主人公と脇役は友達になる
それからあたしの自己紹介は散々だった。直前までちゃんと言いたいことをまとめていたつもりだったのに。
「椎葉……奈々です。高木中学出身で……。趣味はえっ……と。」
それから数秒間無言が続いてしまい、よけい頭が真っ白になってしまった。
その時、視界の端で太一が見えた。何か言いたそうな顔をしていた。正確には何も言っていないが、両手でジェスチャーをして何か訴えているようだった。
「……あっ!趣味は料理です。ハンバーグが得意です。1年間宜しくお願いします。」
ペコッと頭を下げて、席へ戻った。
(太一、ありがとう……)
太一は右手にお箸を、左手にお茶碗を持つような形で、あたしにジェスチャーで教えてくれたのだ。太一のご両親は共働きで、帰りが遅くなることもしょっちゅうある。そんな時あたしは太一の家で一緒にご飯を食べるのだ。太一はあたしのご飯を、「奈々のご飯が一番うまい!!」といつも褒めてくれる。
そして、あたしも嬉しくなって「唯一の趣味ですから!」と、どんどん太一に料理をふるまうのだ。料理は好きだから、全然苦じゃない。
だから、太一にはあたしの言おうとすることがわかったのだろう。あたしは太一のこういう優しさが大好きだった。
だからもうその時には、あたしは太一を応援しようと思っていたのだ。彼女を見つめる太一の顔をみたときには……。胸の奥でチクッとする、鈍い痛みを考えないようにして……。
「起立!礼!」
苦い思い出となってしまった初日が終わった。
あたしは愛ちゃんと、LINEの友だち登録をしていた。その時、
「奈々!!帰ろっ!」
太一がやってきた。
(このタイミングって明らかに……)
愛ちゃんは急にやってきた男子に少し驚いている。
「あ、このうるさいのはね、あたしの幼馴染みの太一っていうの!」
「おさな、なじみ……。わたし仲いい男子っていないから羨ましいな」
そう言って、またあの花のような笑顔を向ける。太一なんて顔真っ赤にしちゃって……。
「仲がいいというか腐れ縁みたいなもんだよ!なっ、奈々!!」
「そうそう。家族みたいなもん」
「家族……」
そう一言呟くと、愛ちゃんは少し影のある表情を見せた。
「あの……。大丈夫?」
「え……?あっうん、ごめんね!!なんだっけ!?」
愛ちゃんはすぐにそうして笑顔をみせる。
「俺と奈々は家族みたいなもんだってことだよ」
「あっ!そうだったね。ごめん、ごめん。」
太一はあまり気にならなかったようだが、あたしは彼女の一瞬の間が妙に気になった。
とにかく今日初めて会った子だ。あまり深入りするのは悪いと思い、あたしは話題を変えた。
「あ、ねぇ。お近づきの印に太一も友だち登録してもらいなよ!」
太一は初めからそれを望んでいたかのように、既に右手にはスマホが握られている。太一は待ってましたとばかりに
「そうそう!!友達になった記念にね!」
と、「奈々ナイス」という顔をチラッとあたしに向けた。
(まったく調子のいい奴!!)
あたしは太一のそのセリフにちょっとイラっとしたが、そんなことお構いなしに太一は愛ちゃんとの友だち登録を始めた。
「今日から友達だね。よろしく愛ちゃん!」
「こちらこそ、よろしく太一君。」
そう言って、またあの笑顔をみせる。そしてまた、これもお決まりのように太一は顔を真っ赤にした。
彼女の笑顔はまるで人を虜にする媚薬のようだ。
「その笑顔は国をも滅ぼす」
そんなキャッチコピーが頭をよぎった。
そうしてあたしたちは「親友」となったのだ。