主人公は脇役と出会う
都合により、この章から親友の名前を追加しました
桜が咲き誇る4月。
あたしは太一と一緒にこの高校へ入学した。
泣き虫だった太一は、中学の時何度か告白されるようなそこそこカッコいい男の子に成長した。中学時代のあたしの友達は「そこそこ」なんてありえない!!と怒っていたけれど。確かに、隣を歩いていた太一を女の子たちがチラチラと見ていたのには気づいていた。でも泣き虫だったころの太一を知っているあたしには違和感がある。
あたしにとって太一は幼馴染みで、家族で、弟で。とにかく大切なことは間違いないのだけれど。
「やった!クラス一緒だね!!」
「おう。またうるさくなるなぁ」
「もう!そんなこと言う奴にはお弁当作ってやんないから!」
あたしは、ちょっとむくれてみせる。料理には自信があるのだ。
「申し訳ございません。奈々様~」
太一は大げさに謝ってみせた。
「ぷっ!ふふっ」
「ははっ」
「「あはは!!」」
あたしたちは二人同時に笑った。これからまた太一と一緒にこの校門をくぐり続ける。きっと楽しい高校生活になると思った。
そう、思ってた。この時は……。
太一と2人、新しい教室へと向かう。あたしが「椎葉」で、太一が「長谷川」なので席はちょっと離れてしまった。
同じクラスだというのに席が遠いだけで心細くなる。チラッと周りを見ると、3人程同じ中学の子たちがいたが、顔見知り程度で同じクラスになったこともないので仲が良いわけでもない。その中の1人、平井さんが太一に気付いて話し掛けていた。平井さんは中3の時、太一と同じクラスだったのだ。席が近い2人はもう楽しそうに話してる。
近くに誰も知り合いがいないあたしは仲が良さそうな2人を見て、羨ましいような寂しいような複雑な気持ちになった。
(太一と同じクラスになれただけでも良かったと思わなきゃ……。)
そう自分を鼓舞して、なんとか今日を乗り切ろうと思った。
その時だった。
「こんにちは。よろしくね!」
透き通るような、不思議と心に響く声が頭の上から聞こえた。
あたしの前の席の女の子が、ニコッと花が咲き乱れるようなカワイイ笑顔を向けていたのだ。あたしは同性のその女の子に見惚れてしまっていた。
「あの……」
あたしが何も反応を示さないので、女の子があたしを覗き込む。
ハッ!!
「あっ、ごめんなさい!こちらこそよろしくね!!」
慌てて返事をした。あたしはこの子を見て顔を赤くしてしまっていたのだ。もし自分が男だったら、一瞬でこの女の子に恋に落ちてしまっていたかもしれない。そう思わせる笑顔だった。
それからお互い自己紹介をした。どこの中学出身だったとか、兄弟はいるのかとか、他愛のない話をした。不思議と彼女とは馬が合った。楽しくて、太一と席が離れて寂しかった気持ちなんてとっくに忘れてた。
それからあたしたちの担任の先生が来て、あたしたちは名残を惜しむように会話を終えた。
それから、クラスメートたちの自己紹介が始まった。出席番号順に教卓の前に立ち、自己紹介をする。あたしは人前に出るのが苦手なので、自分の番が来るまでとても緊張していた。クラスメートの自己紹介が頭に入ってこないくらいに……。
(まずは名前でしょ。それから出身中学、趣味は料理とか。あとは何を言えばいいんだっけ?)
このクラスでの第一印象がここで決まる。
あたしは失敗しないようにぐるぐると紹介内容を心の中で反芻していた。
その時、前の彼女が席を立った。
(もう次の番!!)
あたしはどんどん緊張が強くなっていった。
彼女が教卓の前に立つ。するとクラスメート皆が色めき立った。
「すっげーカワイイ」
「きれーい、肌白い」
「斉木 愛です。出身中学は---
彼女は一通り自己紹介を終える。そして
「みなさん、1年間どうぞよろしくお願いします」
と言い終えると、ニコッとあの花が咲き乱れるかのような笑顔で笑ったのだ。
これには男子たちだけでなく、女子たちも顔を赤くしてしまっていた。あたしは2度目だが、初めてこの笑顔を向けられたらドキドキもしてしまう。それほどキレイだったのだ。
その時あたしは、なぜだか太一の反応が気になった。
チラッと斜め後ろの辺りの太一の方を窺う。
(やっぱり……ね)
太一も周りの男子たちと同じ反応だった。
否、それ以上だったのかもしれない。だって、あんな太一の顔みるの初めてだったから……。
あんな、愛しいものでもみるかのような……。