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巴町  作者: ふくろう
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佐藤柑菜

私が気に入っている佐藤柑菜は中学のころ、他のクラスメートより三十分程早く学校に通っていた。当然教室には誰もおらず、柑菜が扉を開ける音ばかりが教室に響きわたる。静かに歩いてまっすぐ自分の席に向かいそっと椅子を引いて座る。なんとなく、この静寂を乱してはいけない気がするらしい。柑菜は一冊のノートを取り出して静かに開いた。胸ポケットからボールペンを取り出して下敷きも使わずに書く、書く、書く。昨日起こった嫌なこと、嬉しかったこと、業務連絡、今日しなくてはならないこと、やりたいこと、やりたくないこと。そういった柑菜の生活のすべてを日記というよりは、単なる記録として書き記していく。

柑菜は不安なのだ。書いて書いて書き尽くしていかないと、自分にはなにもないような気がしてしまうのである。私が思うに、彼女は何かが足りないなりに努力していたのだろう。柑菜は時々このノートを読み返して、ああ私はちゃんとある、ということを確認している。朝の学校であれば親も、友人も、他人も、時間さえ早ければ誰もいない。ノートを書くには絶好の場所だった。

大方書き終えてしまうと彼女は窓から外を眺める。海に面した学校はいつも波の音が聞こえている。昇ったばかりの太陽の温度がやんわりと柑菜をつつむ。


暖かな幸せの中で自分の存在を確信して、柑菜は一日を始めるのだ。

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