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14.孤児院

 アクアは今日一日宿に待機だ。今日は町の外に出かけない事を話したらベットに飛び乗りコロコロ転がってた。それなら引きこもると言わんばかりにベットを転がり布団の中に潜り込んだりしてた。

 潜り込んだのが俺のベットなので許してやろう。エリナのベットだったらお仕置きが必要だった。そんな羨ましい事許してなるものか。


 アクアの為に魔力を込めた水を用意して宿を出た俺達はギルドでお金を受け取り、ロゲホスを放出しながら一頭分の肉を先に用意してもらった。これも土産にして行こうと思う。




 そして大きさだけはそれなりにある古びた建物の前にやってきた。ここが俺の育った孤児院だ。……今見るとこの孤児院ものすごい違和感があるがそれは後で院長にでも聞いてみようと思う。

 そして孤児院の前には何を考えてるのかさっぱりわからない無表情なじいちゃんが掃除をしていた。


「じいちゃん、こんにちは。元気にしてた?」

「……………ユキトか? 待ってろ」


 じいちゃんは来訪を告げる指笛を吹いた。ほとんどしゃべらないので頷くだけで声は聞けないと思ってた。すでに忘れがちだが、髪も耳やしっぽの毛の色も白く変わってるのだ。おそらくそのせいで俺なのがわからなかったのだろう。

 少し待ってると扉が開いた。出てきたのは犬人族のバッシュ兄ちゃんだ。


「ボス! 呼んだっすか? あぁ、そこの人たちを案内すればいいんっすね。そこの人ら誰に用……あれ? この匂い……どっかで会った事ないっすか?」

「それをエリナに言ってたらただのナンパ野郎になってたね。バッシュ兄ちゃん。一週間ぶり」

「ん? ん~……。あ! ユキトっすか!? 大分白くなっちまったみたいっすが大丈夫っすか!」

「害はないから大丈夫だよ。院長いる?」

「いるっすよ。案内するっす! それでそっちの子は彼女っすか?」

「残念ながら今はそういう関係じゃないよ」

「ユキトくん次第じゃないのかな?」

「仲が言いようでうらやましいっす」


 そんな話をしながら俺達は孤児院の中に入っていった。

 チビらは朝食の後、外で遊び、しばらく遊んだら勉強をするのが決まりだ。その勉強をしてるはずの時間を見計らって来たので廊下でチビらに会う事はなかった。そしてこの時間なら院長に会いやすいと思って来たのだ。その事をエリナに説明しながら廊下を歩いて行く。

 見慣れた院長室の前に立ち、バッシュ兄ちゃんがノックして声をかけた。


「姐さん! お客っす!」

「あいよ。入って来な」


 院長にあるまじき言葉使いだよなと思いながら扉を開けた。

 そこにいたのはエルフとしては珍しい赤い髪のショートの女性だった。胸はお察しだ。


「こんにちは、院長。一週間ぶりです」

「……誰?」

「ユキトですよ」


 それを聞くと固まってしまった。そして段々下を向いて行き、バッと体を起こし指で俺を差し、反対の手で腹を抱えて大笑いし出した。足もバタバタしてるのが音でわかる。


「白! しっろ! なんだよ、イメチェン? デヒュー? くははははは!!! 白いよ。髪も毛も真っ白じゃん! 笑える、笑えるわぁー! く、苦し、くひひひひ……」

「ユキトくん……。この人が院長なの?」

「こんなんだけどこの孤児院の最高責任者の院長なんだよ。これで優秀な人だってスイナさんは言ってたよ」


 この大爆笑してる人が優秀にはまったく見えないが、そう見せないのも作戦らしい。作戦が長すぎて定着してしまって見るも無残な姿になってるけどね。とはスイナさんが言っていた事だ。それからしばらく落ち着くまで俺達は待つ羽目になった。

 バッシュ兄ちゃんはすでに退室済みだ。


「あー笑った笑った。しっかし何があった? よくよく見ればバカみたいに強くなってるじゃないか? 悪魔にでも魂売ったか?」

「教会で成人用のカード発行してもらうために水晶に触りますよね? あれがものすごく光った後こうなってたんで、どうしてこうなったのかイマイチわかりませんよ」

「ふーん……そういう事にしておこうか。本質が変わった訳じゃなし、むしろ何かありそうな不気味さが消えてすっきりしたね」


 俺はそんな風に思われてる事を初めて知った。そして今まではわからなかったが今ならわかる。

 この本質がとか言うのが経験やそういうものだけではなく、エルフなど一部種族で使える魔眼というやつなのだろう。その中の一つなんだと思う。

 ゲーム知識なのでどこまで正確かはわからない。


「不気味ってそんな風に思われてたんですか……」

「あったりめぇだろ? 誰が何年ガキどもまとめてたんだよ。そんな事できる奴が不気味じゃなかったらなんだって言うんだよ」


 確かに十歳になる前から俺がまとめ役をやってた記憶がある。十二歳になって仮登録して町の中の依頼をすると時間が取れないのでまとめ役から外れるのだが、誰も納得してくれず俺がそのまままとめ役になっていた。

 そして代理を決めて回していた。代理がそのまままとめ役になればと思ったがそうではダメなのだと言われた。俺の存在が後ろにある事が大事だったらしい。

 そうなると今のまとめ役の子は大変かもしれないとちょっと可哀想に思った。


「言い返せませんね」

「だろ? まぁそうじゃなくても不気味だったけどな。で、今回はなんだ? 結婚報告か? だいぶお盛んにやってるみたいじゃないか」

「いや、盛ってませんから……。付き合っても、男女の仲でも今はないんですから、そうじゃなくて寄付しに来たんですよ」

「あ? それだけ魔力が自然に混ざり合っててやってないだと? ……よくよく考えたら、その混ざり方自然すぎて不自然だな。なにやらかしたんだ? それと寄付はいらん。持って帰れ。お前らだって金はいくらあっても足りんだろ。そっちの子もそう思うだろ?」

「お世話になったから恩返しがしたいという気持ちはわかりますし、お金も……おそらく困らないよね?」

「困らないな」


 持ち家がほしいとなれば全然足りないが日々の糧を得て上を目指すには問題ないくらいのお金が貯まるはずだ。家はもっとランクが上がってから考えればいいことだしな。


「似たもの夫婦か……。うちは資金面では困ってないんだよ。だからいらない。ここは孤児が先に進むための場所で枷を作る場所じゃないんだぞ」

「前ならだったら壁の隙間をとか食事の量をとか言ったと思いますけど、この建物に不釣り合いな魔道具を見ると資金面うんぬんに関しては納得してしまうんですよね。それでどうして壁を直さないのかわかりませんけど」


 俺が感じた違和感。それはこの建物に贅沢に使われてる魔道具だ。いくつかの隠ぺいの魔道具で効果を隠しているが、かなり防犯対策がされており、周囲に漏れる音も調整している。体力回復やらなんやらもありこれを維持する魔石の量は考えるだけでかなり必要なはずだ。そうなるとそれを維持するための資金はあるはずで、一つか二つしばらくの間機能を止めておけば十分に修繕費用くらいひねり出せるはずなのだ。


「……お前は本当に変わったなぁ。まさかあれが見破られるとか想像してなかったぞ。王都でも屈指の隠ぺいの魔道具使って色々隠してるのに」

「目に見えるものは色々とわかるようになったんです。でも意図まで見える訳じゃないですから言えるなら教えてもらいたいです」

「あー、ちょっと待ってろ。防音結界張るから……どこにやったっけ……」

「防音結界っと、これでいいですか?」


 どうやら魔道具を探していたようなので俺が展開した。そうしたら呆れたような顔で院長に見られた。


「だーかーら、予想外過ぎるっつーの。まったく次から次へと……。そこの嬢ちゃん」

「はい?」

「そこのバカの手綱ちゃんと握っててくれ。嬢ちゃんの言う事なら聞くだろ」

「そうなんですか?」

「そうだろうさ。なんだかんだで自分の領域内に人を入れなかったそいつがその中に入れてるんだ。よっぽど嬢ちゃんの事気に入ってるんだろ。嬢ちゃんもそいつの事気に入ってるんだろ? ……私だって彼氏の一人くらいほしいんだぞ! それをこのカップルが! なんだ! 一人の私が惨めになるじゃないか! さっさと子供作って育てるのに困ってここに連れてくればいいんだ!」


 勝手にキレる院長と今の内容を咀嚼する俺と口をパクパクさせてるエリナ。

 えーっと、気に入られてるという事は好意を持たれてる? 嫌われてるとは思わないけどとエリナを見ると、エリナもこっちを見てばっちり目があった。


「い、今のは聞かなかったって事で……いいかな?」

「わ、わかった」


 エリナの提案に乗る事にしてしまった。赤い顔で困ったような表情で言われたら受け入れざるを得ない。

 助けたお礼だけではないというがわかったからなのか、こう妙に嬉しいがなんとかそれを抑えた。そう、好意には色々あるし今はそれなりに良好な関係が築けていると言う事にしておこうと思った。

 また目が合って俺も似たような表情を浮かべてそうだが、なんとなく困ったような表情を浮かべて笑った。


「なんだ! なんだそれ! 空間がピンクっぽいぞ! 見せつけやがって、くっそくっそ! どっかの誰かの魔法の暴発で爆発してしまえ! もしくはスイナにでも氷漬けにされてろ! そうすれば熱も冷めるだろ!」


 院長が落ち着くまでしばらくかかりそうだった。興奮した院長の声を防ぐ為に防音結界を張った訳じゃないんだけどなぁ。

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