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巴町  作者: ふくろう
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長い放課後(1)

「鳥?!それは、両親のどっちかが鳥ってこと?」

「あー、そうじゃないんだけど、、、ね、まあ、とりあえず、自己紹介するね。私は百舌。1年2組、16番、好きな食べ物はキャラメルポップコーン」

「私は佐藤柑菜1年4組。百舌ってあの百舌?」

「そう、鳥の百舌。あ、でも親が百舌鳥っていうわけじゃないよ。どっちも真人間。」

「じゃあなんで、」

いひひ、と百舌笑う。

「もったいぶらないでよ」

「ここじゃあ言えないのよ」

ぐぅ。百舌のお腹が鳴った。

「お腹減ったなァ。あ、もうお昼食べた?」

「まだだよ、田中さんの事が気になってそのまま図書室来ちゃったの」

「百舌でいいよ。柑菜って呼んでいい?」

「もちろん!」

素直に嬉しい。普通に友達ができたときのぎこちなさが、ない。ずっとともだちだったみたいな奇妙な安心感が、そこにはあった。

「じゃあ柑菜。あの、お昼一緒に食べよ?」

「いいよ!あ、でも図書室のロッカーの中だ、お弁当」

「とってきてあげる。」

百舌は助走もつけづにそのまま飛び上がると、図書室の窓に吸い込まれていった。

私は屋上の端っこ駆け寄って街を見渡す。風が体を揺らして地面落ちそうにになる恐怖で反射的に身を引いた。


「おーい」

あっという間に百舌は帰ってきていて、もう自分のお弁当を広げていた。セキレイたちがおいしそうなおかずにつられてなのか、半鳥人間に惹かれてなのか百舌のリュックに止まっている。


「お弁当おいしそうだね」

「ほんと?自分で作ってるの」

「料理とかするんだ、なんか意外」

「失礼な。同居人がね、自分でできることを増やせってうるさいんだ」

同居人、の言葉に引っかかる。両親ではないのか。今日知り合ったばかりでそんな深いことはさすがに聞けない。

「そういえば、今朝はどうしてカラスに追いかけられてたの?」

「あーあれはね、うちたいてい学校まではいつも飛んできてるんだけど疲れたから休憩しようって止まったらカラスの縄張りで怒られちったの。ちょうど繁殖期だったから気が立ってたんだよね、みんな」

「え、じゃあ窓ガラス割って停学っていうのは?」

「どこでそんなこと聞いたのよー」

恥ずかしそうにけらけらと百舌が笑う。そのときに見えた左耳についたいた小さな金色のピアスに少し驚いたけれど、私もつられて笑った。

「ま、だいたいおんなじ理由だね。カラスから逃げて学校に飛び込もうとしたら、窓が空いてなかったのサ」


お昼を食べ終わって腕時計を見ると授業まであと7分といったところだった。

「もうすぐ授業だね。」

すっかりお弁当の道具も片付いたので私は立ち上がって伸びをした。セキレイたちはまだ居座っている。


百舌も立ち上がると、大きく一歩前に出て私の耳元でささやいた。

「あのさ、学校サボっちゃわない?」

その声は同学年なのに艶っぽくて私は一瞬たじろく。

「今日知り合ってこんなこと言うのも変な話なんだけどサ」




私はなんとなく、昔から好機を逃してしまう質だった。

隣の家で面白い言い争いをしていて盗み聞こうかどうしようか迷っているうちに収まってしまったり、委員長に推薦されてなろうか迷っているうちに立候補者が出てしまったり。自分の行動力のなさ、これは私が自分に足りていないと推測されるもののひとつだ。そのせいで後悔することも少なくなかった。でもだからかもしれない。新たな街に抱いた感動と好奇心に引きずられたのかもしれない。

少なくとも、私は百舌と屋上から飛び出すことが久しぶりにやって来た絶好の好機なんだと、本能的に感じた。



キーンコーンとまぬけな予鈴が鳴り響く。

「、、、、、いいよ。サボっちゃおう」

「本当!やった!」

百舌が少しわざとらしいともとれる大声を上げたので、うろついていたセキレイたちはどこかへ飛び立ってしまった。

「そうと決まればさっそく飛び立とう!」

おもむろに百舌は背負っていたリュックから白いウインドブレーカーと茜色の大きな風呂敷を出した。

「よくサボるの?」

「うーん、まあちょくちょくね。」

「怒られない?」

「怒られるさ、そりゃあ」

話ながら百舌はウインドブレーカーを羽織り、風呂敷を下に広げた。

「はい、この上に座って下さい」

「え、なんで?」

「ずっと抱えて飛ぶの、大変だからサ」

説明になってない。言われるがままに座ってみるが、全然話が見えない。

「じゃあ包みまーす。」

と、百舌は私をお弁当のように包もうとする。

「ちょ、ちょっと!なんで、なんで!?」

「あ、大丈夫、乗り心地は保証するよ?」

「そういう問題じゃなくて、」

私の上から空が消えた。見えるのは茜色の布のみ。ゆとりをもって包まれているからか息苦しさや、束縛感はない。お線香のような香りがする。布はさらさらしていて肌触りが心地いい。


「飛ぶよー?」

どうやらこのまま運ぶつもりらしい。

「やッ破けちゃうよ!」

「大丈夫大丈夫」


ふわりと軽やかな浮遊感が体を包む。重力で体が下に沈んで、布が限界まで延びている。


「それでは飛行船田中百舌号、出発進行!!」

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