30.ダンジョン
ロゲホスは十分すぎるほど確保したので休みや買い物を提案したのだが、
「まだまだ強くならなきゃダメだよ」
「ユキトさんを支えられるよう鍛えたく思います」
とか言うのだ。休むのも大事だよとか、買い物とか行きたくない? デートだよ? とか言っても聞いてくれず、挙句の果てには
「ユキトくんはお買い物行って来る? 私はミヤビさんに見てもらうから」
「ご一緒してもらえないのは残念ですが、どうぞ体を休めてください」
と言い出すのだ。俺はデートはしたいが、一人で休みたいわけじゃない。デートに関しては夜があるから仲は順調と言う。おかしい。俺がおかしいのか? そんな事はないと思うが自信を無くしそうだった。
ただ、二人との差が大きいのは事実だ。その差が二人を焦らせてるのだろうかと思うと心苦しく思う。
そういう訳で俺は今日も二人の訓練に付き合うのだ。
場所は前にも使った修練場だ。エリナは俺の張った結界の中で俺の生み出す魔力の球を魔法で射抜いていた。攻撃能力は今のところないが全方向からやってくる魔力の球を目だけで追っていては目が回ってしまうので魔力を感知する必要がある。
魔力を感知して正確に狙いをつけて魔法を撃つ。無茶な事をやらせてるなと思うけれど失敗してもいいのだ。少しずつできるようになればいい。
一方ミヤビは俺の棒術の練習に付き合ってもらっている。これがそのままミヤビの訓練にもなる。顔には見せないが相当悔しいのではないだろうかと思う。俺の片手剣でも攻めきれなかったのが棒に変わってからは攻撃回数が明らかに減っている。
武器が変わったので俺自身の動きも変わっている。棒を持つ位置を変える事で一撃の威力を変えてみたり、手数を変えたり、そしてそれを生かすために軽やかに動く。
剣の時などはしっかり構えてという感じなのだが、棒術を俺が使うとどうも踊っているようだと評価を受けていた。おそらく最初の頃に木の棒で剣にまともにぶつかるのは不味いだろという所から来てる気がする。ものすごく戦いにくいと言われたことがある。
「どう攻めていいのかわかりません」
「そう言われてもこれが俺の得意な戦い方だからな。それにミヤビは装備なら攻撃を通しやすいけど鎧着込んでると棒術だけだと決定力にかけるしな。それはそれで魔法と合わせて抜くけど」
「どうやって戦えばいいのかまったくわかりません」
「考えて試してってやっていくしかないよ。これは訓練なんだからいくらでもできる。とはいえ、棒ばっかり相手にしてる訳にはいかないから、色々と武器を変えてやるよ。俺もしばらく使ってないから加減ミスったら許してね」
「自信を無くしそうです」
「俺を基準にするな。それに弟子は師匠を超える為に努力するもんだ。弱音はくくらいなら体を動かせ」
「わかりました……。行きます!」
俺は攻撃魔法は使わない。むしろエリナとこっちの二枚結界を張って、向こうでは魔力の球の生成までやってる。こちらでも魔法を使うと制御がしきれる自信がないので使ってない。それでもこの棒があればなんとでもなる。
ミヤビが魔法を使おうが攻撃してこようが、魔法を掻き消し、攻撃を受け流しながらこちらの攻撃に繋げる。
そんな事をやっているといつの間にか冒険者がこちらの見学をしてくる。いつもの事だから気にする必要はない。だけど少しずつ見学者が増えて来た気がする。
見世物として十分派手だもんなと思いながらそろそろいいかと武器を変える。
訓練用にとアーラル商会で安い武器を色々仕入れた。変な目で見られたが気にしない。変えた武器は両手剣。冒険者の視線が強くなる。両手剣を使う冒険者は多い。だからこそ少しでも使えるなら見ておこうということだろう。
見取り稽古になるように見せるように動く。見せるように動いてる事に気が付いているミヤビは一層力が入って来る。
そんな事をしながら過ごし、もう少しで千頭を収めて家が手に入りそうな時期になっていた。
俺はふと思い浮かんだ案を夜、二人に相談してみる事にした。
「二人ともちょっと聞いてくれるか? 明日から一人で二日三日泊りがけで出かけてきたいんだけどいいかな?」
「私達はついて行っちゃダメなの?」
「一緒に行くなら後に回す。前にダンジョンに行くって言ったろ? 調べたい事があるから一人で行って調べておきたいんだよ」
「あそこってそんなに調べる事あったっけ?」
「俺の知識を元にして調べたい事があるんだよ」
「前世の知識に基づいての調査と言う事ですね」
「そう言う事」
確認したいのは帰還用の石碑があるかと転移トラップだ。帰還するためのマーカーになる石碑はあるが、下の階層に向かう直通転移魔方陣はない。その代わりのようにあるのが固定型の転移トラップだ。このトラップに引っかかって最下層の三十階に飛ばされるところが一階にある。逆にこれを移動手段として使っていた訳だ。
その調査をしておけば経験値を積むために行くのにわざわざ階段を探さなくて済むのは楽でいい。
それとここならそこそこの魔石が手に入る。これをあらかじめ手に入れておけば家を手に入れた時に魔道具を設置できる。そうすれば遠くまで出かけても一瞬で帰れるし、それを守るための設備も十分にできるのだ。
そう言う説明を切々と話していく。
「そんな訳で一人で行動したいんだよ。俺一人なら三日あれば確実に帰って来れるけど二人が一緒だとそういう訳にはいかない。とはいえ、二人が嫌だって言うなら最初の予定通り、指名依頼をしっかり終わらせた後で行こうと思うけどね」
「……できれば一緒にいたいけど、これから先ずっとベッタリ一緒にはいられないからこういう事にも慣れないとダメだよね」
「それでもエリナ一人だったらしないけどな。今は頼れるミヤビがいるからこその提案だよ」
「そう言って頼られては嫌ですとは言えないではないですか」
「言っても嫌ったりはしないぞ?」
「それでもです。頼られるのは嬉しいですし」
「それじゃあ悪いけど明日からしばらく留守にするけどよろしく頼むね」
「うん、でも今夜はあるからね」
「そうですね」
「ほどほどでお願いします」
朝は気合で起きてギルドへ行き納品してダンジョンへとやって来た。
久しぶりに平地を全力疾走した気がする。……実は最初の依頼以来かもしれない。一人でと言ったがアクアは同行している。さすがに従魔を何日も放置する訳にはいかないし、食事の問題もある。後はダンジョンの事などを考えて移動してたら昼前にはついてしまった。もう自分の速度がイマイチ理解できない。人もいないしさっさと入って確認しよう。早く帰る分には問題ないだろうしな。
まずは記憶にある1階の石碑を目指す。とはいえここはすぐにつく。
「魔力を通して、帰還ポイントに設定をして……。問題なくできるか。これで帰って来るのは楽になった。これが出来なかったら苦労するしな……。とりあえず2階に降りてここにこれるか実験だな」
2階は入り口から真っ直ぐなので迷う事もない。エリナの話では1階は転移トラップがあるのでそのまま通過して2階で実習を行うらしい。
2階について少し進んで転移魔法を使う。周りを見ればさきほどの石碑の場所に戻ってきていた。これで問題ない事はわかった。
次に確認するのは最下層へと行ける転移トラップだ。記憶を頼りに進みおそらくここだろうという場所にまで来た。ちなみに出てくる魔物はゴブリン程度なので魔物除けでまったく寄って来ない。
このダンジョンの最下層にはボスがいない。いるのは大量のデーモンのはずだ。転移先は最下層の小さな部屋で一歩外に出ると後戻りができなくなる。
デーモンはあっちでは初級を脱出するかどうかというくらいの強さだった。これくらいの強さの魔物の魔石ならそれなりに効果のある魔道具が作れるはずだ。
一応強化魔法をかけた上で、ライトウェーブという光の攻撃魔法を待機させておく。悪魔やアンデットにしか効果はないが壁などに傷がつかないので安心して使える。準備万端整った所でその転移トラップに入っていった。
「これは……全力で行くべきか?」
転移トラップの先は予想通りの小部屋だった。そこまではいいのだがその先にある気配がどうにもデーモンでは説明がつかない気配がする。ハイデーモン? アークデーモン? 辺りがいそうだけど更に上位の存在も感じる。
……ライトウェーブは物理的な攻撃力はない。そう物理的な攻撃力はないのだ。練りに練り込んで限界ギリギリまで練り込んでから俺は外へと飛び出した。
「ライトウェーブ!」
自分が発生させたものなので眩しくはないが一面、白い世界になり収まると何も……、いや一匹だけ痛いのか転げ回ってる。
上級に片足突っ込んでるバフォメットさんのような気がするがきっと気のせいだろう。バフォメットがこんな所に湧くわけがないし、ライトウェーブ如きでの転げ回るような事はないはずだ。バフォメットっぽい魔物をエンシェントトレント棒に光属性を纏わせてどつきまくる。そしてすぐに動かなくなった。
「……気のせい気のせい上級入門のボスのバフォメットなはずがない」
そのバフォメットっぽい魔物は解けるように消え魔石だけが残った。その後はアクアと一緒になって魔石の回収をした。予定以上の成果があったのはいいのだけれど、上の階はどうなっているのだろうか?
蟲毒みたいな感じで強くなっていった結果があれならば、攻略されてない階層はみんなああなのだろうか?
……二十階以降は悪魔系だけだし、丁度いい経験値稼ぎになるかな。
魔石回収後は他の階の様子をちょっと見て上に戻り、再び最下層の小部屋へ転移。そこで一晩休んでから王都へと帰った。
久しぶりに一人での行動だったけれども、なんとも物足りない感じだった。俺の方がエリナたちに依存してるんじゃないのか? なんて思った一人旅だった。




