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2.本登録

 色の戻った世界。ここは間違いなく成人用のカードの発行しに来た教会の一室だった。カードに情報を書き込む為に水晶を触ったままの状態だった。


「強い光、素晴らしい力をお持ち……、その髪はどうなされたのですか?」

「髪?」


 頭を働かせて不審な動きをしないようにと思っていたら、突然髪の事を言われた。いったい何があったのだろうかと髪をつまんで目の前に持って来た。色が白くなっていた。元々は狐人族によくある薄い茶褐色、つまりきつね色だった訳だが白くなっていた。そもそも髪も短くしてあったはずなのに肩甲骨のあたりまで伸びてる。

 まさしくゲームの時のアバターそのままであった。顔に関しては何も言われないのでそのままなのだろう。


「確かに伸びてますし白くなっていますね。でも体に不調はないようなので気にしないで大丈夫ですよ」

「何が原因でそうなったのかわからないのに本当に大丈夫なのですか?」

「何か問題が起こったら報告すると言う事でどうでしょうか?」

「……わかりました。こちらでもこういう事例があったかどうか調べておきます。気になるようでしたらいつでもお越しください」

「わかりました。それでは失礼しますね」


 俺は成人用のカードを受け取って教会を後にした。

 このカードは身分証であり財布だ。十二歳になると子供用のカードが任意で発行できるようになり、十五歳になるとみんな必ず持つことになる。子供用の物からお金はこちらに移してある。




 まだ混乱してる所はある。自分でも情報を整理し切れてないし処理できてない。一度宿に戻って情報整理したいと思った。思ったけれどそれを我慢して新人冒険者用品店に向かう事にした。情報の整理なんて始めたら食事以外では部屋を出なくなると思ったからだ。装備のサイズ直しはしてもらわないとならないし……。


 ん? 俺の中で何かがひっかかった。それが何か探ってみた。……触媒なしのエンチャントでサイズの自動調整? これがあるから必要ないって事か? 便利だけど人に見られない場所でやる必要がある。


 ……装備を買って、ギルドで本登録して、宿に行こう。本当は大部屋の一番安い宿に行こうと思っていたけど個室にしよう。料金が大部屋なら五百リーレあればよかったけど個室は確か……二千リーレ以上だっけ? 四倍という数字に引きそうになるが、朝と夜の食事はつく。新人冒険者用の装備セットを買ってもギリギリ二泊できるくらいははずだ。


 王都周辺なら力をしっかりと扱い切れてなくても十分に魔物と戦えるはずなので、明日から一生懸命稼ぐしかない。むしろ装備セット買わなくても戦えるようになっているとは思うけど、周りの目があるので装備セットはちゃんと買おう。

 考えてるうちにお店についた。アーラル商会。冒険者ギルド南支店の三件隣にある新人向けのお店だ。武器や防具はもちろん、冒険者として必要な最低限の物ならなんでもそろうお店なのだ。




「いらっしゃい、今日はどのようなご用件ですか?」

「新人用の装備セットがほしいんですけど」

「カードを確認させていただけますか? はい、結構です。ご使用の武器はなんでしょうか?」

「片手剣です」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 アーラル商会に入って新人用の装備が置いてあるあたりをうろちょろしてたら店員に声をかけられた。前に値段を聞きに来ただけの時にもいた男の人だ。

 俺みたいな新人にも丁寧に接客してくれるので丁寧な店員さんなんだと思う。しばらくすると、装備一式持って来てくれた。


「私の見た目でサイズを選んで持ってきましたのであちらの試着室で着てみてください。サイズの変更、調節がありますので着たら控えておりますので声をかけてください。着かたが分からなければその時も遠慮なく聞いてください」

「わかりました」


 俺は渡された装備一式をもって試着室に入った。装備内容は、服の上から着て上半身を守る革の鎧、肘から手首あたりを守る手甲、丈夫そうな革のブーツ、剣をさすベルト、そして剣だ。

 ……お金が貯まったら服を買おう。買う? いや布と糸と裁縫道具を買って縫おう。今の俺ならそれもできそうだ。本当に何ができるのかちゃんと整理しなきゃと思う。


 一式装備して小さいと言う事はなさそうだったので良かった。これでサイズの自動調整を付けてしまえばなんの問題もない。今着てる状態でもそれなりに大丈夫だが動くことを考えるとこの少しの違和感が致命傷になる可能性もあるから、直すのは大事だ。……この装備で行くような場所ならそこまで気にする事もないのかもしれない。


「着ました。けっこうサイズ合ってますね」

「なるほど、確かに合っていますが若干調整した方がいいと思います。どうなされますか?」

「このままで大丈夫です」

「そうですか。何か問題が起こったらすぐに来てくださいね。調節するのは大事な事ですから」


 おそらく新人が討伐依頼を受けたりして、ようやくこの少しの違和感がとても気になる事に気が付くのだろう。それに気がついたらすぐに来てくださいね。という事だろう。本当に親切な店員さんだと思う。

 支払いをすませて外に出た支払額はしめて一万リーレ。新人用にということでがんばって値下げしてくれてる。

 後は道具袋や解体用、採取用のナイフも買うのだがそちらに関してはすでに持っている。町中仕事で解体手伝いや、庭掃除などで使うから購入済みなのだ。




 店から出た俺はそのままギルドへ向かった。とりあえず今日は本登録して依頼の確認だけしておこう。

 ギルドに入っていつもお世話になってるスイナさんの所へ向かった。

 スイナさんは金髪のセミロングでハーフアップにしている。スラリとしていて身長も170cmくらいはありそうな美人さんでエルフだ。


「こんにちは、スイナさん。正式登録してもらいたいんですがお願いできますか?」

「わかりました。ではカードをお願いします」


 スイナさんは虫の居所が悪い時いのだろうか? いつもよりも声が平坦で冷たい感じがした。通常業務状態かな? そう思いながらカードを渡し、そのカードを見ると目を見開いてカードをじっくりと見た後、俺を見てカードを見て静かに顔を上げた。何をしているんだろうか?


「もしかして……ユキト君?」

「そうですけど……それがどうかしましたか? あ、新人用の装備してたからわからなかったんですか?」

「その程度の変化じゃないでしょ!? 髪! 耳! ってもしかして……ちょっと後ろ向いて! あぁ、しっぽまで真っ白じゃないの! 一体何があったのよ」

「あぁ、そういえばそうでした」


 髪が長くはなったけどそれほど気にならない。そうするとそんな変化があったことなどすっかり忘れてしまっていたのだ。むしろ今なら白の方がしっくり来る気がする。


「似合ってますか?」


 と耳をピコピコ動かしながら聞いてみた。身を乗り出して変化を指摘していたスイナは俺のその言葉に毒気を抜かれたようにすとんと座った。


「そうね。似合ってると言えば似合ってるよ。それだけ余裕があるって事は何か変な事が起きた訳じゃなさそうだね。だけど本当に何があったの?」

「さっき成人用のカードを渡したのでわかると思うんですけど、十五歳になったんで教会に行ったんですよ。そこでカードに情報登録するための水晶に手を置いたらすっごい光りまして、光が収まったらこうなってました」

「教会の見解は?」

「わからないから、過去に似たような事がなかったか調べてみるっていってました」

「それってけっきょく、今現在何もわかってないって事だよね?」

「そうなりますね」


 スイナさんが頭を抱えてしまった。俺の事をだいぶ気にかけてくれてる人なので俺の身によくわからない事が起こったのがよほど気になるのだろう。だからと言って俺も納得いく説明ができる訳ではないのだが。


「体は大丈夫なの?」

「髪が長くなったのも気にならないくらいで、まったく問題ないですよ」

「何かあったらちゃんと言うの事、わかった?」

「わかりました」


 過保護のお姉ちゃんって感じだ。それを微笑ましく見守る人と悔しがる人、殺気がこもってる視線を送らるのはどう反応すればいいのだろうか? あ、出て行った……外で待ち伏せかな?。ギルド内だと職員さんが止めに入って来るからな。


「それじゃぁこれで正式登録完了したわ。すでに戦闘訓練は終わっているから、級外から十級にあがってるよ。外にも出られるようになったけど気を付けてね」

「わかりました」

「それと十級になったからこれからのランク上げの方法を教えるね。七級と二級以外は自分のランクにあった依頼を規定回数こなして成功率が八割を超えている必要があるの。規定回数はそれぞれの級によって変わって九級に上がるには十回受けて八回以上成功しないといけない訳だね」

「受けられる依頼も十級までなんですか?」

「受けるだけなら一つ上のランク、下も基本的には一つ下のランクまでが受けられる範囲よ。ただ上を受けても一回は一回だし、下の依頼は成功しても回数に入らないからね。ただ、下の依頼は失敗したら失敗だけはきちんとカウントされるから気を付けてね」


 同じ回数なら上の依頼を受ける利点はなくて、下の依頼はそのランクの仕事奪わない為の処置だと思う。自分のランクの仕事をがんばってこなせばランクが上がるって事だね。


「七級と二級に上がるのには確か試験があるんですよね?」

「うん、そうなの。七級に上がるには護衛依頼を受ける必要があって、二級に上がる時には戦闘試練があるね。三級と二級の間の実力差って大きいから……」


 実際三級の六人パーティと二級一人が戦ったら二級一人が勝つって言われてるくらいだ。それくらい実力差があるのだ。

 とは言え、回数をこなさないと昇格試験を受ける事も出来ないので、まずは七級昇格試験目指してがんばろう。


「わかりました。とりあえず七級目指してがんばりますね」

「稼ぎがいいからって急いでランク上げようとして無理しちゃダメだよ?」

「わかりました。今日は十級の依頼内容だけ見て帰りますね」

「……町中の依頼は受けて行かないの?」

「大丈夫だとは思いますけど今日くらいは休んで体の様子を見てみようと思います」

「ユキト君、こっち来て。……熱はなさそうだね。でもしっかり休む事。絶対だからね。私との約束だよ」


 俺呼び寄せておでこに手を当てて熱を測られた。どうしてこんな事をするのだろうか? そして周りは、おでこを触わってるぞ! 羨ましい、俺のおでこもいやもっと……とか色々言ってた。最後のやつは聞きたくないので途中でシャットアウトなのですよ。


「スイナさんどうしたんですか?」

「だって、ユキト君が時間があるのに稼ぎに行かないなんて今までなかったから心配しちゃったのよ」


 心当たりがありすぎた。スイナさんには休むことも大切よ? と諭される事が多かったくらい働いていたのだ。俺の少ない稼ぎを入れた所で孤児院の状態が良くなるような事はない。それでもお世話になった場所だ。少しでもお金を入れようと働いていた。それはもう周りが心配するくらいに働いていたのだ。


「えっと、すみません。これからは外に出る危険な依頼も受けるのでしっかり休みもとりたいと思います」

「ユキト君……、ようやく、ようやくわかってくれたんだね! そう、しっかり休むことも大事だから。冒険者が依頼を受ける時は万全の状態にしなきゃいけないからね。うんうん」

「そんな乗り出して来て両手握って顔近づけなくてもわかりましたから、本当にわかりましたから」


 周りからの視線が強くなったよ。両手握られて顔近づけられたらそれは注目の的だろう。ここはスイナさんから離れるべきか。


「それじゃあ俺行きますね」

「えぇ、しっかり休んでね。体にどんな影響があるかわからないんだからね」

「わかりました」


 俺は依頼掲示板を確認した。十級から八級はほとんどが常時張り出されてる依頼が多い。十級だと薬草の採取やタックルラビットの肉の納品、スライムの討伐などになる。常時だから依頼を吟味してとかいう事もない。

 明日は、スライム討伐しつつ薬草を探してみようかなと思いながら外に出た。

 確実にトラブルが待っているので心構えだけはしっかりしておこう。

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