22.前世
遮音結界を張ってから俺は話し始めた。まずは大前提からだ。
「まず知っておいてもらいたいのが、俺は前世の記憶があります。それを信じてもらえない事にはこれからする話はすべて信じてもらえない話になります」
「前世?」
「ユキト君はずっとそれを抱えて生きてきたの?」
「いえ、きっかけはこれです」
そう言って俺はカードを見せた。
「成人用のカード発行する水晶に触れた時に起こった変化はその髪や毛の色、強さだけじゃなかったってことだね」
「そういう事です」
「前に簡単に説明してくれた事だよね?」
「そう、それ。それで、水晶に触れた時に俺の中にあった力が解放されて、前世で得たって言えばいいのかな? 力と知識、記憶を手に入れた……。取り戻したって感じかな?」
「ユキトくんは大昔の人って事?」
「しかも、使徒もそういう存在。もしくは過去から来たってことになるのかな?」
「そうじゃないんです。ここから先はまたややこしい話なんで聞いてください」
そして俺は前世は違う世界の人であった事、この力はゲーム……と言ってもわからなそうだったので、夢の世界を作って眠るとそこで遊べる魔法のようなものがあったと説明して、その夢の世界の一つがこの世界と非常によく似ていて、俺の力はそこで培ったもので、カルボーナとアルルについてもその同じ世界にいた知り合いだと言う事を説明した。
「私どう反応していいのかわからないよ」
「気にしなくてもいいよ。俺は俺でここにいるし、エリナにとってはそれで十分だろ?」
「うん、そうだね」
「エリナちゃんはそれでいいかもしれないけど私はそう言う訳にはいかないよ。それに知り合いって言ったけどカルボーナとアルルって名前を聞いた時の反応はアルルの方が大きかったのはどうして?」
そう言えば! みたいな感じでエリナもこっちをジーっと見てる。相手が聖女なんて言われてる相手じゃ気になるのもしかたがないかな。
「さっき夢の世界って言ったけど、その眠る前の現実世界でアルルは友達だったんだよ」
「本当に友達だったの?」
「幼馴染で親友ではあったけど、それ以外の関係はなかったよ」
「本当?」
「もちろん。理由はちょっと言いたくないけどそれ以外の関係とか考えられなかったし」
「さながら家族みたいなものだったってことかな?」
「そんなもんだと思ってください」
スイナさんに家族みたいなものって聞かれたのでそれに乗っかる事にした。その理由は本人が目の前にいても、いや目の前にいるからこそかもしれないが中々理解されなかった。だから今は説明しようとすら思えなかった。
「全部を信じろって言われてもさすがに信じられないってのが正直な感想だね。だけど、私はユキト君を信じてるから大事な事を教えて。使徒がユキト君の予想通りなら数と力はどれほどのものか教えてほしい」
「数はわかりません。全員がこっちに来たとなると万単位の人がいると考えられますが、カルボーナがトップに立つと言う事はそういう可能性は少ないと思います」
「理由は?」
「カルボーナは向こうではクランのサブマスターでした。全員いるならそのクランのマスターがトップになればいい。でも、そのクランよりも大きく強いクランもありました。そう考えるとカルボーナがトップなのは今いるメンバーの中では人をまとめ上げる能力があるからだと考えられます」
「だから、全員こっちに来たとは考えにくいと……。確かにそうかもしれないね」
「そうだとしたら、人数の予想はまったくつきません。そして強さですが」
俺はここで少し間を空ける。それはしっかりと聞いてもらいたいからだ。そして俺は言った。
「カルボーナなら町の一つくらい簡単に吹き飛ばせます。アルルが失われた回復魔法を使えるように、カルボーナも失われた攻撃魔法を所持しています」
「それは確実に?」
「俺ですら中級のダウンバースト使えるんですよ? 魔法のエキス……熟練者であるカルボーナは特級の魔法をいくつも所持してました」
「ダウンバーストは上級魔法よ?」
「こっちではですよね? あっちでは中級でした。ちなみにアルルが使える失われた回復魔法なら俺も使えます」
「「え?」」
攻撃系スキルは物理魔法問わず上級試験を突破できず中級のままだが、逆にそれ以外の魔法は全て特級まで使える。
「部位欠損とか治す魔法使えますし」
「ほ、本当に?」
「本当ですよ。俺のこっちの常識では部位欠損を治す魔法はないって事になってるので使う気はないですけど、聖女として名を上げるならやるでしょうね。もったいないけど」
「ユキト君? もったいないってどういう事?」
「アルルは後ろで回復や支援をすることを自分の役目としてたんであまり知られてないんですけど、マジックマスターなんですよね」
「マジックマスターって全ての魔法を習得した人に与えられる称号よね?」
「そのマジックマスターですね。とはいえ向こう基準なので本当に全てかはわかりませんけどね。それでも失われた魔法の数多くを習得してる間違いないですよ」
スイナさんは声も出ないようだった。本当にアルルであるかどうかわからないけど、俺の知ってるアルルだった場合、町と言うよりも都市を一つ吹き飛ばす可能性もある。それでもロールプレイしていたのでよっぽど親しい人の前以外では攻撃魔法は使わなかった。全滅しそうでも使わないんだから徹底していた。
「それがもし本当なら……」
「どんな人が来てるかにもよりますけど、種類問わず特級レベルを所持してる人は全体の六割はいましたから、失われた魔法、技術をもった人はわんさかいますよ?」
「それってすっごくまずくない?」
「使徒が暴走した場合世界が破滅する可能性もありますね」
「それどうすればいいのよ」
「どうする事もできないですから放っておくしかないですよ。考えてもみてください。この王都を滅ぼすくらいならスイナさんだって出来るでしょ?」
「……まぁ、その……やろうと思えば? でも相手がいるから防がれる可能性も十分あるよ」
「できる可能性があれば十分だと思います」
「ユキトくん、それって今の状態でも十分危険なんだから気にしても仕方がないってこと?」
「そんなところだね」
やろうと思えば、日常なんてあっという間に地獄絵図に代える力を持っている人なんてこの王都に相当数いるのだ。それが抑止力にもなってるだろうけど、最初の一撃で相当数の被害が出る。なら気にしても仕方がないのだ。
「ねぇユキトくん、ユキトくんはその強い人たちの中でどれくらい強かったの?」
「俺これでも生産職なんだけどなぁ」
「確かに服とかパパッと作っちゃうもんね」
「その人達と戦った事はないの?」
「ありますよ。勝った事は一度もないですね」
「使徒が敵にならない事を祈るしかないね……」
その後は俺の知ってる知識を色々とスイナさんに教えていった。頭抱えてたけど仕方がないと思う。そして俺は大事な事を言っていなかった。俺は負けた事も一度もないのだ。圧倒的な体力と回復や支援で倒せなかったのだ。そうだとしても一人じゃあまりにもカバーできる範囲が狭くて止めて一人二人だろう。それだとほとんど意味がない。
それにしても使徒とは本当に向こうの人たちなのだろうか? どうして使徒などと名乗っているのか? 本当に使徒として行動するのか? 何もかもがわからない状態だった。




