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15.寝巻

「あーうん、それじゃ本題に入ろうか」

「お願いします」


 今、この孤児院の秘密が明かされるといった具合だろうか? しかし防音結界まで張ってどんな話なんだろうか?


「ぶっちゃけると、全部わざとやってんだよね。隙間風もちょいとばかりひもじい思いをさせるのもさ」

「お金はあるのにわざとそういう生活をさせてるって事ですか?」


 この院長はこんなんでもここにいる子らの事をよく考えてるのは知ってる。知ってるがそれでも言葉にトゲが混じるのは仕方がない事だろう。


「そういうこった。怒るなよ? 寒かったり暑かったりするけどここで病気で死んだって話聞いた事あるか? 腹減ったからって細っこい奴がいるか? いねぇだろ。ちゃんとそういう調整はしてるんだ。魔道具で体力は問題ないし、量は少なくてもちゃんと栄養管理してるんだからな」

「どうしてそんな事をしてるんですか?」

「根性鍛える為だよ。実家のある連中は親に泣きつく事もできるかもしれねぇけど孤児院は出たらそれでお終いだ。助けてやれん。ならしっかり体も根性も作って送り出してやるしかないだろ?」


 わからないでもない。わからないでもないが……それならもう少しどうにかならないのだろうかと思う。だけど、俺にはその辺りの駆け引きというかそういうものがわからないので何とも言えない。


「もちろん送り出すだけじゃなくて裏じゃ色々やってるんだからな。孤児院出の冒険者仮登録は多いけど、本登録してるのは案外少ないってのは知ってるだろ? 町中の仕事を積極的にやらせてるのは、雇用してもらう為の試験なんだよ。毎年、これくらいの人数が仮登録中だから、良いのがいたら雇ってくれって頼んでるんだよ」

「……そこまで動いてるんですか?」

「当たり前だろ? この孤児院は国がしっかり管理してる所だぞ? 予算だってちゃんとついてるんだ。むしろ予算が余って返してるしな。ある程度不自由を知ってるし、後がないってわかってるから必死でがんばるやつが多い。だから、孤児院出は案外重宝されるんだよ」


 予想以上に裏では動いてる事を知って驚いた。そして今までの話からすると俺はアレなわけだ……。


「つまり、冒険者の本登録をした人は誘いを断った人か、試験で落とされて誘いすら受けられなかった人という訳ですね……」

「お前みたいな例外もいるがな」

「例外なんですか?」

「はっきり言えばスイナが悪い。あれが養子にするなんて言うからけっきょくお前に話を持っていけなかった」

「スイナさんの養子?」

「スイナさんって冒険者ギルドのスイナさんですか?」

「もち。そのスイナだ」


 俺もだけどエリナも驚いていた。あのスイナさんが俺をなぜ養子にしようと思ってのかさっぱりわからない。仲がいいことはいいけどあくまでも受付と冒険者ってだけだと思っていた。


「でも、そんな話聞いた事がないですよ?」

「当然だろ。私が蹴った。でもスイナがしつこくてなぁ。養子縁組の申請が出されてる間は雇うに雇ってもらえないんだよ。それでけっきょくそのまま冒険者だ」

「でもなんでスイナさんは俺を?」

「本人に聞いてやれ。きっと慌てて教えてくれないぞ」

「教えてくれないんですね……」

「そりゃそうさ。理由が理由だからな、くひひひ」


 スイナさんの事だから変な理由ではないと思うけどかなり気になる。とりあえず聞くだけ聞いてみるしかないかな?


「スイナさんもなのかなぁ……」

「スイナさんもって何が?」

「え? ううん。なんでもない。なんでもないよ」


 もしかしてエリナは理由が分かったのだろうか? 女性なら気が付く理由なのか? わからん……まったくわからん。


「と、まぁこんな訳だ。寄付の必要性もない事がわかっただろ? とはいえこれ実は秘密ってほど秘密じゃなくてけっこうな人が知ってる話なんだけどな。チビらには言うなよ? もっと食わせろとか言われたらめんどうでかなわん」

「まぁ……そうですね。そうするとどうやって恩返しすればいいのかさっぱりわからなくなりますけど、とりあえずこれだけは受け取ってください」


 そう言って俺は二匹分のウルフの肉と一頭分の出した。院長はもちろん呆れていた。まだネタがあったのかよ。って感じだ。


「これ何の肉だ? こっちはウルフっぽいがよ……。こっちの肉は見た事ねぇぞ?」

「ロゲホスの肉ですね」

「……そんな肉どうやって手に入れた?」

「自力で」

「……この短期間でそこまで行くか。まぁ今の実力が私の見える通りなら余裕っちゃ余裕だよな。正直、この能力を今だけは疑いたいくらいなんだがな」

「ジェネラル瞬殺くらいはできましたよ」

「もうお前の存在が信じらんねー」


 その後も色々と話した。肉は生ものだしもらっとくわ。ありがとうな。でも、もうもってくるんじゃねぇぞ? とお言葉をいただき院長との話は終わった。

 その後、廊下でちびらに見つかり遊んでやることになった。エリナも楽しそうだったので良しとしよう。




 なんだかんだで長い時間を孤児院ですごし、宿に帰ってきたら夕食の時間になっていた。そしてもうすでに幻術以外の能力は取り戻している。そんな訳でサクサクっと服を縫って行く。

 エリナはアクアと遊んでいるがサイズはばっちりのはずだ。一着くらい失敗しても懐は痛まない。


 まずは長袖のブラウスを縫う。仕事用なのでシンプルな物だ。迷いなくハサミを入れる姿を見たからだろうか、アクアと遊んでいたエリナが声をかけて来た。


「服ってそんな風に作るものなの?」

「普通はサイズを測って服のパーツを布に書き込んだりしてから切っていくかな。俺の場合はそれをしなくても問題なく作れるからね。ちゃんとした方がちゃんとしたものは縫えるけど、ただの綿ならそこまでしなくてもいいなかぁと」

「でも、私のサイズ測ってないよね?」

「服の上からでも大体見ればわかるからね」

「わかるものなんだ」

「なぜかね」


 そんな話をしながらも手は休まずにどんどん作業を続けていく。一時間ほどでブラウスが縫い終わり、お馴染みの汚れに強いと快適をエンチャントしておく。


「たぶん大丈夫だと思うけどこれ着てみてもらってもいい?」

「うん、でもこんなに早くできるなんて思ってもみなかった」

「これを基準にしたら絶対にダメだからね」


 部屋を移動して着替えてもらった。さてどうなるかな?

 出てきたエリナを見る限り問題はなさそうだった。シンプルな分上品に見える気がする。ただ、ズボンがそのままなのでなんだかすっごいアンバランスに見える。

 実はこのアンバランスは俺のパーカーも似たようなもんなんだけど、一部だけ上質な物を着ていて他が普通以下なのでとっても違和感が出る。

 今までは着る側だったのでそれほどでもなかったが見る側に回るとヒドイな。


「着替えたよ。ちょうどいいと思うよ。それでこれなんだかすっごく着心地がいいんだけど普通の綿の布だよね?」

「着心地がいいのはエンチャント施したからだよ。後は汚れにも強いから血がついても洗えば落ちるよ」

「これだけで十分お金稼げるよね?」

「昨日も言ったけど稼げるとは思うけど、不特定多数の為に縫いまくってエンチャントしまくってって生活は嫌かな? 趣味は趣味で楽しくやりたい」

「我がままだね」

「その我がままの着せ替え遊びに付き合わされるのは覚えてる?」

「……私も女だからオシャレには興味があるよ。でも冒険者になるから無理だろうなぁって思ってたのに、想像もしてない形で服がいっぱいになりそうだね」

「喜んでもらえるなら何よりだよ」


 俺はといえば、ブラウスがちょうどいいらしいのでズボンの製作に入っていた。白のブラウスに黒のズボン。動きやすさ重視ならスカートよりもズボンかなって思うし、実際女性冒険者は前衛も後衛も関係なくズボンをはいている。

 スカートは私服で今度縫えばいいことだ。そういう訳でどんどん作業をしていく。


 エリナにはアクアとの遊びをやめてもらい魔力循環の練習をしてもらう。もう俺が魔力を流さなくてもできるはずだからだ。

 俺は俺でどんどん縫って行く。今日はこのズボンを縫って終わり。明日はローブを縫おうと思う。ローブは布が多いのでその分エンチャントの容量も増える。何をつけるか悩むところであるがそれは明日悩んで今は目の前の事を終わらせてしまう。


 縫い終わりエリナに着てもらった。今回は両方とも同じ品質の物だ。アンバランスな感じが消えていいと思う。


「よく似合ってるよ。自分で縫っておいてなんだけど上品な感じがする」

「ありがと。それでお願いがあるんだけどいい?」

「何?」

「ものすごく着心地がいいの。だから、下着の違和感がすっごいの」

「えっとつまりそれは?」

「すぐに下着縫ってほしいです」

「……わかった」


 目が本気でちょっと怖かったので急いでブラジャーとショーツを縫う事にした。ゲームの時に作れと言ってきたあの人には感謝するべきなのだろうか? 俺を困らせたかっただけだからする必要もないか。

 ブラジャーとショーツは面積が小さいので快適だけエンチャントする事にした。そういえば女性特有のものはどうするのだろうか? 俺が考える事ではないのかもしれない。

 俺が必死になって高速で縫ってる間、エリナはソワソワしてた。そんなに違和感があるのかと聞いたら、すっごいのってまた言ってた。

 ちょっと可愛いなと思ったがここで下手に遅らせようものなら後でひどい目を見そうなので必死に頑張った。そして出来上がった。


「これ、ブラとショーツね」

「こっちのパンツの方は分かるけどこれは何?」

「あれ? 胸につける下着だけど……なかったっけ?」

「胸につけるんだ。普段は帯をグルグルって巻いてあるだけだよ」


 ちょっとやらかしたかもしれないと思いながらも、この場所を胸のふくらみのすぐ下に当たるよにするとか、上半身を軽く倒して救い上げるようにカップに収めるとかストラップの位置をきちんとするとか指導した。

 なぜこんな事を知ってるかと言われたら、作り方を調べてる時に歴史が気になり便利なネット百科事典で調べた時に一緒に乗ってたから読んでしまったのだ。

 どんな知識もどんな形で役に立つかわからないものだ。

 最初はちょっとめんどくさそうにしていたが、着けて出てきたらもう虜である。効果があり過ぎたと言ってもいい。


「私、もうユキトくんが作った服以外着ない。このまま寝ます」

「下着はともかく他は冒険者としての仕事用なんだけど……」

「このまま寝るね」

「……明日一日縫い物するから、ちゃんと寝巻も用意しますから明日は着替えてください」

「よろしくお願いします」

「それはいいけどエリナは明日どうするの?」

「一緒にいるよ?」

「……そっか。それならそれでいいかな。出かけたくなったら言ってね」

「ジェネラルの事もあるし、一人で出歩くのはちょっと怖いかな」


 そう言えばそんな事もあったと思い出した。確かにそんな事のあった後で一人で外を歩くのは危険かもしれない。今日は一緒にいたし、いつもある程度隠ぺいをかけてるから絡まれなかった。

 常に隠ぺいをかけてるのは習慣づけているだけだ。おそらく今後色々巻き込まれる気がするしな。


「確かにそうだな。魔力循環やったりアクアと遊んでやってくれ」

「うん、わかった。それではお休みなさい」

「あぁお休み」


 もう暗くなって大分たつ。すでに結構な時間なんだと思う。俺も必死になって縫ったのでそれなりに疲れた。今日は魔法を使わなくても素直に眠れそうだった。


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