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11.幻術

 さすが高い料金の宿だけあって食事はなかなかおいしかった。その後ギルドへと向かうと入り口前でスイナさんは待っていた。普段そんな所で待ってるはずもない。しかも戦闘用の衣装に着替えていれば否が応でも目立つというものだ。


「おはよう、二人とも」

「「おはようございます」」

「それじゃさっそく行こうか? さっきから視線がね」

「そんな恰好で立ってれば目立ちますよ。どれだけ危険な魔物が出たんだって大騒ぎになってないだけいいんじゃないですか?」

「私のイメージって……」

「ギルドの切り札」


 がっくり肩を落としたスイナさんが、そうよね……そういうイメージよね。仮にも元特級なんだし。と呟いていた。美人ではあるんだけど氷絶の魔女のイメージがあるし、受付でも氷絶、通常、友好の三種類で対応するけど友好はあまりいないし、通常でも冷たい印象だから仕方がないと思う。氷絶は院長の話では今まで一度も最後まで話を続けられたものはいないらしい。院長はなんでそんな事知っているのだろうか?




 森を走る順番は案内役の俺で次がスイナさんだ。エリナはどうしたかって? ついて来れる訳がないので俺が背負ってます。背中に伝わる柔らかな感触。役得です。それでアクアはエリナのローブについてるフードの中にいる。

 今回は移動優先なので魔物除けの結界を張りながら移動してる。すでに中にいるアクアには意味がない。そもそも従魔になるとある程度耐性ができるらしい。


「エルフの私が森といフィールドで負けるというのは悔しいものがあるかな」

「狐人族だって足は速い方の種族ですよ? それにスイナさんは完全に後衛でしょ?」

「そうだとしてもだよ。自分の感覚を信じたくないなって思ってたけど、今のユキト君って私より強いでしょ」

「え? スイナさんって特級ですよね」


 エリナが疑問に思うのも当然だろう。今自分を背負ってる人が特級のスイナさんよりも強いなどと言う事があるとは普通は思えない。そもそも現在いる特級は凍結してるスイナさんを含めて十三人だ。ごろごろと転がってるような人材ではない。


「そう、特級の私よりも強い……だよね?」

「そうですねぇ……スイナさんと同じことをしてもおそらく押し勝てる。さらに同程度の威力の手札が数枚。別方向で強力な手札があり、切り札もありますね」

「それ、絶対私勝てないよね?」

「寒ければ温めればいいだけの話ですからね」

「他のエルフが聞いたら激怒しそうだね」

「どうしてエルフが怒るんですか?」


 寒ければ温めればいい。普通の話だが魔法のしかもスイナさんが使ってる動けなくさせる魔法というか魔力の話となると別なのだ。


「エルフは魔法にそして魔力に最も精通した種族という自負があるの。それなのに魔力への属性付与なんて高等技術を使われてしかも、温めるって事はそれ以上の力を発揮すると言う事。同じことくらいできるし、こっちの方が強いって言われてるのと同じなの」

「そうなんですか……」


 エリナは一応わかったくらいの反応しかしなかった。わからない人にはわからない感覚だろうとは思う。


「反応がイマイチだね」

「ヒューマンだと種族特性でプライドを持つって事はないですし、そうなると個人で絶対人に負けないっていう物を持たないとそういう感覚はわからないんじゃないですか?」

「んーそうかな?」


 スイナさんはあまり納得できてないようだった。別のものに置き換えてみればわかりやすいかな?


「エリナ、例えば自分よりもキレイだったり可愛い人がいた時にどう思う」

「え? えっと、キレイだなぁ、可愛いなぁって思うと思うよ」

「そこで私よりキレイだなんて! 可愛いだなんて! って思えないと理解できない間隔だと思うんですけど、スイナさんはどう思います?」

「……自信があるからそこを刺激されて怒ったりするってことか」

「そんなものだと思いますよ」


 のんびり話をしてるように見えるが実際の移動速度はかなり速い。土や根っこ、木にも気を付けながら走る。そして移動時間も長い、普通なら途中でぶっ倒れてるね。




 こうして走り、集落を感知内に捉えた。だから合図をして一旦止まり、エリナを降ろす。


「もう少し先に進むと見張りとの戦闘になりそうです。集落までは距離があるので強い反応があるかどうかはわからないですね」

「見張りを倒さないで潜入するのはできないの?」

「出来るには出来ますけど、見張りくらい倒してもいいと思いますけど? 見張りが倒されたからってゴブリンが行動起こすことなんてないんですし」

「それはそうだけど……」


 そんな事を言ってる間に見張りの反応が消えた。エリナは気がついていなかったのだろうか?


「スイナさん、非常に残念なお知らせがあります」

「……ゴブリンに気が付かれた?」

「アクアが見張り倒したみたいです」

「「え?」」


 エリナがあわててフードに手を入れて探すがもちろんいない。スイナさんが頭に手をあててため息をついてこちらを見る。


「指示出してたんだね」

「指示は出してませんよ。ただ、どうにもこの短い期間で主人に似て来たみたいです」

「倒してしまったならいきましょうか……」


 疲れた表情を浮かべたスイナさんを筆頭に俺達は歩き出した。走るよりも歩いて慎重に距離を詰める為だ。必要ないと思うけどエリナもずっと背負われっぱなしよりはいいだろう。俺としても背負ってるのもいいが、顔を見れない不満もあるので歩くのは賛成だ。

 途中でアクアも合流して近づくがどうにも反応が妙だ。すごく嫌な感じがする。どうも集落中のゴブリンが中央に集まっているのだ。


「スイナさん、反応がほとんど全て集落の中央に固まってるんですけど」

「どういう事かな?」

「スイナさんでもわからないんですか?」

「エリナちゃん、私でもわからないことはたくさんあるよ」

「慎重に近づくしかないですね」


 近づくほどに嫌な感じが強くなる。こちらに被害が及ぶような感覚ではなくてそこで行われてる事に対する嫌悪感とでも言おうか……。

 おそらく感知の情報は自分が思ってる様な、なんとなく種族がわかるや強さが分かる以上の情報が含まれていてそれをフィルターで抑えてるのか、俺が理解しきれてないのかなのだろう。その部分が俺にこの感じを与えてると思う。

 こちらの接近を知られないように気配遮断の結界を張りつつ幻術で姿を誤魔化しながら近づく。




「ゴブリンがいっぱい……」

「私感知系は苦手なんだよね。ユキト君、どう思うって……ユキト君?」


 俺は盛大に失敗したと思った。二人にはまだゴブリンがたくさんいるだけにしか見えないだろう。俺は遠見スキルを使って見た。見てしまった。

 感知の中に人の反応がなかったから油断していた。バラバラになった人のパーツを食ってるのを見てしまった。

 正直に言えばあれが誰でも俺の知った事ではない。孤児院の先輩かもしれないがそれでも少し祈る程度だったと思う。だがふいにあの頭がエリナの頭に置き換わった。助けなければあれらにボロボロにされああいう最後を迎えたはずだ。


 自分で思ってる以上にエリナの存在を内側に入れてしまったようだ。それこそ一緒に生活してた孤児院の人たちよりもずっと内側にだ。一緒に生活してた人よりも昨日あったばかりの人を内側に入れるというのは薄情かななんて思ったが、入ってしまったものは仕方がない。仕方がないのだ。


「ユキト君、どうしたの?」

「すみません。遠見スキルで確認したらちょっと色々と考えさせられまして……。どうやら食事中みたいです」

「食事? もしかして……人?」


 エリナがこんな予想当たらなければいいのにという感じで確認してくるが俺は頷く事で肯定する。俯くエリナに言っておかねばならないだろう。


「冒険者にとっては明日は我が身だ。覚悟ができないなら冒険者なんてやめた方がいい。幸い俺がいるし養えるぞ」

「……そこまでお世話にはなれないよ。大丈夫ってすぐには言えないけど、がんばるから」

「わかった。まぁ俺が守るから大抵の事は大丈夫だと思うけどな」


 エリナが少し笑ってくれたので少しは大丈夫だろう。そこにタイミングを見てたスイナさんが入って来る。


「それで一番強力な個体は何かわかる?」

「ジェネラルですね。殺していいですか?」

「今回は偵察。戦うのはダメだって言ったよね?」

「さっき、思ったんですよ。もし昨日助けなかったらって……。そうしたらどうしても堪えきれなくなってしまって」

「でも、そうはならなかった。だったら今は安全を考えるべきだよ」


 スイナさんの言いたい事は分かる。普通なら露払いがいて、中心になるパーティがいてと複数のパーティで挑むものだ。だけど俺はもう術を構築し終えてる。後は使えばそれですべて終わる。


「思った以上にエリナの事、気に入ったみたいなんですよ。そうしたらどうしてもね……。エリナの元メンバーにも会わないようにしないと……今あったら必死になっておさえなきゃならないですよ」

「ダメだよ。そもそも攻撃したらそのエリナちゃんを危険に巻き込むよ」

「大丈夫ですよ。戦う必要なんてないんですから、スイナさんだっていつも戦わずに相手を抑え込んでるでしょ?」

「……同じことをやるって動けなくしてからやるって事?」

「そんな面倒な事しませんよ。今からやる事はエリナとスイナさんをこれだけ信じてますよっていうアピールみたいなものです。とっておきの切り札ですよ? とはいえ結果以外何も見えないですけどね」

「ユキトくん、何をするの?」

「幻術を使う」


 特定の種族しか使えない幻術、姿を隠したりいないところに見せたりと便利ではあるがあくまでも補助と捉えられてる術。

 悪夢を見せるなんていう使い方もできるが、今回するのはそれを超えるもの。夢での死を現実にする術。ゲームでよくある即死の魔法みたいなものだ。

 ただ、違う点を挙げるとすれば自分の強さ、相手の強さによって効きが変わって来る事。

 これを覚えたのは狐人族最終進化種族、神狐。レベル三百の時だ。ちなみに最終進化種族以外はレベル二百が最大で、最終進化種族はレベル五百が最大だ。ゲーム終盤ではちゃんとレベルはカンストさせてあった。


 試してみたくなった俺は友人に相談したところ特級ダンジョンの一つにいるレイドボス。邪龍ニーズホッグを相手に使う事になった。とは言えボスに効くとはこれっぽっちも思っておらず、取り巻きのドラゴンで成功確率を調べてみようという話だった。

 結果、取り巻きの九割以上が死亡、ボスであるニーズホッグまで倒してしまう始末。その後、緊急メンテが入りスキル欄に名前はあるが選択できない状態になった。削除にならなかったのは、システムの深い所にあるので下手に触れないと運営が言っていた。


 破格の性能を誇るがもちろんデメリットも大きい。MP消費は総量の八割、十二時間のステータス半減、その後十二時間かけて徐々に回復。二十四時間の上級以上のスキルの使用禁止、七十二時間の幻術の使用禁止、クールタイムは七十二時間。レイドボスを単独で撃破できるとなればこの程度のデメリットなど小さいのかもしれない。


 取り巻きのドラゴンにすら劣るジェネラル程度これで終わるだろう。これを使う必要もないだろうけど、スイナさんもいてしかも王都周辺なので敵の強さもたかが知れてる。能力が半減しようがそれでもまったく問題ない力を持ってるはずだ。

 だからしっかり使える事を確認しておきたいというのもある。さぁ、解き放とうか。


「夢幻滅殺」


 搾り取られる魔力、重く感じる体。そして集落のゴブリン達は例外なくその場に倒れたのであった。

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