32.進化
「ミヤビは防御主体でハイを相手に! それくらいどうとでもできる! エリナはデーモン相手! アクアは前に出過ぎない! こら! だからってアークに魔法を撃ちこむ……って効いてるから続行!」
数が数で実際に初めて遭遇するアークやハイに少し引き気味のミヤビに活を入れ、エリナは下と同じことをさせた。アクアは突撃癖がついてるようでヒヤヒヤする。あの水噴射がアークにも通用していた。さすがに一発で倒せてはいないけど、十発くらい同じところに打ち込んで倒してた。
突撃癖のある後衛キャラという立ち位置に立ちつつある。大人しく後衛でいてもらいたい……。
しかし、戦いを重ねるごとに動きも威力も変わって来る。
ミヤビはすでに慣れたのかハイなど気にしないでアークとも戦っている。エリナは相変わらずデーモン専門だが倒す時間が短縮されている。アクアは今までがアロー系だったとすれば今は水を吐き続けて貫通させてる。魔力の消費は多いらしくちょくちょくフードに戻っては休んでいる。
こうなってくると成長せずに自分がフォローしかしてないのが少し歯がゆい。伸ばせるならもっと自分を伸ばしたいと思うのは当然だと思う。
そんな時にエリナとアクアが魔力を回復するために休む時間が重なった。ミヤビも疲れているようだ。
「ミヤビ、エリナを守ってやりつつ少し休め。俺も体を動かしたい」
「わかりました」
ミヤビと交代で俺は前に出た。手加減なしのアーツの連続使用。武器の上級へ上がる為の試験の一つがこのアーツの三十回連続使用だった。最初はこれしかなく、誰もクリアできず運命が二つ目三つ目の試験を用意する事になった。
だけど、俺はあくまでこの三十回の連続使用に拘った。その結果はけっきょく上級に上がれなかったというものだが、あれはあれで楽しかった。
今はあの時よりも素直に体が動く気がする。すでに何回使ったかなんて覚えていない。ただ一つわかる事があるとすればそれは次が最後の一匹でそれがアークということだけだ。
「竜撃」
自然と口から出た言葉、棒は光を放ちアーツを発動させる。こちらの世界で初めて使った世界の引き出しから引っ張り出して体を任せる動き。上級棒術アーツ竜撃。俺がまた一つ強くなった証だった。
光を棒が纏いその光が竜の形になる。それで突き当たったところから竜が貫く。ゼロ距離射撃みたいなスキルだ。
「ユキトさんが名前を呼ぶアーツを使ってる所は初めてみました」
「俺も初めて使ったアーツだから、それは仕方がない」
「初めて……ですか?」
「そう初めて。棒術に関してはまた一つ強くなった訳だ」
「また遠くなったのですね」
「並ぶならまずは神狐にならないとな」
「それは無理ですね……」
「そうかな?」
実際デーモンはハイデーモン、アークデーモンと進化しておそらくあのバフォもどきもデーモンからの進化だと思う。そうであるならミヤビやエリナの進化もあるのではないかと思う。
「無理ですよ」
「あのハイデーモンもアークデーモンもおそらく元はデーモンでその進化した姿だ。だったら人も同じことが起きると思うけどな」
「魔物と人は違いますよ」
「俺も元々はただの狐人族だぞ?」
「そうなんですか?」
「そうだよ。ちなみにヒューマンも進化先があるからエリナも可能性はある」
「進化って何か変わるのかな?」
「ヒューマンは特に変わらないかな? 能力が上がるくらいだったと思う。狐人族はしっぽが増える」
しっぽは増えると動きにくくなることもあって最初は大変だった。慣れればどうということはないけど、慣れるまでは大変だった。九尾とか最初どうしようかと思ったくらいだ。
「でも、ユキトくんは今一本だよね?」
「九尾の後は三尾に減って神狐になるとしっぽはなくなるんだよ。だからこのしっぽは消そうと思えば消せる。むしろ変に目立たないようにしっぽをつけてるだけなんだよ。これくらいの調整はできるからね」
「そう……なのですか?」
「二尾くらいはいないのか?」
「……おばば様が確か二尾です」
「そもそも神狐信仰って人の身であったのに、修行に修行を重ねて神になった人を崇めたたえて自分たちもそれに近づけるように努力しようって教えじゃなかったっけ?」
隠れ里は人の身から神になった人を中心にして作られ、独自の発展を遂げて来た場所だったはずだ。だったらもっと進化については身近な物かと思っていたがそうでもないらしい。
「……今では自分たちの祖先である神狐様を崇めて、その加護をで平和に暮らすというのが主です」
「そうなのか……。進化条件がある一定以上成長するっての以外は俺も良くよくわかってないしな」
「スイナさんって特級だよね? もしかして進化してるのかな?」
「わからん。狐人族はしっぽが増えるからわかりやすいけど、エルフがハイエルフになっても見た目は変わらないし、本人もなんか今までより強くなった気がする。程度にしか思えないんじゃないのかな?」
「そうなんだ……」
そんな話をしていたらアクアがピョンピョンと自己主張を始めた。
「魔力か? ほら」
いつものように上げているつもりだったがいつもと様子が違った。
「アクア? それはさすがに食べ過ぎじゃないのか? おーい」
いつもならやめる所で魔力を食べるのを止めずに吸い上げ続けていた。さすがにこれ以上はまずいんじゃないんだろうかと思った矢先にアクアが急に光に包まれてた。
「アクア!?」
光に包まれてしまったアクアに下手に手を出す訳にもいかず三人でその様子を見守っていると、光が弾けてその中から何か出てきた。
大きさは三十cmくらいで変わってはいない。しかし、色は白に近い水色で頭の上? には二つの突起物、後ろにも何かついていた。
「アクア?」
呼ぶとこちらに跳ねながらやってきた。そのまま腕の中に入ってきてグリグリとこすりつけてくる。
「えっと……今のはなんでしょうか?」
「いや、まったくわからない」
「ユキトくんでもわからないの?」
「さすがに俺もなんでも知ってる訳じゃないから……」
「でもこれプルプルしてるとはいえ……耳としっぽだよな?」
「そう見えるね」
「私もそう思います」
毛は生えてないがどうみても耳としっぽのように見える。しかも狐人族っぽい感じの耳としっぽだ。あっちにいた時ですら見た事のない種族だ。でもまぁおそらく、
「進化したんだろうなぁ……。種族がまったくわからないけど、アクア何か出来る事増えたか?」
進化したばかりのアクアに無茶ぶりもいいところだと思ったけど、その要望にアクアは見事答えたのだった。アクアは二匹になっていた。
「え? アクアが二匹いる?」
「エリナ、増えた訳ではありませんよ。二匹に見えるだけです」
「つまりアクアは幻術を使っていると……。スライムは環境によって変わるか……。俺の魔力を取り込み、俺の傍にいて、一定以上に成長したから進化したのか?」
「これが……進化」
しかし、このタイミングで進化するってタイミングが良すぎる。十分に成長したからって言われればそうなんだろうけど、……考えるだけ無駄だな。
「とりあえず休憩はここまでして先に進もうか。アクアの戦い方がどんな風になるかも気になるし、休憩中に襲われたくはないし」
「ユキトさんと私が居ればそうそう奇襲はなさそうですけどね」
「休憩を邪魔されるのが腹が立つだけだよ。準備はいい?」
「うん」
「はい」
「それじゃ行こうか」
その後のアクアだが本体は突撃はしなくなった。その代わり幻術で生み出した自分の影をドンドン送り込んでいる。結果的にそれが魔物の行動を遅らせて、アクアはその隙に水で貫いていた。それに便乗するような形でエリナも近づいてくる魔物を退治している。
「ミヤビ、冒険者の先輩に聞きたいんだけどエリナとアクアってどれくらいのランクが妥当だと思う?」
「アクアが三級、エリナ……甘く見積もって三級でしょうか?」
「スライムが三級相当ってどうなんだろうな」
「アクアが例外なのです。むしろ育ててるユキトさんが異常なのだと思います」
「否定はできない」
しかし、その異常事態を巻き起こしてる指導スキルはしっかりミヤビにも働いてる訳で、ミヤビの成長も大概だと思う。本人も気が付いてるはずだが加護のおかげですとか思っていそうだなと思った。
こうして俺達はダンジョンを昇っていくのだった。




