脇役は主人公について考える
今回は愛が「気になる人」を告白した時までストーリーが戻ります。
「わたし気になる人ができたの……」
1年生最後のこの日。あと数時間で長期連休に入るため、浮かれるクラスメートたちの雑音が、遠くの方で聞こえている。
(気になる人……ね…………)
今までたくさんの男の子から好意を持たれていた彼女。
あたしは、いつも親友を取り巻く男の子たちを眺める傍観者だった。かといって、ただ眺めているだけでもなかった。あたしも一生懸命、彼女に伝えようとしていたのだ。
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「愛ちゃんってホントモテるよね~!!ほらっ、今も隣のクラスの男子が愛ちゃんのことチラチラ見てる。モテる女は辛いねぇ~」
「愛ちゃんってホント可愛いし、色白で、頭も良くって。絶対周りの男の子が放っとかないでしょ!」
「愛ちゃんってどうしてそんなに可愛いの?愛ちゃんだったら男の10人や20人囲っても罪にはならない!!」
「愛ちゃんって(以下略)」
「愛ちゃんって(以下略)」
「愛ちゃんって(以下略)」
何度愛ちゃんを称賛したかわからない。
別に嫌みで言っているわけじゃない。
愛ちゃんは女のあたしから見ても可愛いし、頭も良く、男女共に好かれる穏やかな明るさを持っている。その上、愛ちゃんを取り巻く男の子たちもイケメンが多い。だったらせっかくの高校生活だ。学生の本分である学業は第一にするとしても、恋に友情にと青春を謳歌してもいいじゃないか。
だって、あの花が咲き乱れるような笑顔一つで相手を落とす武器を持っているのだ。なのにそれをおくびにも出さず、嫌みったらしくもない。そして、その飾らない雰囲気が、本人の意思とは反して一層男の子たちを引き寄せているのだ。甘い蜜を纏う、花へと群らがる蝶のように……。
なのに当の本人は
「そんなことないよ……。もう、奈々ちゃんはわたしのこと買いかぶり過ぎ!奈々ちゃんこそすごく可愛いじゃない。あたし奈々ちゃんが羨ましいよ」
と、自分の有り余りすぎる魅力に気付いていないのだ。
それにあたしが可愛い、羨ましいだなんて……。正直、愛ちゃんの口からはあまり聞きたくないセリフ。
彼女のことを好きであろう男の子たちは、笑顔が似合う爽やか系とか、成績が万年トップクラスの秀才系、瞳がパッチリ甘えたがりな弟系等、様々なタイプが控えている。選り取り見取りなわけだ。
片や、16年間彼氏どころか告白されたこともないあたし……。愛ちゃんに可愛い、羨ましいと言われてもさすがに本気で喜ぶことなんてできない。
友達になりたての時は、「さり気なくバカにされてる?」なんて彼女のことを疑ってしまうこともあった。だけど、愛ちゃんとたくさんの時間を共有するようになってわかった。彼女は、本気であたしのことを「可愛い、羨ましい」と思っているようなのだ。
見た目の好みは人によって違うものだ。「可愛い」については、あたしは納得できなくとも、あたしのことを「可愛い」と言ってくれる奇特な人もいるとは思う。
けれど「羨ましい」って?愛ちゃんに羨ましがられる事なんて何一つ思い当たらない。
彼女は、あたしよりも常に一歩先を行く。そんな存在だから……。
あたしは、愛ちゃんの言葉を素直に受け止められない醜い心を持ってる。どれだけ「可愛い、羨ましい」と言われようが彼女には敵わない。
例えば、極論だが、「あたしと愛ちゃんどちらの人生を歩みたい?」なんて聞いたとしたら、99.9%は愛ちゃんとして生きたいと答えるだろう。残り0.1%は、あたしだと答えてくれる珍しい人がいるかもしれないという希望的観測だ。自分自身でさえも、0.1%でしか彼女の魅力に勝ることができると思えないのだ。
愛ちゃんは自分のことをあまり多く語らない。会話の中でも聞き役でいることが多い。
そんな彼女が、あたしと太一がいつものバカ話をしているのを見て
「羨ましい……」
と、どこか寂しそうに眩しそうに呟いたことが忘れられない。
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ザワザワと、クラスメート達の声が意味を成さない雑音になって聞こえてくる。
あたしは思考を現実へと戻した。
そして親友の「気になる人」が、あの生徒会長だと告白されたのだ。
愛ちゃん、あなたは選り取り見取りなんだよ?
愛ちゃん、あなたはたくさんの人に想われてるんだよ?
愛ちゃん、あなたは特別な人なんだよ?
どうしてあの人なの?
きっと傷つく、辛い思いもする。
もっと周りを見て。
あなたのことを大切に思ってる人はずっと近くにいるよ。
遠い存在のあの人なんかより絶対幸せになれるはずだよ。
どうして……。どうしてなの…………。
どうして太一じゃないの……?