24.会議
パーティ登録を無事に終え、とりあえず今夜は今までの宿に泊まり、理由を話して二人部屋に3人泊めてもらえることになった。追加料金はしっかり払った。
そしてこの日は自粛した。次の日の事も含めて色々と話し合っておくことがあったからだ。
「遮音結界。それでは会議を始めたいと思います。それではまず自己紹介から、俺はユキト。回復、支援が得意な万能型だ。次エリナ」
「え? わ、私はエリナです。回復が得意です。ミ、ミヤビさん?」
「はい、ミヤビといいます。回復、支援が得意な万能型です。次はどうしましょうか?」
「最後は俺の従魔のスライムアクア。最近水魔法が使えるようになった。しかし……すごい偏って見えるパーティだな」
最弱の魔物スライム、回復が得意な残りの三人パーティバランスが悪すぎる。とはいえ俺とミヤビは万能型だから問題ないと言えば問題ない。俺がいるだけで過剰火力だしな。
「話を聞くだけだとすごく偏ってるって気がするね」
「ですが、私はグレイブも弓も使えます」
「俺は全ての武器も使えるし、魔法も全種類ある程度の威力までは使える。ミヤビと俺はお互いにどの程度戦えるかは明日試合すればいいかな。それにまだまだエリナとミヤビや俺との差が激しいからパーティと言うよりもエリナを鍛えるって感じになるのかな? 腕次第ではミヤビも俺が鍛えなおさないといけないけど」
「その判断は明日よろしくお願いします」
「わかった。それはともかくもう少し口調は柔らかくならないのか?」
宿に着くまでに様付けは何とかやめてもらったし、態度や口調も幾分柔らかくなったけれどもできればもっと砕けてほしい。
「そうは言われますが、私はこれくらいが普通でしたのでこれ以上となるとかなり不自然になると思います」
「そうなると仕方がないか……」
「仲良くできればそれでいいんじゃないかな?」
「そうだな。それじゃ議題に入ります。ズバリ今後住む場所をどうするか? です」
現状の収入ならもう一つ上のランクの宿に泊まり続ける事もできる。だが宿にかかるお金を考えると部屋を借りるという選択肢も生まれて来る。俺としては小さくてもいいので家がほしいがさすがに手持ちでは無理がある。
「どうすればいいのかな? 宿ならお金はかかるけど色々やってもらえる。部屋を借りると安いけど自分たちで色々しないといけないよね?」
「王都を拠点にするのでしたら部屋や家を借りるのはありだと思います。しかし、長期間空ける予定が発生した場合、使わないのに借りた部屋代は取られ続ける事もあり得ます。家を長い事空けるのは空き巣の被害なども考えなければいけませんから私は宿を利用した方がいいと思います」
諸々の家事の手間や、冒険者としての活動を考えれば長期間空ける可能性もある。そう考えて二人は宿派みたいだ。現状二対一で負けております。
「俺としてはやりたいこともあるし、自分たちの持ち家がほしいんだけどね。現状では手が出ないからなぁ」
「ユキトさんは王都に拠点を構えるつもりなんですか?」
「できればサークリスに拠点はほしいだけどね。……サークリスって分かる?」
「私は知らないよ?」
「すみませんが、私も知りません」
我が心のホーム、サークリスの知名度は低いらしい。ゲームの時も不人気エリアでサークリスの名前は知られていなかったが、こちらでもそうだったとは泣ける。
「ミヤビは王都に来る前にチルアスには寄った?」
「はい、寄りました」
「その南にある山を越えた先にある町なんだけど……」
「そのような場所に町はなかったはずですが?」
「え?」
我が心のホーム、サークリスは存在すらしていないだと……? でも、よく考えてみればなくて当然なのかもしれない。サークリスの周辺にはヘルキャットが多く生息していた。ステータスを見れば体力以外はアーマードボアより少し弱い程度の通常の魔物だ。そんな魔物が常にいるような状態では町など維持できないだろう。
「そうか……サークリスはもうすでにないのか……。それならそれでいいさ。いずれ開拓すればいい。俺の全能力をフルに使って俺の好きなように町を作ればいい」
「ユキトくん、町を作るの?」
「いつかの話さ。ミヤビ、俺の知識がなんかおかしいのは後で説明するから待っててくれるか?」
「聞かれたくない話であれば聞きません。私は御傍に侍るだけですから」
「従者じゃなくて仲間なんだ。ちゃんと話すよ」
「……ありがとうございます」
だからミヤビさん。そこで軽く涙をふくとかどれだけなんですか? そんなに俺に仲間って言われたのが嬉しいのだろうか? これにも慣れていただきたいものです。
「俺としての最終目的はそこに今なった訳だけど、王都に自分の家がほしいのは移動の為なんだよ」
「どういう事?」
「家に転移魔方陣を敷きたい」
「ユキトさん、それは無理です。転移魔方陣はすでに失われた技術です。現存してる物もありますが、それは固定された物ですし研究もされてますが成功したという報告は聞いた事もありません」
「それは俺が敷けるから問題ない。問題なのは魔石がないのと、お金がない事くらいだな」
「え……? 転移魔方陣を敷けるのですか?」
「敷けるぞ。その理由はさっきのと合わせて後でな」
「わ、わかりました。確かに転移魔方陣が敷けるなら各町に家があってもいいくらいですね」
「さすがにそこまではいらないよ」
なんだかんだでめいいっぱいお世話になってるスイナさんに会えなくなるのも寂しいし、院長にもたまには会いたいと思う。だから王都にまずは拠点を作り、帰って来る時間を短縮したいと思う。そしてチルアスでも家を買って行き来できるようにしたい。できればミヤビがいた里にも繋げたら嬉しい。米が、醤油が、味噌が!
「ですが、王都に家がほしいのはわかりました。まずは物件がいくらするかを調べるべきですね」
「物件を調べるのってどうすればいいのかな?」
「孤児院上がりの俺に聞くのか?」
「申し訳ありませんが、そういう知識はまったくありません」
「「「……」」」
三人そろって黙り込んでしまった。だってそんな事考えた事なかったし、新人の依頼では不動産を扱ってる場所に行った事がないのだ。
「明日、ギルドに行った時にスイナさんに聞いてみよう。それしかない」
「カリルさん達に聞くのはどうかな?」
「いきなり商業ギルドのギルドマスターの所に行くのは……。そもそも俺達で会えるかどうかわからないよ」
「そう言えばそっか。そうするとやっぱりスイナさんに聞くしかないね」
「私はお二人が商業ギルドのマスターを知っている事に驚いています」
「ほら、ギルドから帰る前に解体場によってロゲホス出しただろ? それ関係でちょっとあってそれで知り合いになったんだよ。今受けてる指名依頼も商業ギルドのギルドマスターからだし」
「そうですか……。それなら明日は物件を見てから目標金額を設定してそれを目指すのが目標と言う事でよろしでしょうか?」
話がスムーズに進むのはいいんだけど、二人があっという間に俺の意見に流れた。そもそも俺の言う事を大体聞くエリナとまだ仲間というよりも信者のミヤビなら俺の意見に簡単に流されるか……。
「二人がそれでいいならいいかな? とは言え指名依頼もあってしばらくは動けないからそれも考慮して決めないといけないかな」
「それで指名依頼が終わったらどうするの?」
「どうしようか……。五級を目指すために依頼を受けるのもいいんだけど、ダンジョンにも潜ってみたいんだよなぁ」
「ダンジョンは浅い層なら訓練用に利用されますが、魔物は倒すと魔石と少量のアイテムしか残しませんし危険ですから行く必要はないのではないのですか? それともレアアイテム狙いですか?」
魔石と少量のアイテム、ゲームでも魔石は必ずあったがアイテムドロップ率はダンジョンの方が低かった。その分極低確率で貴重品が出るという仕様だった。俺が今欲しいのはどちらかといえば魔石の方だ。
「その魔石がほしいから行くんだけどね。エリナ、ケルピーネアダンジョンって聞いた事ある?」
「王都の北西に一日くらい行った所にあるダンジョンだよね? あそこの一階で実戦実習をやったことあるよ」
「あるのか……。ならケルピーネアダンジョン行ってみちゃダメかな? ダンジョンなら魔物は自然発生するからいくら倒してもいいし、これからの事を考えるならエリナの成長の為に潜っておきたいんだよ。それと魔道具作る為に奥の方の魔石がほしい」
「ユキトさんは魔道具も作れるのですか?」
「作れるよ」
「先ほどからずっとよどみなく縫い物を続けていますし、色々と作れるのですね」
実は、この会議が始まった時からずっと縫物をしていた。俺とエリナは浴衣を着ていたのでミヤビもできれば欲しいと言う事で縫っている。
「まぁね。さっき言った転移魔方陣を敷くのも、家の守りを固める為にも、そしてそれを維持するのにも魔石はいるからまとまった数がほしいんだよね。そうするとダンジョンって都合がいいから」
「普通ならものすごく高くなりそうだよね」
「だからお金のかからない方法を模索してる訳だ。それに近くだとどうしてもケルピーネアくらいしか品質が足りる魔石取れそうもないからなぁ。それでも転移魔方陣を敷くための質や大きさには足りないから、帰り用にしかならないけどね」
「帰り用ですか?」
「そ、俺の転移魔法で飛ぶためのマーカーにするための魔石は確保してあるけど、それを守る魔道具がやっぱりほしいからね」
「ちょっちょっと待ってください」
ミヤビから待ったがかかった。どうしたのだろうか? おかしなこと言ったかな?
「転移魔法が使えるんですか?」
「使えるよ。集団をマーカーを設置した場所に送るのと短距離転移ね」
「……さすがはユキトさんです」
「今、変な納得しただろ?」
「いえ、正確な納得をしたと思います」
おそらく思考停止でユキトだしとかで納得したのだと思う。きっとそういう納得をこれから多くされる事になるのだろう……。
「なら、とりあえず明日は訓練と物件の値段の確認。目標金額の設定をして、指名依頼が終わるまでは訓練とロゲホス狩りも行く。その後はダンジョンに潜って魔道具用の魔石確保しつつ、エリナを鍛える。ある程度目的が達成されたらランク上げをするってところだろうか?」
「それでいいと思うよ」
「私も異存はありません」
こうして会議の結論が出た。出たけどほとんど俺の意見がそのまま採用されてる。これでは会議と言うよりも説明会だなぁと思った。
「ミヤビ、ほら浴衣。たぶん大丈夫だと思うけど向こうで着替えてきてくれ」
「あ、ありがとうございます。一生の家宝にします」
「これから何枚も縫うんだから気にせず着てくれ」
「ありがとうございます。このミヤビ一生をユキトさんに捧げます」
「わかったからさっさと着替えて来る」
「はい」
ものすごく喜びながらミヤビは着替えてきた。破壊力抜群だった。
「ユキトくん。夜はまだ長いよね?」
「今日は寝る! 明日に備える事! おやすみなさい!」
俺は一人ベットを独占して眠った。むこうのベットでは二人が眠る予定だ。大人しく寝てくれると助かる……。




