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29.残念

「それですぐにできるとの事でしたが」

「武器や防具を提供して頂ければすぐに」

「ではこちらに」


 そう言って出されたのはさきほどこちらに来る時にハニエルさんが持って来たミスリルの剣だ。ミスリルは魔力に反応する金属でエンチャントを施すと刀身に模様が浮かび上がる。この為もっともエンチャントされてるかどうかがわかりやすい素材でもある。


「触媒などはありませんがよろしいですか?」

「大丈夫ですよ」


 そう言って俺はアイテムエンチャントを使う。さっき見た時もいいと思ったが予想以上に鍛冶師の腕がいいみたいだ。職業によってどうやら上の方にいる人のレベルが違うと思いながらも容量を確認して行く。


「ハニエルさんはどういうエンチャントがいいって希望はありますか?」

「いえ、私はどこまでどういう事ができるのかまではわかりませんから……」

「わかりました。それじゃこちらでやりますね」


 ミスリルなので魔力系のものもつけたいけど人によっては無用になりかねないので無難な物にする。

 とりあえず切れ味上昇は必須だろう。それと……汚れに強いもあると便利かな? 剣を振るだけである程度血が飛ぶのは切れ味が落ちにくくなったはずだ。そして耐久力上昇で壊れにくくする。STRもつけてみようかな? まだ何か詰め込めそうだけど……。あ、STR並にわかりにくいけど攻撃力上昇もつけてみよう。これならなんとか……ならないけど……攻撃力とSTRのこの部分をこうしてああしてっと……。


「出来た……」

「これがエンチャントなのですか……」


 出来上がった剣の刀身を見て俺も正直やり過ぎた? と思えるものがそこにあった。

 切れ味上昇だけがついていたミスリルの剣は、ワラビの新芽を二本並べただけのものみたいだったのに対して、俺の作ったものには複雑な模様が浮かび上がっていた。


「キレイですね」

「美しくない」

「え? これほどキレイな模様見た事がありませんよ」

「キレイではあるかもしれませんけどごちゃごちゃし過ぎてて美しくないです。やっぱりミスリルには物理系じゃなくて魔力系のエンチャントがしたいかな」


 ミスリルは魔力との親和性が高い。元々はそれほど武器に適した硬さを持っていないけど職人の魔力が、意志がミスリルを武器へと変える。

 だからエンチャントも多く出来る素材だけどやっぱり魔力関係の方がつけやすいし、シンプルでキレイな模様が浮かぶ。そこにアクセントとして一つ物理系を入れるのが俺の趣味だった。


「これは失敗作ということでしょうか?」

「普通に剣として使うなら魔力系を入れない方が強いですよ。魔力系はかなり使い手に依存しますから、汎用性と言う意味でもこっちのが優秀ですね」

「ユキトさんとしてはダメでもってことですか」

「模様が気に入らないだけで、性能は十分ですよ。触媒があればもっと良い物になりますけどね」

「そうですか……。エンチャントの効果を聞いても?」

「切れ味、耐久性の向上、血の汚れなどを取りやすくするものと、実際どれくらい効果が出るかわからない武器の攻撃力と使用者の筋力向上効果ですね」

「……五つですか?」

「鍛冶師の腕が相当いいのでこれだけつけられましたね」


 唖然としているようだった。あの程度のエンチャントで腕がいいと言われるのだから仕方がないかもしれない。これでいくらか仕事が取れるだろうか? 継続しての依頼はちょっと勘弁願いたい。


「大丈夫ですか?」

「は!? し、失礼しました。これだけのエンチャントがされているとなるとそれこそダンジョンから産出されるものでも早々ありませんので、それを人の手で作り上げるなど……」

「ミスリルならすべて五個つけらえる訳じゃありません。その剣の質が良かったから出来た事です。逆に言えば鉄の剣でも最低一つくらいはつけられます」

「……依頼をしたいのですが、大きな問題があります」

「そうなんですか?」


 俺が受ける受けない以前に依頼を出す段階で何か問題があるらしい。いったいなんだろうか?


「エンチャントをしてほしいというのは冒険者に出す依頼ではなく、商業ギルドで職人に出す依頼です。商業ギルドに登録する際にどういった仕事をするのかを聞かれる事になります」

「一日二日くらいでエンチャントの仕事をやらせてもらえたらと思ったけどそこまでしないといけないなら却下だなぁ」

「これを仕事にするつもりはありませんか?」

「ないですね。いずれ登録するのもいいですけど、今はする気はありませんね」

「そうですか……。残念です」


 こちらとしても久しぶりに思いっきりエンチャントするチャンスだと思ったのにできなくて残念だ。裏技っぽいものがあるような気がするがそこまでしようとも思わない。


「それでそれどうします?」

「……商品の中で何か良い物はありませんでしたか? よろしければそちらをお譲りしますのでこれは手元に置いておきたいのですが」

「それならいくつか見せてもらいますね」

「はい、良いものが見つかるといいですね」


 あのミスリルの剣は誰にも渡さんって感じだし、何か探そうと思う。剣もそれほど使ってないから変える必要はまったくないけど見栄えの問題であった方がいいかもしれない。

 そんな事を考えながら見ていると目を引く物があった。いや、むしろ何でこんな所にあるのかと問い詰めてやりたい。しかもどちらかと言えば安いエリアにある。はっきり言って正気を疑うレベルだ。

 俺はそれを手に取りながら実は偽物ではないかという疑心にかられてしっかり調べる。調べれば調べるほどこれが本物であるとわかる。これは……。


「そのような棒が気になるのですか?」

「そのようなって……。これどうしてここに置いてあるんですか?」

「昔からおいてある売れ残りですからどうしてと聞かれましても……」


 それを聞いた俺は唖然とした。だってこれ……エンシェントトレントで作った棒ですよ? 魔物素材の木材では最高級品だったんですが……。もちろん最高級品は世界樹の枝だったけど、これだって十分すぎるほどの性能を持っている。


「これください」

「でも、正体不明の木の棒ですよ?」

「この棒以外のものはいらないのでこれください」

「そこまでほしがるなら差し上げますが、ユキトさんがそこまでこだわるそれの価値を教えていただくことは出来ますか?」

「エンシェントトレント素材です」

「エンシェントトレント……?」

「俺の知る限り世界樹、精霊樹、そしてエンシェントトレントと続く木材としては三番目に優秀な素材です」

「……それがですか?」

「返しませんよ?」


 何と言われようともこれはもう返す気はない。向こうにいた時は棒をメインにしていた。棒だと素材の質があまり落ちずに取る事が出来たのもあるし、なんだかんだで棒術が一番やりやすかったのだ。

 こっちで棒を使っていなかったのは、棒が武器として売られておらず、その辺の木で作ると強度で問題がある。そもそも魔法でどうにかしてたので武器にはこだわっていなかったのだ。


「こちらとしては今まで不良在庫になっていたものが、見た目でわかりやすいこのミスリルの剣になったのならなんの問題もありません」

「それは良かった」


 ミスリルは貴重な物ではあるけれど鉱山から採掘される。一方エンシェントトレントは帝国領にある魔迷の森の奥まで行かないと手に入らない。ヒューマン至上主義の帝国に行くのですら大変なのに森で迷路な場所に行きたいとも思わない。

 迷路にはいい思い出がない。遊園地の30分で脱出できたら脱出証明書がもらえる迷路で2時間迷ったあげく、途中で出会った人にくっついて脱出したり、あっちの魔迷の森ではけっきょく一人では中間地点までいけなかった。方向音痴ではないのにこういう場所は極端に苦手なのだ。


 それはさておき、魔迷の森自体も難易度が高いので入手手段がおそらく今はないと思われる。そう考えるといいもらいものだ。




 そうこうしてるうちにエリナとミヤビの買い物も終わったようだ。エリナのローブは白のローブなのだがキラキラしてるのが見えるのでおそらくミスリルを糸状に伸ばしたものを織り込むことで魔法関係の物を強化できるようになっているのだろう。杖も新調したようだ。ミヤビは腕輪を買ったそうだ。速度が少し上がる腕輪って言ってたけど、風の加護なのかAGIの補正なのか。興味深い。


 皆満足できる買い物ができた。またなにかあったら寄ろうと考えて店を出た。さてこれからしばらくどうやって生活しようかな。

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