脇役は回想する
ぼすっ!!
あたしはシャワーを浴びた後、自室のベッドへダイブした。緊張していたせいもあるだろう。ベッドに沈むと同時にドッと疲れが襲ってきた。そして、そのまま仰向けに寝転ぶ。
「ふー……」
一息ついて今日の出来事を思い返してみる。
「愛ちゃん、かわいかったなぁ。まるで物語のヒロインのお姫様みたい」
独り言をつぶやいて、虚しくなった。
(それに比べてあたしは……)
「はぁぁぁぁ~~~」
あたしは1つ大きな溜め息をついた。これであたしの幸せは1つ失われた。溜め息をつくと幸せが逃げるっていうでしょう?
(でもあんな綺麗な子に男友達がいないなんて意外だなぁ。男の方が放っておかなそうなのに。あんなにかわいいと逆に友達になりにくいのかも…。高嶺の花、みたいな)
あたしは思わず、何人もの美少年たちが赤やピンクや黄色といった様々な色の薔薇の花を手に、取り囲まれる愛ちゃんの姿を想像してしまった。
(ヤバいヤバいヤバい。似合いすぎるよぉーーー!!愛ちゃんだったら絶対逆ハー狙えるよぉーー。あたしがもし愛ちゃんだったら絶対逆ハー行くね!断言する!!あ゛ーーー、誰か愛ちゃんを主人公にした乙女ゲーム作ってぇーーー)
あたしは現実にはあり得ない妄想をして異様に興奮してしまった。
あたしは乙女ゲーム自体をプレイしたことはないが、中1の時に同じクラスになって以来の友人である、ユウちゃんがこういった美少年たちとの絡みを堪能するゲームが好きだったのだ。あたしはよくユウちゃんに「昨日は私が一番推してるローレンツ王子を攻略した!」とか、「今日こそはガリ勉メガネ君の真の姿をさらけ出させる!」とか、乙女ゲームへの熱過ぎる思いを聞かされていたのだ。
(ユウちゃんどうしてるかな。後でLINEしとこ。あ……そういえば……)
あたしはふと、自分の幼馴染みのことを考える。
(太一も愛ちゃんのハーレムに加わるのかな…)
それが現実となることは十分にある。いや、「ハーレム」というのは流石に現実離れしすぎている。そう、もっと現実的な……
(恋人同士……とか…………)
今日の太一の反応を見れば愛ちゃんへの好意は明らかだ。まだ「好き」という感情よりは、美少女に対する「憧れ」のように見えたが、それがいつか「愛情」という感情に変わる可能性はある。
(だってあんな美少女が近くにいたら絶対好きになっちゃうよ。もし自分の近くに美少年がいたら好きにならない自信ないもん)
奈々も普通の女の子。人並みの女の子程度には、イケメンアイドルや俳優をチェックしたりもする。カッコイイ人は好きだし、憧れもする。それが恋愛感情へ発展するかは別として。
奈々の妄想の中で、愛ちゃんのハーレムに太一が加わる。
すると、奈々の心の奥でモヤモヤっとする曇雲のようなモノが広がった。
(なんだろ、この気持ち……。大好きな家族が遠くに行っちゃうような。お姉ちゃんが出てった時の気持ちに似てるかも……。でも、それともちょうと違う?かな……)
奈々には姉が1人いる。ちょうど1年前、都内の大学に進学するため一人暮らしを始めたのだ。姉が大好きな奈々は、最後まで姉の一人暮らしに反対したが、姉は自分の夢のために譲らなかったのだ。1年経った現在は姉のいないこの家に大分慣れたが、それでも無性に寂しくなる時がある。でも奈々の側にはいつも太一がいた。だから奈々は安心できた。
(もし2人が付き合ったら……。今までみたいにいつも側にいたりはできないよね。もしそうなったら、大事な幼馴染みと友達なんだから。祝福……しなくちゃね…………)
奈々は、始まったばかりのこれからの高校生活に期待と同時に不安も感じ始めていた。何かが変わってしまう……。そんな小さな恐怖のようなモノを感じていた。
そしていつしか奈々は眠りについていた。