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10.宿

 その後スイナさんも交えて話すことになった。本気で仕事はいいのかと思い聞いてみたが、


「冒険者のサポートをするのも仕事の一環だから大丈夫。もし何かあれば私がここにいるのは伝えてあるから連絡が来るよ」


 と言って話し合いに参加し続けた。まずは宿についてだ。


「ユキト君は今どこに泊まってるの?」

「二件隣りの宿の個室ですね」

「エリナちゃんは?」

「月の調べって所です」


 スイナさんはさっきまではエリナについては他の人と同じような対応をしていたが、俺とパーティを組んだからと一気に砕けた。呼び方もエリナちゃんになったのでエリナはちょっとまだ戸惑っているようだ。


「それじゃまずそこは論外として私のお勧めは、精霊の宿場なんだけど一泊が五千リーレなんだよね。ユキト君、昨日と今日の成果は?」

「ロゲホス百三十以上、ゴブリンの集落一つ?」

「……昨日来ないと思ってたら森を突っ切ってロゲホス狩りに行ってたのね。エリナちゃんに無理させちゃダメだからね」

「わかってますよ。でも移動距離に関して驚かないんですね」

「森はエルフのフィールドよ? 最短距離で向こう側に行く事くらい問題なく出来るよ。片道七時間かかるけどね」


 俺達の話にまったくついてこれないエリナは目をパチパチさせている。どれほどの知識があるかわからないが、ロゲホスの生息域までそんな簡単に言ったり来たりできるとは思っていないのだろう。


「ウルフの時の事で知ったけど、かなり大きい空間収納があるんだよね。依頼外でも一頭売れば手数料引いても一万以上になるはずだから問題なさそうだね。ただ、まとめて売ると買値が下がるかな」

「少しずつ売りますから大丈夫ですよ」

「腐らせるのはもったいないよ?」

「方法はありますから」

「深くは聞かないよ。私の知ってるユキト君が遠くに行っちゃった事だけは何度も感じるけどね」


 実際、常識外れの能力がいくつもあるからなぁ……などとスイナさんの感想に納得してしまった。そう言えばゴブリンの集落の話もしておくべきかな。


「スイナさん。宿の場所は後で教えてくださいね。それで話は変わりますけど長距離をゴブリンがつまみ食いなしで運ぶことについてどう思いますか?」

「……その話の信ぴょう性は?」

「説得力はないです。なにせどこから移動してきたかわかりませんでしたから。それでも周りに人がいないのにひたすら集落を目指すのってどうかなって思いまして」


 スイナさんが難しい顔をしてる。もしかして何かまずい事態なのだろうか? 考えてるスイナさんは俺に質問してきた。


「その集落から強い気配は感じた?」

「外周が引っかかっただけなのでわかりません。ただ、見張りや巡回の数はナイトがいた集落よりは多いと思いました」

「……とりあえず、ナイトはおいておこう。でもそうなると、ジェネラル以上がいる可能性がある? この王都の近くの森で? ……勘弁してよ」

「まずいですか?」

「まずいわよ。ジェネラルなら三級、キングなら二級指定だよ? アーマードボアみたいに単独の強さでそれじゃなくて集団の強さだから数を集めれば比較的楽だけどそれでも、攻め込むとしても森の中だからすっごい大変なんだよ。そして何より情報提供が八級に上がったばかりの冒険者って事が問題かな」

「情報の信ぴょう性って事ですね」

「ランクはそのまま冒険者の信用だもんね」


 話についていけないエリナがようやく口を開いたがアクアと遊んでいた。確かにエリナが言うようにランクが低いとその情報の信用度が低くなる。どうしたものかと思うが簡単にすませる方法ならある。


「とりあえず潰して来れば問題ないか?」

「ユキト君? 何を潰してくるのかなぁ?」

「ジェネラル、もしくはキングがいると思われる集落」

「ユキトくーん。怒るよ」

「なら一緒に行きます?」

「それ……私も行かなきゃいけないの?」

「来た方がいいと思う。いい経験値になると思うし」


 俺の言葉に絶句する二人。ゲーム時代の知識だとキングの能力はアーマードボアとほとんど変わらないが体力だけは少し低い。その代わり多くのゴブリン種を取り巻きとして連れていた。範囲魔法が無い時はそれはもう大変な相手だったが、範囲魔法を使える魔法使いが増えてからは取り巻きはほとんど意味をなさず、蹂躙される だけだった。俺もソロで殲滅した事があるしなんとかなる気がする。


「私の常識が崩壊しそうだよ」

「アクア、私もしかして選択間違ったのかな?」

「……えっと、それじゃ偵察しに行くだけ行きますか? スイナさんも一緒なら信用できる報告になるでしょ? それとエリナ、その後悔はもう遅いからな」

「そうだね……偵察だけ、そう偵察だけだからね。間違っても戦ったりしちゃダメだからね!」

「わかりました」


 にっこり笑って了解した。戦ってはいけないけど行く事になった。偵察、そう偵察なのです。俺の考えに気が付いたのかどうかはわからないけど、エリナが、


「私本当に大丈夫かな……」


 なんて言って遠くを見ていた。一緒に行動してれば慣れるだろう。慣れるまでの辛抱だと思ってがんばってもらおう。


 その後も色々と話して明日の朝、ギルドに集合して集落のある所まで行く事になった。スイナさんはギルドマスターに掛け合って調査と言う事で受付から外れられるようにするそうだ。ダメなら休暇にするからとにっこり笑っていったのに若干の恐怖を感じたのはなんでだろうか?


 話し合いが終わりすぐにギルドを出ないで、ゴブリンの魔石等々の処理をしてもらい、十級だったエリナは九級に昇格した。しかもあと少しで八級という所だ。

 ロゲホスも十頭ほど頼んでおいた。お金は後日受け取る事になる。今日の宿代くらいは俺の手元に十分あるのだ。

 こうしてやるべきことをやって、とりあえず月の調べへと向かった。宿の人に荷物の処分を頼むと言っていたので、荷物を回収できるかを調べに行ったのだ。




「あれ? お嬢ちゃん? 生きてたのかい! 死んじまったなんて言ってたからあんなかわいい子が勿体ないと思ってたんだよ! ちょっと待ってな。今知らせて来て」

「ちょっと待ってください」

「なんだいあんたは?」


 威勢のいいおばちゃんが出迎えてくれてそのまま元パーティメンバーを呼びに行こうとしたので俺が止めた。エリナじゃ止め切れそうになかったしな。


「エリナを助けた者です。実はギルドの入り口で偶然彼らの話を聞き、彼女はショックを受けています。何を言っていたかまではお話しできませんが彼女は元のパーティに戻る事はありません。これに関しましてはギルドで受付を担当してるスイナさんも同席して決めた事です。ですから、今彼女と元メンバーを合わせたくはないのです」

「あの、私の荷物を取りに来ただけなの。会いたく……ないの」

「そうなのかい? まぁ氷絶の魔女の名前を出されたんじゃぁ信じるしかないねぇ。ちょっと待ってな。処分してほしいって渡されてるからすぐに持ってくるよ」


 おばちゃんはそう言うと荷物を取りに行った。エリナは俺の服の裾をぎゅっと掴んできたので思わず肩を抱き寄せてしまった。少し驚いたみたいだけどそのまま体を寄せてくれたので嫌がってはいないと思う。


「持って来たよ! ってなんだい。助けてくれた王子様って事かい? 青春だねぇ! ほら、これ持っていきな。これはお嬢ちゃんの荷物なんだからね」

「ありがとうございます」

「いいって事よ。でも、さすがにうちに泊まろうとは考えてないんだろ?」

「はい、スイナさんに紹介してもらった宿に行こうって考えてます」

「そうだね。うちに居たら鉢合わせしちまうかもしれないからねぇ」

「はい」

「あんたはちゃーーんと守ってあげるんだよ!」

「もちろんです。それと伝言を頼みたいのですけどいいですか?」

「ん? なんだい?」

「エリナは生きているけど別のパーティを組んだ。二度と近寄らないようにと」

「お嬢ちゃん、この伝言は伝えてもいいのかい?」

「お願いします」

「あいよ、伝えておくよ」


 やるべきことをやったので宿を出た。この伝言はここに来るまでに言っていいかどうかエリナには確認を取っておいた。

 生きてるのを知ったらなにかしてくるかもと思ったが、もうパーティ登録はすませてあるし、俺が守ればいいだけの話だ。

 それよりも生きてる事を知った後の心境はきっと複雑なものになるだろう。まったく気にしない可能性もあるが、親が言われてパーティから離さなかったくらいなら影響を与える事くらいできるだろう。

 意外と性格悪い? これくらいで済ませるのだから許してほしい。俺にとっては悪夢を見せる事くらい簡単なのだから。




 そして、宿についたが定番のイベントが待っていた。


「申し訳ございません。ただいま個室が満室でして……。ダブルベットのお部屋か二人部屋になってしまうのですが……」

「どっちの方が安いで」

「二人部屋でお願いします。頼みますから二人部屋にしてください。二人部屋でも緊張するのにダブルベットとか眠れなくなります」

「わかりました。八千リーレになります。……はい、ありがとうございます。こちらがお部屋のカギになります。三階になりますのでそちらにかかれてる番号のお部屋をご利用ください」


 鍵を受け取り部屋に入った。キレイな部屋で当然の事ながらベットは二つだ。まさかの茶目っ気を出してダブルベットとかだったら暴れてたかもしれない。お風呂はないけど水を使える別の部屋はあるみたいだ。


「ダブルじゃなくて良かったの?」


 エリナがそんな事を聞いてきたが答えは決まっている。というかさっきも話た。


「我慢できたとしても眠れる自信がない」

「私はその……いいんだよ?」

「俺にはお礼だけでそう言ってるのか、それとも好意があるのか、もしくは純粋に好意だけなのか、その判断がつかない。体は反応してしたいと思っても終わった後で後悔しそうだからやめておきたい」

「……ヘタレ?」

「そういう認識でいいよ。快楽は忘れがたいけど、後悔は引きずるといつまでも引きずって忘れたと思っても時々顔を出してくるから、それくらいならヘタレと言われた方がよっぽどいい」

「そっか」


 それからは明日の準備や食事、体を拭いたりとして明日に備えて眠る事になった。そっかという一言にどれだけの感情が籠っていたのか、俺にはわからなかった。


 眠れたのかって? 魔法って便利ですよね。

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