表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/79

17.商業ギルド

「すみません。もうすでに報告させていただきました」


 職員さんが悪い笑顔でそう告げた。うるさいおじさんはおじさんで固まっている。商業ギルドでも偉い人なのだろうか? いや、さすがに偉い人がこう簡単に出向いて来ないか?


「次はないと言っておいたはずですね?」

「わ、私は悪くない! 悪いのは全部このガキだ! こいつが大量にあるロゲホスを売らないから悪いんだ!」

「そんなものは~、理由になりませんよ~。ご迷惑をかけてるだけです~」

「う、うるさい! 私は、私は悪くない!」

「もう黙れ」


 秘書風お姉さんが消えたかと思える速度で移動し、首の前の方の側面を叩き気絶させた。


「お見事」

「今のが見えたのですか?」

「ここですよね?」


 そう言って俺は自分の首で叩いた場所をトントンとチョップしてみた。


「その通りです。お強いのですね」

「いえいえ、商業ギルドの方がその強さの方が驚きです」

「お金というものは時に人を惑わす魔物ですから」

「なるほど、納得しました」

「アリエルちゃんが~仲良さそうにできる子がいるんだね~」

「私は誰も受け入れない訳ではありません」

「相手が~怖がっちゃうだけだもんね~」


 確かにきつい印象があるが悪い人には見えない。きつい印象があるとどうしても近寄りづらいしなぁ。


「あなたがユキトくん~?」

「はい、そうです」

「そうなのね~。最近ロゲホス仕入れてきてくれて助かってるの~。ありがとうね~。そうそう、自己紹介がまだだったね~。私はカリル。王都商業ギルド南支部のマスターをやってるの~。よろしくね~。そちらの子もよろしくね~」

「秘書をしてるアリエルです。よろしくお願いします」

「名前は知ってるみたいですけどユキトです。よろしくお願いします」

「エ、エリナです……。よろしくお願いします」


 まさかのギルドマスター様と秘書さんでした。ギルドマスターがそうホイホイ出歩いていいものなのだろうか? 


「私が来たのは~、冒険者ギルドに迷惑をかけたおバカさんがいるから~、謝罪しにきたんだよ~。こういう事はしっかりしておかないと~いけないからね~」

「なるほど、大変ですね」

「そうなのよ~。まったく嫌になっちゃうわ~。ところで~、指名依頼したら受けてくれるかな~? ロゲホスなんだけど、もっとほしいのよ~」

「今三十出して、これから四十出しますけどそれでも必要ですか?」

「毛皮だけならまとめてでもいいけど~、お肉とかは期限のあるものだから~、まとめては出来ればさけてほしいけど~、そこまでは干渉できないから~、がんばって売るよ~」

「カリル、答えになっていません。出来れば一日に二十頭ほど、三十五日分ほど用意していただきたいのです」


 一日二十頭、三十五日で七百頭分か。一ヵ月間って言わないのは取りに行く時間やらなんやらがあるからだろうな。それと交渉するならアリエルさんの方がしやすそうだ。


「それで一回の依頼?」

「いえ、一日一回二十頭売っていただいたら、通常依頼の毛皮買取りとその他の部位の買取り金額を一割増しで買い取るという依頼を三十五回出すことになります」

「少し条件いじっても大丈夫ですか?」

「無理な事でなければ」

「一回の買取りを二十一匹に変更してもらって、買取り値段はそのまま、その代わり一頭分のロゲホスの布をもらいたいんです。あと一回は布じゃなくて糸をください」


 エリナもそれは名案とばかりに頷いて同意してる。俺の服の着心地に完全にはまっている。俺自身も今日は全身自分で縫ったものだが、そこまで大げさに違うとは思えないのだけど、女の子だと敏感なのだろうか?


「理由を聞いても?」

「この服自分で縫ったんですよ。これをどうぞ」


 俺はアクアをフードから出してパーカーをアリエルさんに渡した。商業ギルドの人なら十分に意味を理解してくれると思う。


「これを自分で~? 着せて着せて~」

「どうぞ」

「わ~い。うん、感触はいいね~。着心地もいいよ~。しかも、何かしらのエンチャント付きだよね~? お店は持たないの~? 私個人で支援するよ~」

「……カリナ。本気ですか?」

「本気だよ~。あ、やっぱダメ~」

「どっちなの……」

「だって~、仕事量次第では他の人あっという間に駆逐されちゃうよ~」

「……これはそこまでのものですか? 確かに良い物だとは思いますが」

「そうだよ~。高級品を超える安価な綿製品だよ~」


 綿を素材にしているのにエンチャントをかけるなんて普通しないからな。それと店を持つ気はない。


「店を持つつもりはまったくありませんが、自分で縫いたいという気持ちは分かってもらえましたか?」

「これなら当然ね~。それじゃぁ一日二十一頭、買取りは一割増しで~、おまけで一頭分の布~。糸もそれなりの量つけてあげるね~。それで三十五回連続指名依頼って事でどうかな~?」

「こちらとしてはありがたいですがいいのですか?」

「いいのよ~。出来ればこれが終わった後も~、継続して少しづつ売ってくれると~、嬉しいけどね~」

「王都は人の出入りが激しいので七百頭分くらいならすぐに使い切ってしまう可能性も十分あります。ロゲホスよりも優れた布製品は一気に数倍の値段に跳ね上がりますから、冒険者が着る服の素材としてロゲホスは一般的な物の一つですから」


 ロゲホスはどうやら一般的、つまり三級から七級の冒険者なら比較的多くの者が来てる服の素材と言う事になる。

 ……だったらなんでちゃんと集めようとしないのかがわからない。


「ロゲホスはね~。周期的になぜか一気に増えるの~。今がちょうどその時期でね~。どこかのクランに指名依頼をしようかどうかって考えてたの~。でもそうすると~、毛皮以外はあまり出回らなくてね~。でも~、ユキトくんは一頭まるごと持って来てくれるでしょ~? クラン指定依頼よりも~、売り物も多ければ~、品質も最高だから~、儲けは大きいの~」

「それに方法は分かりませんが優れた保存方法もあるようなので、三日連続で十頭納品がありましたが、すべて同じような品質でした。そこに出されているものに関しても良い物のようです。商売をする人から見るととても魅力的なのです」

「クランが出るって事は相当狩っても問題ないんですか?」

「問題ありません。過去の資料では一か月で二千ほど倒してようやく事態の鎮静化が出来たとありましたので、千や二千狩っても問題ないのでしょう。出来れば期待させていただきたいです」


 なるほど、理解した。とりあえず他の人が供給できるようになるくらいまでは俺が狩ろう。そうすれば俺の手を離れる訳だ。

 強い敵と戦えないのは痛いが、エリナを鍛える時間が十分に取れるのはいいことだろう。成長……レベル上げができないのがちと残念だが、ジェネラルとこれからやるロゲホスでしばらくは問題にならないくらいのレベルにはなるだろう。


「できる限り期待に応えたいと思いますよ」

「そうですか。ありがとうございます。それでは私達はこの辺りで失礼します。今回はご迷惑をおかけしまして申し訳ありませんでした」

「依頼は~、ちゃ~んと出しておくからお願いね~」


 こうして、俺は布も糸も確保できる状態になった。あいつにはムカついたけど実に実りあるものになった。その後は四十頭も出して、ギルドを後にした。



 エリナがギルドを出るとぎゅっと服の裾を掴んだ。


「ねぇ、ユキトくん」

「どうした?」

「あのしっかりした人キレイだったね」


 エリナは不安そうな顔をしていた。別の女の人と話してこの反応。それに聞かなかった事と言われたけど、エリナの気持ちのなんとなくは察しがつく。けど、どうやって踏み込んでいけばいいのか、わからない。

 とりあえず不安は取り除いてあげるべきだけど、エリナが好みだよとはちょっと言いにくい。こういう時に言わないからヘタレなのだろうか?


「そうだな。俺の好みとは違うけどキレイな人だったな」

「どういう人が好みなの?」

「キレイな人だとどうしても緊張するから可愛い子の方が好みだよ。後は一緒にいる時間が長い方が情が湧くかな」

「えっとそれって……」

「院長が言った事覚えてる?」

「聞かなかったことにしてって言ったよね?」

「エリナについての所じゃなくて、俺の事どう言ってたか覚えてないか?」

「えっと……あ」

「まぁそう言う事だ。お金も入ったし余裕をもって食料を買って、テントも小さいのしかないからアーラル商会によって買おうか。後は俺が着るロングコートと寝巻用の布も買わないと」

「ユ、ユキトくん」


 はっきり言えば恥ずかしくなってきたのだ。それを誤魔化すように少し急かすようにアーラル商会に行きテントを見たりしたのだが、一人用じゃなくて大きいものを買う羽目になった。人気のない外で二人きりって……野外だし、魔物の危険もあるけど俺の理性が試されているのだろうか? それとも実は誘われてるのだろうか? 謎である。

 最初が最初なので疑ったせいできっかけがないと動きにくい。いや、これは行動できないヘタレな俺のせいなのだろう。




 布も買い宿に戻り、お金はあるので二十泊分まとめて払った。これ以上払うとちょっと余裕がなくなってしまうかなと思う。そして服の製作開始だ。夕食前にぱぱっと浴衣を縫った。食後はこれに着替えてロングコートを製作。

 エリナのローブと同じく裏地には快適の物理エンチャントを施した。魔法のエンチャントも同じように汚れに強い、耐刃、隠ぺいにした。ロゲホスの布が手にはいる事になったので深く考えないで適当につけた。


「ユキトくん、それ珍しいけどどんな服なの?」

「どんなって言われるとどう説明したもんか……。中は下着だけで、素肌にそのまま羽織って、前を合わせてこの紐でしばってあるんだよ」

「私もほしいって言っちゃダメ?」

「いいけど、さっきも言った通り中は下着だけだからこの紐がほどけたら朝から大騒ぎになるかもよ?」

「……それでもお願いできる?」

「わかった。帰ってきたら縫おう」


 ついでにTシャツも縫って下に着れるようにしておけば事故は防げるだろう。無粋ではあるが必要だと思う。まさかはだける所まで計算に入れて誘ってる訳じゃないですよね?

 テントのエンチャントは明日出した時にでもすればいいだろう。もう寝よう。その方が俺の為だと思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ