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19.護衛?

 依頼があるまでに時間ができた。お金も余裕がある。指名依頼は帰って来てからとなると出来る事が少ない。

 とはいえ、買い物はしてこないとまずいので食料を買い、時計も買った。ついでに裁縫道具も最低限の物しかなかったので追加した。


 ギルドの修練場にも行ってきた。短剣の扱い方を教える為だ。ある程度使えるようになっておけば急な襲撃にも対処……できるかもしれない。覚えておいて損はないだろう。

 そう思ってエリナに教えていたんだけどいつの間にか生徒が増えた。

 最初はエリナにナイフの使い方を説明して実演込みで教えていただけのはずだった。いつの間にか見学者がいたが見てるだけならいいかと思いエリナに教え続けた。

 そして攻撃させて、防御させてとやり、エリナが休憩に入るとおそらくスラムに住んでるであろう子供が寄って来て、


「教えてください!」


 って言うもんだから軽く、本当に軽く教えてやったら群がられた。群がって来た連中はほとんどまともに短剣の使い方を知らなかった。短剣を大上段に構えて振り下ろすとかバカなのかと思った。止めの一撃とかならありなのかもしれないが……いやないだろ。それを一生懸命素振りするのはいかがなものかと……。

 仕方がないのでエリナに手伝ってもらってもう一度最初から周りに聞こえるように教えた。

 その後、不特定多数に教えないの。とスイナさんに怒られた。前は教えてくれたんだから次も次もとなるし、お金を払って教える教導官もいるんだからと言われた。

 初めてだからと大目に見てくれたのは助かった。今度から気を付けようと思う。

 その後は王都から出て外で練習をする事にした。さすがにここまで来る人はいなかった。

 短期集中訓練だったけど素人が短剣を握っているなんて状態ではなくなったのでこれでとりあえずいい事にした。


 夜は夜でいつもの魔力循環と瞑想をしてもらった。俺は俺でチクチクと縫い物をしていた。着替えは多くあった方がいい。

 後ついにエリナの私服を一着縫い上げた。黒のカーディガンとベルトつきの白のロングワンピースだ。休みの日にでも着て……。まともに休みを取らなかったと思い出した護衛前日だった。

 帰ってきたらしっかり休もう。出かけよう。エリナのやりたいことをやらせてあげないとと頭を抱えながら眠りについた。




 そして当日の朝、集合場所に行くと思いがけない人がいた。


「おはようございます、アリエルさん。今日はどうしたんですか?」

「おはようございます、ユキトさんとエリナさん。そして初めまして、ハニエルと言います。あなた達の事はアリエルから聞いています」

「え?」

「つまり双子という事ですか?」

「はい、そうなります」


 まさかの双子でした。それにしてもここにいるって事は……、どういう事だろうか? ハニエルさんも商業ギルドの人? それとももしかして……


「あ、えっと、エリナです。それでハニエルさんはどうしてここにいるんですか?」

「簡単な事です。私が今回の依頼主であるエルド商会の者だと言う事です」

「……もしかして、何か手を回しました?」


 俺はそう聞いてみるが首を振られた。振られたけどちょっと信じられない。あまりにもタイミングが良くないか?


「いえ、こちらからは何もしておりません。ですが、私達の商会が昇格試験を受ける時に試験を受ける人に薦めるのはよくあることです。しかも今回は往復ですから帰りの心配もいりません。多少先の日程でも、十分な資金を持っていればこれに乗らない手はありませんから」

「なるほど。誘導とまでは行かないまでも選ばれる可能性は非常に高かったって事ですね」

「そうなります。そして乗ったら確実に七級にあげられるように手を貸してほしいとカリルとアリエルから言っていました。ロゲホスの数が増え、まとまった数の納品ですから六級相当の依頼にされたらしいですからね」

「そうなんですか……」

「でも、ギルドで数が増えたーって話聞いた事なかったよね?」

「確かに」


 周期的に増えるならその時期なら警告くらい出るものじゃないだろうか? そう思ったがその疑問はハニエルさんが答えてくれた。


「ロゲホスで稼ぎ人達というのは馬車も人も必要なのでクランに所属しているんです。ですから増え始めると狩りを止めて別の依頼をしばらくしています。そして商業ギルドから出る報酬の多い依頼が出るのを待つんですよ」

「そういえば普通は馬車とか色々必要なんですよね。そうすると冒険者ギルドがわざわざ動かなくても勝手に判断してやってくれるんですね。そこに俺達がノコノコ出てきたわけですね……。恨まれるかな……」

「逆恨みはあるかもしれませんね。しかし、それをしてしまえばクランの名に傷がつきますから、暴走するものがいなければ大丈夫かと」


 つまり暴走するのがいるかもしれないと……。特定の場所以外ではなるべく隠ぺいや幻術で誤魔化しながら生活するしかないかもしれない。俺は特に気にしないけどエリナもそれに付き合わせてしまって申し訳なく思った。

 とはいえ、隠ぺいや隠密なんかの隠れるスキルはそんなにすぐに鍛えられるものではない。魔道具は魔石の質の問題で難しい……。しばらくはやっぱり一緒に行動するしかない。


「とりあえず気を付けておきます。ところでもう時間ですよね? 他の冒険者はどうもあっちに集まってるみたいなんですけど」

「馬車は三台で行動します。先頭はエルド商会専属の護衛がいます。後ろには冒険者が乗ります。私達は真ん中の馬車に乗ります。つまり向こうと合流する必要はありません」

「えこひいきを隠そうともしませんね」

「こちらとしてはエルド商会とあなた達の関係が強いと思ってもらえる方が将来的に益は大きいと判断しております。後ほど紹介状も渡しますので装備を変える時にはぜひお越しください」

「わかりました。よろしくお願いします」


 エルド商会は大きな商会だ。そしてランクが高い冒険者が利用する事で有名でその商会が目をつけた冒険者って事で守られることもあれば厄介事がやってくる気もする。

 なんというか、まだ本登録してから三週間たってないのにずいぶん変わったものだと思う。原因は確実に成人カードを発行したあの時だ。駆け足に色々と進み過ぎてるなぁと思う。


「では、もうすぐ出発ですのでお乗りください」


 本来、七級昇格試験で護衛依頼をするのは護衛依頼を習う為という意味が強いと思う。だからこそ、ギルドから信頼できる所を選んで依頼を受けさせているはずだ。

 俺達はそんなの関係ないと言わんばかりの待遇で試験を受ける羽目になった。今後護衛依頼を受ける時にきついかもしれないが、そもそも受けなければいいかと思った。




 今回の馬車の編成は三台、先頭と二台目に荷物と商会関係者、三台目が冒険者専用だ。そして今この二台目の馬車に乗っているのは御者、ハニエルさん、俺達だけだ。御者は馬車の外にいるので実質三人だけだった。アクアは今はエリナが抱っこしている。


「特別扱いなのはわかりますけど、夜の見張りとかはどうなってるんですか?」

「お二人はその枠からも外れていますよ」

「ユキトくん、もうこれ護衛される側だよね?」

「そうだね」


 完全にお客様扱いというのは良くはない。出来る事はするべきだと思うが、ここで見張りをすると言っても組み込んでもらえるかどうかわからない。とりあえず聞いてみるしかないか。


「見張りなどに組み込んではもらえないですか?」

「そういった予定はすでに組んでいるはずなので、冒険者の見張りの順番を入れ替える事はあっても、新しく入れるのは手間を増やすだけかと」

「……そうですか。それと魔物についてなんですけど」

「その場合もどのように対処するかはすでに決まっています。お二人の仕事は私の護衛という事になりますね」

「なるほど……。それでは最後に、魔物に襲われなかった場合に何か不都合がありますか?」

「襲われないに越したことはありませんが……どういう意味ですか?」

「魔物除けの結界を張らせてもらおうかと、そうすれば魔物に襲われる心配はかなり減ると思いますよ」

「ぜひお願いします」


 即答だった。普通に考えれば足が止めなくていいのだし危険も減らせる。当然の判断だとも言える。とはいえあくまでも魔物がよりにくくなるだけだし盗賊の心配もあるので見張りは必要になる。それすらも俺が感知できるし、近づく前に誰にも知られずに処理する事もできるのでもしそういう事になったらそうしようと思う。


「わかりました。魔物除け」

「……あの……、それだけですか?」

「時間をかけるのは能力が低い証拠ですよ」

「ユキトくんの能力が異常に高いだけだと思うよ」

「その自覚もある。効果に関しては行き帰りの魔物との遭遇率をみてもらえればいいと思いますよ」

「そ、そうですね。そうさせてもらいます」


 あまりにもあっさりしていたので驚かせてしまったみたいだ。そんなこんなで俺達の護衛依頼が始まった。護衛依頼と言って本当にいいのかどうかは疑問が残るところではある。


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