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34.手柄

 七月十日の朝、集合時間前につきハニエルさんと話をしていると他の冒険者が近づいて来た。前回同様他の冒険者とは分かれていたはずなんだけどな。


「お前エリナか?」

「冒険者の集まるところはあっちだぞ」


 それが誰かわかった俺は非常に機嫌が悪くなった。こいつはエリナ幼馴染だ。抑えられてるけどこいつを殴りたくてしょうがない。殴っちゃダメだろうか? ダメだろうな……。

 そいつは俺を軽く睨むがすぐにエリナに視線を戻した。


「そうだけど、それがどうかした?」

「どうかしたって、生きてるなら生きてるでちゃんと会いに来ればいいだろ!? それなのにその言い方はなんだよ!」

「私のお守りから解放されて嬉しかったんでしょ? みんなで一部屋は楽しかった?」

「な、何のことだよ」

「あの日、ギルドから出てきた時にそういう話みんなでしてたよね? リックは気が付いてなかったみたいだけど私達はそこにいたよ」

「そ、それは……、エリナの勘違い、そう勘違いなんだよ!」


 口を出そうと思ってエリナを見たが、口出しするのを止める事にした。今までに見た事のないくらい冷たい目をしているエリナを見てここは任せた方がいいと思ったのだ。ただ、後でしっかりフォローしておく必要はありそうだ。

 ミヤビに関しては静観してる。静観してるが、ピリピリしてるのがわかる。


「勘違いなんだ。それを向こうで睨んでる女の子達の前でも言える?」

「も、もちろん! それとおじさんもおばさんもうちの親も心配してたぞ。だからうちのパーティに戻って来いよ」

「私は私の居場所を見つけたの。もう家に帰るつもりはないし、リック達と一緒になんていようとも思わないよ」

「そっちのやつらがどれだけ強いか知らないけど、俺達の方がよっぽどいいぜ」

「失礼ですがあなた達のランクを教えていただけますか?」


 そこに割って入ってきたのはハニエルさんだ。時間も差し迫ってる事だしさっさと決着をつけたいのかもしれない。


「あんた誰?」

「私は今回の護衛依頼を出してるエルド商会の者です。それで質問にも答えていただけますか?」

「えっと……、これが七級昇格試験だ。……です」

「そうですか。こちらの三人は今回の依頼の為に私達が依頼を出して来ていただいた方々です。そちらの女性が一級、こちらの二人は六級の冒険者になります。出発時間が差し迫っていますのでこれ以上ここに留まるのであれば、あなた達のパーティは今回の依頼からはずさせていただきます」


 これはさすがに顔を青くさせていた。こうまで言われてしまえば引くしかないだろう。普通ならそう思う。


「わ、わかった。……です。エリナ! 後でまた来るからな!」

「二度と来ないで」

「こう言っておりますので、近寄ってきたらあなた達のパーティは依頼失敗扱いとさせていただきますので、よく考えて行動してください」


 悔しそうな表情を浮かべて戻っていったが、どんな心境で声をかけてきたのかさっぱりわからなかった。


「エリナ」

「大丈夫」


 そうは言っても手を握るくらいはいいだろう。馬車に乗ってからはもう少し甘やかしてもいいと思う。手を握ると俺を見上げて笑ってくれる。エリナはやっぱり笑顔の方が良く似合う。


「なにかあればこちらに言ってください。手は打ちますので」

「私は気にしてませんから大丈夫ですよ」

「そうですか。ですが、私達にとってあなた方がもっとも大事な位置にいると言う事は忘れないでいてください」

「わかりました」


 出発前にトラブルはあったものの、おそらくこの後は大丈夫だろう。少なくとも俺はそう思っていた。

 出発してからは周りの人はハニエルさんと前にもお世話になった御者の人だったので遠慮なく横で腰に手をまわして座っていた。




 俺達の支援の効果は間違いなくあり、二日で隣町までついた。初日の夜に俺達が見張りの当番に入っていない事で色々と意見があったようだが、依頼主の意向と言う事で握りつぶしていた。

 そのせいで俺達に対する態度が悪いらしい。そういう風に冒険者をまとめてる商会専属の人が言っていた。その人も言外にそいつらにも見張りをさせろとハニエルさんに伝えさそうだったが却下されてた。

 直接言いに来る冒険者はさすがにいなかった。その前にハニエルさんが直接手を出したら依頼失敗扱いにしますからって宣言したらそれは来れないだろう。


 しかし、今回の依頼最大の問題は明日には町に着くだろうと言われてた昼頃に起きた。そしてそれは俺達にとってはチャンスでもあった。




 のんびりとしていたが、ドタドタという音を拾った。感知範囲にはまだ入ってきていないのにこの音……。


「ミヤビ、音を拾えるか? 重たいものがドタドタ走る音なんだけど」

「少々お待ちください」


 しばらく待つとミヤビが音を聞くために閉じていた目を開いた。


「確かに聞こえます。場所を考えると……アーマードボアでしょうか?」

「アーマードボアですか? ……方向はわかりますか?」

「私ではちょっと」

「ミヤビは聞こえなかったみたいだけど、馬車が急いで走る音も混じってる。おそらく遠目にアーマードボアが見えて急いで逃げてるけど、アーマードボアが気が付いて追いかけて来てるんだと思う。……ここなら先頭の馬車が向こうから来てる馬車に気が付いたんじゃないか?」


 俺のその言葉に反応したわけじゃないだろうけど御者さんがこっちに声をかけて来た。


「ハニエルさん。どうやら向こうから馬車が勢いよく走って来てるらしいですがどうします?」

「……逃げるしかないですね」

「いえ、この辺で待っててください。エリナ、ミヤビ行くぞ」

「ちょ、ちょっと待ってください! アーマードボアを三人で倒すつもりですか!?」

「三人と一匹で倒してきます。行くぞ」

「うん」

「はい」


 俺達は馬車から飛び降りて前方に向かって全力で走った。馬車などあっという間に置き去りにして向こうから来る馬車に近づく。

 その馬車をそのまま素通りする。何か言っていたけど気にしない。そしてその後ろにはお目当てのアーマードボアがいた。


 アーマードボアは体長七mほどのイノシシで背中とお腹以外はとても固い皮で覆われている。攻撃は突進のみだが、そのせいであっちではまともに壁が役に立たずはね飛ばされて攻撃ができなかった。途中からは普通に止められてたけどな。


 馬車の後ろと言ってもまだ平原の方を走っていた。徐々に軌道修正しているらしいがこのままでは道に入るので道に入らないように側面に回ってドロップキックをかまして道から遠ざける。ゴロゴロ転がったのは気にしてはいけない。


「ミヤビは頭に突きを通せ! エリナとアクアは足を攻撃! 間違っても腹を攻撃するなよ!」

「わかりました」

「お腹はダメなの? が、がんばるね」


 ミヤビに言った突きを通すというのは突きで貫けという意味ではない。石突きの方で硬い表面をから内部に威力を通すという意味だ。

 エリナとアクアに腹を攻撃させない理由は三つある。一つはエリナとアクアの攻撃なら攻撃が通ると思ったからだ。予想通りエリナは足に穴をあけ、アクアは切り落としてた。ウォーターカッターみたいに切り落とすのは予想外だったが順調だ。

 もう一つは下手に攻撃して傷がつくと魔石が傷ついたり、肉質が落ちるからだ。

 最後の一つは……、できればない事を祈りたい。

 俺は横倒しになったアーマードボアを拘束してる。エリナとアクアのおかげですでにほとんど意味がないし、ミヤビはそもそも頭は動かしていたのでそれ混みで動いてる。

 そんな事を考えていたらミヤビがしっかりと攻撃を通して生命反応が消えた。王都周辺最強と呼ばれるアーマードボアも俺達にかかればこんなものだった。


 そんな事を思っていたら火の玉が飛んでいった。そしてアーマードボアに直撃した。


「てりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 気合を入れてすでに死んだアーマードボアに斬りかかるバカがいた。これができればない事を祈っていた三つ目、バカ発見の為の小細工だ。

 わざわざ弱点を攻撃しないで空けておけばバカが釣れるかもしれないと思っていたのだが本当に釣れてしまった。

 すでにサークリスを目指すことが決まってる俺にとってアーマードボアのうまみなどミヤビが特級に上がる為の餌でしかない。俺とエリナはまだランクが低いので今度の機会にといった思いだが、ミヤビはすでに一級だしたぶんなれるだろう。

 素材としては牙があれば家の壁にエンチャントの頑強をする時に触媒として使えばレベルが上がるのでほしいくらいだが、代用品のめぼしはついてるしこれもまた絶対必要という事ではない。とは言え傷つかないように防御魔法はしっかり使ってる。


「ユキトくんあれ……」

「ユキトさん」

「俺達は目的を達成した。本来の依頼に戻る。回収するかどうかは依頼主が決める事だ。という事にして戻ろうか」


 エリナは俺の言う事をイマイチ理解できていないようだがミヤビはしっかり理解したようだ。俺達はバカを放置してハニエルさんに報告しに行くのだった。


「腹が弱点じゃなかったのかよ! 全然斬れねぇ!」


 弱点とはいえ他に比べたら柔らかいというだけであいつ程度の腕じゃ傷もつかないだろう。それに俺の防御魔法もあるのでなおさらだ。

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