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巴町  作者: ふくろう
4/6

オ ト モ ダ チ

すぅっと近づいてくる。途中で宙返りなんてしてるからちょっとスカートのパンツが危ないし、リュックを背負っているからずり落ちそうになっている。図書室の淀みきった空気を切り開くかのようにまっすぐにこっちへくる。


あっという間に私の目の前に着くと、

「屋上行こうよ」

とテーブルの上に仁王立ちになって、堂々と彼女は言った。私の前に彼女の影が覆い被さって威圧感を放っている。

「………はい?」

屋上は立ち入り禁止のはずだ。


私の通う巴西部高校、通称西高にはどこの高校にもあるような七不思議がある。そのうちの1つが地縛霊の噂である。40年位前に西高の屋上から自殺をしようとした生徒が死ぬに死にきれず、地縛霊となって夜な夜な屋上で泣き叫ぶ、というもので、本当に泣き叫んでいるのかはさておき、目撃情報も多々あって生徒の間では絶好の話のネタとなっている。ただ、自殺未遂があったのは事実なようで、そのためか我が高校では今でも屋上は立ち入り禁止なのだ。


「ど、どうやって?」

「窓から飛ぶの」

しれっと言い切られた。図書室は校舎の三階にあって、落ちたらたぶん死ぬ。

「いやだ死にたくない」

「こんな高さで死ねないよ、ほら立って」

百舌が私の両腕を引っ張りあげる。椅子が大きな音をたてて後ろに倒れる。

「え、ちょっ、ちょっと!」

慌てる私をよそに百舌は高さを上げていく。私の足の爪先が床につくかつかないか位の高さににったところで百舌は私を抱き上げて窓へと向かった。ああいつぶりだろう、お姫様だっこ。

百舌は足先で器用に窓を開けると縁にしゃがんだ。


そこから見えた風景を私は一生忘れない。いつも教室からのぞく窓とは反対側で、街がざわめいているのがみえる。透き通った正午の空に鳥が群れている。灰色の地面を重たそうに走る車や、短いローカル線。そびえる秋葉山、栄える駅前。

街全体が輝いて、私に胸を張っているように見えた。

私がこの街に引っ越してきて感じた予感めいたものをここで再確認した。


「怖い?」

「全然」

「いひひ、だろうね」

変に笑う百舌の顔を見て私は、この子と仲良くなりたいと強く思った。

「じゃあ、行っくよー!」

「え、えええええええええええええ」

スクワットをする要領でピヨーンと飛びあがる。百舌は体をひねり体勢を変える。ひと一人をお姫様だっこして、なおかつ宙返りなんてどんな筋肉をしているのだろう。風のせいで目が開けられなかった。2メートル縦にをひとっとびなんて普通の人間じゃない。

柵を越え、台上前転の要領で屋上に着地する。飛んでから着地まで約6秒。ブランコに乗ったときの感覚が体に残る。思ったほどの衝撃はなくて優しく、軽く着地した。気を使ってくれているのが伝わってきた。


降ろしてもらうと、私はまっすぐに百舌を見た。

あ、たしかにかわいい。柴が顔を覚えているのもわかる。百舌の目は茶色かった。昼間の日光に眩しそうに細めた瞳がべっこう飴みたいな色をしている。


私の興奮がおさまらないうちに

「あの、さ、トモダチになってくれないかな」

と、さきほどの強引さとはうって変わって、目と一緒に顔も伏せながら、百舌はぼそぼそと言った。

「うち、あんま学校来ないし、お昼食べる子とかいないし、ほらその、飛んでるところを誰かに見られたのたぶん初めてだし、これもなにかの縁、ということで」

友達になるのにここまで前置きは必要なのだろうか。こんなにたくさんの理由をつけられるとなんだか勝手に申し訳なさを感じてしまう。彼女に対する興味を考えたら友達にならない理由なんてなかった。

「う、ん、、よろしく?」

「よッ、よろしく!」

顔をあげた百舌のはにかみぎみな笑顔は高い青空によく映えていた。


「友達になるにあたって聞きたいことがあるんだけど」

「なに?」

「どうして空を飛べるの?」

視界の隅にセキレイが柵に止まっているのが見える。ちょこまかと動き回っていて気が散る。

「うーん、それはねえ」

百舌は少し困ったような表情で言った。


「うちが半分だけ鳥だからです」


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