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巴町  作者: ふくろう
3/6

図書室にて遭遇

私は少女が立ち去った後も、しばらく動けずにいた。あれは、一体何だ。何なんだ。人が空を飛べるわけがない。だとすれば何だ、あれか、今流行りの妖怪か。私の周りの空気がどんどん柔らかくなって歪み、直前の出来事が現実味を無くしていく。夢であるはずがない、と思いながらも頭がついていかない。

少女は親しげに米澤さんに挨拶をしていた。ならば同級生か。私は米澤さんに聞いてみることにした。

「今の、誰。知り合い?」

「ううん、全然。私今すごいびっくりしてる」

いよいよ訳がわからない。


私はノートを持って教室を出てトイレにこもった。もちろんこの信じがたい出来事を記録するためだ。下敷きを忘れたから字が歪む。それでも気にせずに書く。


チャイムが鳴る。朝のホームルームの時間だ。私は慌てて個室を出ると階段を駆け上がり、教室に戻った。


ホームルームの間、私はこそこそと隣の柴と話をしていた。

「あのさ、ショートカットで目がぱちっとしてて、スカート短めの白いウインドブレーカーわかる?」

柴はアクビをしながら

「あー、あれだろ、百舌」

と、だるそうに言った。そういえばいつも眠そうだ。

「もず?」

「田中百舌、この間駅で見た。かわいいよな」

「…そうかなあ」

たしかにかわいいとは思ったけれど、柴が言うなら認めたくなかった。

「でも、たしか入学早々に教室の窓割って停学処分だったらしい」

「ほんとに?」

「わっかんね、うわさだよ、うわさ」

そう言って柴はまたアクビをした。そのとき私は彼の左手の甲にホクロがあることを発見した。

「寝てないの?」

「別に」


授業中も私の脳内は田中百舌のことだらけだった。なぜ飛べるのか。「また、あとでね」の、あとでとはいつなのか。本当にかわいいのか。窓を割ったのは真実なのか。ひょっとしてノートを見られてしまっただろうか。あの堂々とした校則違反でどうやって生活しているのか。謎は尽きない。


気がつけば昼休みだった。いつも一緒にお弁当を食べてる子たちに断って私は図書室に向かった。普通、みんなこの時間はお昼を食べているので中には誰もいない。

「鳥のひみつ!」という本を手に取ると席に座る。


鳥は飛ぶために、胸筋を進化させた。その代わりに鳥には歯もなく、飲み込むためや噛むための筋肉もない。もし人類が鳥類のように飛ぶとするならば今の約20は倍の筋肉を身に付けなければならない。

また、鳥の骨は恐ろしく軽い。人間の骨は自身の体重の18%程だが、鳥はたったの5~6%だ。これは鳥の骨の中が空洞になっているためである。


私はここまで読んで本を閉じた。やっぱりありえない。ならばどうして。私は深くため息をついた。


「鳥のひみつ?それ読んだってうちのことはわからないよ」


誰もいない図書室に凛とした声が響く。


「ひょえ」

我ながらどうしようもないような声が出た。

「君、今朝窓を開けてくれた子だよね?」

図書室の入り口にすらりと立っている少女、おそらく百舌は目を輝かせながら


ふわり、と宙に浮かんだ。


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