回路から向こう側に行くんだろ? それで迂回路側を殲滅して迂回路の防衛をしてる連中に山周辺の事はまかせる」
「それで納得してくれるかな?」
「おそらく山の手伝いをしてほしいって頼まれるだろうけど、俺達は恐らくそもそもの原因である山向こうの増えすぎたヘルキャットの数を減らしに行くんだ。文句は言われないだろ」
「それが終わってから手伝えといわれる可能性もあるのではないですか?」
「強制依頼じゃないんだし、いざとなればさっさと町を出ればいいだけだしな」
「それもそうですね」
虫嫌いだと知ってるのにあっちにいた時に虫ばかりの特級ダンジョンに連れていかれた事があった。入り口まで嫌だとだだをこねてた記憶はあるがそれ以後の記憶が俺にはなかった。聞いた話だと急に黙り込んで先頭をテクテクと歩き始め、サーチアンドデストロイで徹底的に殲滅して行ったらしい。そしてその動きは明らかに限界を超えていたらしい。その映像が残っていたが虫と戦ってる映像なんて見たくもないので見なかった。
そんな話を思い出したので行きたくなかった。実際何しでかすかわかったもんじゃないしな。
そんな事を思い出していたら受付嬢が戻ってきた。
「確認して来ました。今迂回路を守っている人たちは、消耗品や食品をこちらもちでヘルキャットの買取り値段を通常の五割増しという契約で働いてもらっています。それと同じ契約でもよろしいでしょうか?」
「それでいいよ。それじゃ……どうしようか? 日は高いけど明日からにする?」
「できれば今から向かってもらいたいのですが……、もちろん今日こちらに来たばかりでしょうから無理にとは言えませんが、消耗品や食料は向こうにありますので……」
移動してきたその日くらいは休みたいってのが人情ってものだと思う。俺は問題ないけど二人はどうだろうか? ……問題なさそうだなぁ。食糧なんかは今まで通った町で美味しいものを大量に買い込んで来ているので分けてもらう必要はないし追加する必要もない。美味しいものは追加するものではない。手に入れるものだ。
とりあえずそこは置いておくとして、消耗品も特にないし、人目につかない屋外の方が風呂小屋を使えたりするし、テントも大きくして中にベットまで持ち込んでいる。正直小屋を作ってそれを持ち歩きたい気分だが一晩中おいておくので多少自重してる。あのテントの大きさはすでに自重を忘れてると思うけどな。
「私は大丈夫だよ」
「私も大丈夫です」
「ならこのまま向かうか。依頼の受理お願いしますね」
「言った私が言うのもなんですが本当によろしいのですか?」
「この程度でへばるほど柔な鍛え方はしてませんから平気ですよ」
「あの、よろしくお願いします。みんなもう数日は向こうにいますから疲れもたまってきてると思うんです。どうかよろしくお願いします」
こういう言われ方をするとがんばってみようかと思うものだ。きっとこの人は人気のある受付嬢だろうなぁなどと思いながら手続きをしてもらい、町を出る事にした。
「君たちはさきほどの……、もう町を出るのか?」
「迂回路から南側の平原に出向いて狩ってきます」
「ヘルキャットと戦うには単独では二級以上の実力が必要だ。大丈夫か?」
「一級とその一級に実力を認められた二人ですから大丈夫ですよ」
「む!? それほどの実力者とは知らず、過ぎた口をきいた申し訳ない。出来ればあいつらを助けてやってほしい。ここの冒険者は大半がこの町出身者で私の友人達もいる。できれば五体満足で帰って来てもらいたい」
「相手は冒険者だから期待はしないでもらいたいけどね。すでにって人もいるだろうし……。ある程度の事はしてきますよ」
「それでもいい。よろしく頼む。だが君たちも命は大事にするのだぞ」
「気を付けるよ」
門番に別れを告げて俺達は走り出した。向かう先は迂回路で防衛線を張ってる冒険者達の所だ。




