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3.氷絶の魔女

 ギルドの外に出るとすぐに囲まれた。大した連携だと思う。それを狩りで生かしてもらいたいが今はとても通行の邪魔だ。そのまま軽く前方宙返りで頭を飛び越えてみた。回転した事に特に意味はない。


「てめぇ、えぇぇぇぇ!? ちょっと待て、囲み直せ!?」


 残念なことに囲み直された。とっさに囲み直すように指示が出せるとは……。呆けてる間に逃げようと思ってたのに。走って逃げようにも宿はそこだ……一度遠くまで逃げて戻ってくれば良かったか。反省。


「てめぇ! ふざけたマネしてくれんじゃねぇか!」

「通行の邪魔でしたので」

「てめぇに用があるから囲んだんだ! そんな事もわからねぇのか!」

「わかったからって付き合う必要はないですよね。それで用件は? 早く宿を取りたいんですけど」

「てめぇの態度はいちいち癪に障るな!」


 とにかくめんどくさかった。予想して心構えができてたとしてもめんどくさかった。見た事ない人たちなのでおそらくここ最近やってきた人たちなのだろう。昔からいれば心配性なお姉ちゃんと弟みたいに見てくれるのに……。

 それに外に出たらギルドが関与してこないと思うのは早計だ。他は知らないけれどここは王都の南支部なのだ。


「叫んでないで用件を言ったらどうですか?」

「余裕ぶりやがって……まぁいい、もう二度とスイナに近づくんじゃねぇ。あれは俺の女だ」

「誰があなたみたいな悪人面で醜悪な男の女ですって? ふざけないでくれる?」

「誰が悪人面の醜悪だ!」

「あなたの事よ。さっさと消えなさい。ついでだから王都からも出て行きなさい。それと妄想でも私があなたの女とかやめてくれる」


 機嫌の悪いスイナさん登場です。すでに周辺の温度がしっかり下がってきている。氷絶の魔女様モードに入ってる。しかも温度の下がりが早い。これはまずい!


「スイナさん! 魔力放出し過ぎてます! これだと周りに被害がでますよ」

「それはいけないわね。それならすぐに終わらせましょう。彼らの地獄はここからが始まりだけどね」


 ふっと、魔力による周囲の温度低下が収まった。それと同時に囲んでた男たちがすべて倒れた。ガチガチと震えている。それ寒いですよね。俺も巻き添えで食らったことあります。しかもどれだけ寒くて震えていても生命活動には一切影響を与えないという優れものだ。


「ユキト君、このままだと邪魔になるから運ぶの手伝ってもらっていいかな?」

「わかりました」


 いつも俺と接してるような状態に戻ったスイナさんに言われて、男たちを引きずりながらギルドに運び、隅にある線の中に入れておく。通称、スイナの放置場。こういう事が起こると使われる場所だ。

 男たちを引きずりながらだいぶ簡単に引きずれるなぁというのが感想だった。

 その後も何度か運んで任務終了である。俺に叫んでたリーダー格と二人ほどボロボロになっていた。彼らはスイナさんが運んだ人たちだ。氷のハンマーで飛ばされ転がされここまで来たのだ。


 スイナ、王都冒険者ギルド南支部に努める受付嬢。だがその昔、氷絶の魔女として世界各地で魔物を氷漬けにしてきた特級冒険者だ。今現在は冒険者登録を凍結させてのんびりと受付嬢をする傍ら、バカ共を懲らしめるのが仕事だった。


「ユキト君、おつかれさま」

「おつかれさまです。餌にされたのはこれで何度目でしょうか……」

「ケガする前には助けてあげたんだからいいじゃない。それよりもさっきは気のせいかと思ったけどやっぱり強くなってる?」

「あれだけでかい巨漢もすんなり引きずれましたし強くなってるみたいですね」

「もしかして……」

「何か?」

「いえ、少し気になる事があったんだけど、水晶に触ったくらいでそんな事が起きるはずないし……。どちらにしてもまだそうなったばかりでしょ? 気を付けてね」

「わかりました」


 そう言って今度こそギルドを離れて宿に向かう事になった。それにしてもスイナさんはいったいなんだと思ったんだろうか? 俺に思い当たる現象はないのだけれど……。




 宿で個室を取って装備をはずして寝っ転がった。

 まだお昼前だし、こんな時間からゴロゴロするというのは落ち着かないなぁと思う。こういうのをワーカーホリックって言うのだろうか?

 だいぶ知識も落ち着いたというか定着してきたようで、自然とこちらにはない向こうでの言葉が出てくるようになっていた。色々と考えようかと思ったけれどとりあえずやっておかなきゃいけない事をやっておこうと思った。


 まずは鎧等の装備品のエンチャントだ。


「アイテムエンチャント」


 アイテムエンチャントは装備品が常に効果を発揮し続ける特殊効果をつけるスキルだ。物によってエンチャントを受け入れられる容量は変わる。まずはそこにアクセスしてどれくらいの容量かを調べる。そこに効果を書き込んでいく。記録媒体にプログラムを書き込むような感じだろうか? 

 道具なしにこれをやるのは高等技術だが、俺はそんな事気にせずにすらすらと鎧にサイズの自動調整を書き込む。少し容量が余ったので快適を書き込んでおいた。

 レベル一の快適じゃそれほど違いも感じられないと思うがないよりはマシだろう。


 この後も手甲、剣、ナイフ、着替えの服、着替えた服とすべてにエンチャントをかけていった。服は特に重要だ。汚れに強いというエンチャントをする事で血の汚れも水洗いで簡単に落ちるようになる。


 やる事やったので寝ころびながら色々と考える事にした。まずは昔の日本にいた頃の事を思い出したがすぐにやめた。もう手の届かない場所だし、少し思い出しただけで嫌になったのだ。


 それなら今度思い出すことはVRMMOの事だ。さっきのアイテムエンチャントもそうだし、装備品をしまった無限倉庫もそうだ。元々の俺が持っていなかったスキルだし、無限倉庫もその前段階の空間収納の小さい容量の物しかなく、着替えとカードを入れておくくらいしかできなかった。


 VRMMOの事を思い出す。サークリスという町を拠点にけっこうやりたい放題やってた。別に悪い事をしていたわけではない。ハーブガーデンという農場を町の外に作って大きくしていき、最終的には大規模農場となり、米、醤油、味噌の一大生産拠点にまでのし上がった。それ以外にも色々とやったが悪い事はしてない。迷惑かけた事はあるかもしれないがそこまでは面倒見きれない。


 特定のクランには所属せず個人経営だったわけだが、それでも友人はそれなりにいた。そういった友人たちと狩りにも出かけた。死んでも大丈夫という環境だったので無謀な戦いもしたが楽しかった。


 そうやって色々な事を思い出していく。ある程度思い出し終わったら、今度は今の自分の知識を引っ張り出してくる。

 ゲームの常識、今の常識、両方が同じところ違うところそれを徹底的に洗い出していく。

 せっかく両方の知識があるのだ。生かさない手はない。むしろこの知識を照らし合わせてる最中に気が付いたが、俺は色々と効率的に鍛えていたようだ。


 どうすればスキルを覚えるのか? どうすれば能力を伸ばしやすいのだろうか? 俺が今までやっていた事は、ゲームの知識に沿った最適な物だった。なるほど、確かにこの知識や力は元々俺の持っていたものだと感じた。そこでふと思った。


「俺の能力は上書きされたのか? それとも加算されたのか?」


 今までの努力が今を作っているとはいえ、もしすべてが上書きされてしまっていたら俺の今までの努力は一体なんだったのかと思った。ここにたどり着くための努力だったと言えばそれまでかもしれないけれど、それはそれで寂しい。だがそれを確かめる方法は……。


「ステータス」


 開かなかった。ゲームなら細かな数値が出てきた画面が開かなかった。確認方法はここには存在していなかった。


「諦めよう。今までの努力があったからここまで来れたのだし、その力は強大だという事で誤魔化して諦めよう……」


 そんな風に少し打ちひしがれながらも情報のすり合わせをしていく。

 情報をすり合わせても検証できないものも多かった。ステータス画面が見れないのもあるが、聞いた事すらない魔物の情報などどうしようもない。

 そして一般常識はこちらの完全勝利である。死んでも生き返れるなどありえない。魔物のランクもだいぶ違う。


 その中でも一番利用できそうな知識は魔法の基礎知識だ。

 ゲームでは発動時のレベル調整はできたがそれ以上の細かな調整はできなかった。それがこちらではできる。ただ、その分イメージが必要になるので、基本的には使い勝手のいい威力で固定するのが一般的ではある。

 それに新しい魔法も作り出せるようだ。今現在、最弱と呼び声高いマジックアローですらかなりの威力になりそうな気がする。ゲーム中ではマジックアローですらかなりの威力になっていたので、こちらでもそうなるだろう。

 それとイメージが出来れば名前がなくてもなんとなくで使う事もできるみたいだ。


 そんな訳で弱い魔法の開発である。と言ってもこれはもう考えてあるし一種類しか考える必要はないと思ってる。むしろどっかから持って来た物なので考える事すらしていない。魔法はサンダーニードル、サンダーアローの劣化版なので想像がしやすい。刺さって内部で電気を開放すればそれだけで十分に活躍できると思う。

 これが効かない相手が出てきたら普通に対応すればいいだけだ。そもそも王都周辺じゃフィールドボスだったアーマードボア以外は問題ないはずだ。


 そのアーマードボアも序盤のボスなのでタフだけど対処はできるはずだ。素手で殴ってる記憶が歩く間から余裕だと思う。

 ……このアーマードボア二級指定魔物なので、二級パーティもしくはギルドが認めた高火力魔法使い所属の三級パーティ複数であたる魔物なんだが、余裕、余裕かぁ……。がんばれば一級なんてあっという間になれそうだ。油断大敵かな?




 力と知識が大量にあふれ出してきたのに予想以上にすんなりと自分の物だと認識する事ができた。どちらかと言えば昔おいてきた物を取り戻したといった感じだった。

 その為、かなり時間が開いてしまった。やることがないので、外に魔力が漏れない物に絞って色々と試していた。

 明日からはがっつり稼がないと!

基本食事は二食になります。

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