25.家
朝起きると三人で寝てました。抱き付かれてるだけなので何もなかったと思いたい。
みんな起きてからミヤビにけっきょく昨日しなかった前世の話をしてからスイナさんの所へ向かった。
そして俺達は商業ギルドへ来ていた。スイナさんに聞いたら商業ギルドでそういうのはやってるとの事だったので来たのだ。
ギルドに入ると自分の用事のある場所がわかりやすいように案内板があったので、不動産関係の所へと行った。幸い人はあまりおらずすぐに順番が回ってきた。
「すみません、まだ購入できないんですけど、家の価格を知る事はできますか?」
「……」
受付の人に声をかけても反応がなかった。いったいどうしたのだろうかと思ったら動き出した。
「し、失礼しました!」
「それで俺の話聞いてました?」
「すみません! 聞いてませんでした。それで確認させていただきたいのですが……ユキト様でしょうか?」
「そうだけど……どうして知ってるの?」
「少々お待ちください!!」
訝しげな表情を浮かべていたはずの俺を完全に無視して奥へと走っていった。
「どうしたんだろうね?」
「ユキトさんの事は知っていたみたいですけど」
「事情はともかく対応としては最悪じゃないか?」
「確かにそうです。厳重抗議をしなければいけません。ユキト様に何たる態度を……」
「おーい、様になってるぞ」
「これは失礼しました」
そんな話をしていると見覚えのある人が出てきた。どっちだろうか? ギルドにいるのだし……。
「アリエルさん?」
「はい、お久しぶりです。ここではなんですのでこちらへどうぞ」
「家の価格聞きに来ただけなんですけど」
「どうぞ。資料は用意させています」
ここで問答をしてても仕方がないのでついて行くことにした。アリエルさんが見えた時にこのままだと視線を集めると思ったので幻術を使って色々と誤魔化している。
部屋に入り席を勧められ、座るとアリエルさんが話し始めた。
「まずは謝罪を、受付にいた者が失礼いたしました」
「あれ? もう報告が?」
「いえ、とりあえず本人に失礼が無かった聞いてみたら顔を真っ青にしましてね。聞いてみればと言う事です。本当に失礼しました」
「ユキトさんに対する事、今後注意してください」
「初めましてミヤビさん。アリエルと申します。今後はこんな事がないよう指導して行きますのでお許しいただけますか?」
「ミヤビです。まだ購入を決めていませんが、それなりの事を期待させていただきます」
「それはもちろんです。ユキトさんはそれほど魅力的ですか?」
「もちろんです」
いやいや、元々神様として神狐を信仰してたからですよね? と言いたいのだが、出会ったばかりの時よりも、今の方が信仰によるパスが明らかに太くなっている。
直接目にする事によってとも考えたけれど、パスから流れて来るものを感じ取ると神狐様というよりも、すでにユキト様にという考えが強くなってるのがわかる。俺みたいなののどこがいいのかね?
「それで家の価格を聞きたいとのことでしたが、ご希望はありますか?」
「まったくわからないので、とりあえず平均的な一軒家を買うとどれくらい必要なのかを確かめて目標にしようかなと思っただけなんですが」
「ランクが高ければ借金もできますが、ユキトさん達だと難しいかもしれません。もしかしたらカリルが個人的に貸すかもしれませんが……」
「それならユキトさん。私が借りれば問題ないのではないですか? 一級の私にならお金を貸してもらえると思いますが」
「それはダメ、それともミヤビは一人で依頼受けるつもり?」
「ご命令でしたら従いますが、その……できればお傍に置いていただきたいです」
「なら借金はなし。俺達が受けられる依頼じゃ借金返すので首がまわらなくなりそうだよ」
俺達の話を聞いてたアリエルさんは目を丸くしていた。普通に考えて七級に付き従う一級っておかしいもんな。これだけの美人を短期間でこうまで籠絡するとか何したんだろうとか思われてるのかもしれない。
「ミヤビさんが一級なら無理のない返済プランをお作りしてお貸しする事もできますよ」
「前言を取り消したいくらい魅力的な家があれば別ですけど、そうでなければ借金をするつもりはないですよ」
「なら資料はここにありますし、ご紹介させていただきます」
その後は王都の地図を広げながら、王都のエリア毎の値段の違い、家の規模での違い等々を説明してもらった。それに冒険者が家を買う時の注意事項なども教えてもらった。
どうやら冒険者が買える家は規制があり、三千万くらいからみたいだった。
一般的な住宅だと一千万からあるらしいのだが、そういう一般人が多く住む区画には冒険者は家を持てないらしい。
それで冒険者の住む区画は一軒家は三千万だが、多いのはクランの寮や賃貸物件だ。一年ほどがんばれば買えるかもしれないが今すぐに手が出る値段ではない。
「これはすぐには無理ですね」
「先ほどのお詫びも含めて多少なら値引きできますが」
「手持ちが一千万すらない状態じゃさすがに気が引けます」
「それならロゲホスをもう少し売ってくれませんか? 毛皮も品薄ですが、最近では肉の味がいいと注文がけっこう来てまして……。それを聞いたクランの一つ向かったのですが逃げ帰ってきたそうです。どうでしょうか?」
今現在ロゲホスの在庫は六百あるかないかと言った所だ。指名依頼は十回達成していて達成に必要な残りの数は五百二十五、うち二十一はすでに出してある。
追加で狩って来る必要があるが、おそらくそれも狙いの一つだろう。いつまでも俺達だけが売ってるという状況はあまりよくないのだろう。
「一日どれくらいほしいんですか?」
「五十までなら売り切って見せます」
「なるほど、二人とも明日からロゲホス狩りに行こうと思うけどどう思う?」
「お金稼げるからいいと思うよ」
「冒険者ギルドを通さない依頼とも取れるものですからどのような報酬があるのか聞いておくべきだと思います」
「確かにその通りですね。そうですね……」
「ケチケチしないで~、一軒くらいあげればいいよ~」
そっと入ってきていた商業ギルドのギルドマスターカリルさんがとんでもない発言をしてきた。他の三人も驚いてるけど、おそらくエリナだけがカリルさんがいる事に驚いて発言内容に驚いたのが俺も含めた三人だろう。
「カリル……それはさすがに無理です」
「そんな事ないよ~。ここあげればいいよ~」
「ここって……、そ、それでもさすがにあげる訳には、そもそもここは家では」
「台所も水場も部屋もいくつかあるよ~。確かに元々は家ではないけど十分住めるよ~」
「そこってどんな場所なんですか?」
そう聞くとはぁ……というため息とともにアリエルさんが教えてくれた。
「ここは元々は泊まり込みの出来る兵士たちの詰所だった場所です」
「そんな場所をあげていいですか?」
「すでに使われなくなって久しく、商業ギルドとしても扱いに困っている物件ではあるのです。カリル本気なの?」
「一度見てもらって決めればいいと思うよ~。ロゲホスを明日から千頭売ったらここをもらえる権利をあげる~。指名依頼の分も含めて千だからなんとかなるでしょ~?」
正直に言えばかなりおいしい話だと思う。外見は無骨だろうけど住環境が揃っていればなんとでもなるはずだ。俺としてはいいと思うけど、二人はどうだろうか?
「見てから決めるべきだけど、俺はいいと思う。二人はどう思う」
「まずは見て見たいな。でも、ユキトくんがいいならそれでいいかな?」
「状態がわからないので見るべきだと思いますが、いざとなれば繋ぎと考えてもいいかもしれません」
見る事は確定だが、よほどひどい状態じゃなければ受け取るという感じに話がまとまりそうだ。
「それでもカリル、さすがにあげるのは」
「ロゲホスの件で~、どれだけ利益が出てるか~、わかってるよね~」
「それはそうだけど」
「それに~いつまでそこを持ってるつもりなの~? 値段だってどうつければいいのか~って悩んでたでしょ~?」
「わかった。わかったから……。とりあえず物件を見ましょう。今から行けますか?」
まだ日は高い。ミヤビの実力はこの後でも、むしろ明日に回してもいい。それにどんな所なのか気になる。
「行ける……よな?」
「うん」
「はい」
「と、言う事なので案内お願いします」
「わかりました。それとカリルはちゃんと仕事していてくださいね」
「は~い、それじゃあね~」
カリルさんは仕事場へ、アリエルさんは俺達を連れて元詰所だった場所へと向かった。
ここだと紹介された建物を見た感想は
「箱だな」
「箱だね」
「箱ですね」
二階建てだと思われる高さでそこそこの広さはあるけど、庭とかは一切なく本当に建物がドンっと建っているだけだ。
中にも入って確認する。一階は受付があったり話を聞くために使われたであろうスペース。台所、水場、トイレなどがあった。二階は四部屋あり、おそらくここで兵士が待機したり仮眠をとったりしたのだろう。そして地下もあり、ここは留置所になっていた。
「こんな所ですがどう思いますか?」
「二人はどう?」
「外観はあれだけど、中にはいっちゃえば気にならないかな?」
「掃除はしっかりされているようですし、家具を入れればすぐに使えそうですね。問題ないと思います」
「なら、千頭売ったらここくださいね」
「わかりました。そのように書類を作っておきます。控えは必要ですか?」
「いえ、大丈夫です。なにせ商業ギルドのギルドマスターとその秘書からの依頼ですからね」
こうして話がひと段落つき俺達はアリエルさんと別れた。この後は食料の買い出しや必要になりそうなものを買い込んできた。向こうでは明日から一週間ほど町を離れて色々しようと思う。
途中でスイナさんにもその事は話しておいた。夜は新しい宿に入り明日の予定や日程の確認をして眠る事になった。
一泊三人で二万リーレは大きい。そして明日に備えてさっさとみんな寝ました。
ミヤビが残念そうにしてたのは気のせいだと思いたい。




