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人魚の涙  作者: エネミー
1/1

泡沫の姫

初投稿です。駄作です。お目汚し失礼します。


一人の人魚姫は、ある人間を愛しました。

ですが、その人魚姫は相手の人間を助けるために、自らの命を擲ちます。

人魚姫は泡となり、消えてしまいましたが、その想いは後世に伝えられているのです。



「馬鹿みたい」


パタンと本を閉じる。

古びた表紙を指の腹で、そっと撫でた。本に綴られた人魚ーつまり、私の祖先は人間なんかのためにその尊い命を捨てたらしい。本当...馬鹿馬鹿しくて吐き気がする。

なんで私の祖先は、殺さなかったのか。もしかして、人間に情を抱くからそういうことになるのか。

じゃあその人間は、私の祖先に対してどんな感情を抱いたのだろうか。


「...考えても無駄かな」


所詮、人間は人間。人魚は人魚。二度と、相容れることなんてない。下らない考えは捨て、これからも海の中で生きていけばいいのだから。


「唄詩[うたう]様」

「...ルキ」


気配がないのに側にいた、私の側近で、一番の理解者のルキ。

小さい頃からずっと隣にいて支えてくれている存在。王宮中の誰が私を無視しても、彼だけは一緒にいてくれた。


「お妃様から、"話があるから来るように"らしいです」

「愛人の娘だから、話があっても来なさい...ね。相変わらずですこと」

「唄詩様っ」


咎めるように、どこか気まずそうに、私の名を呼ぶ。そんなルキに、私は優しく微笑みかけた。"分かっているから"そういう意味を込めて。

行き過ぎた発言は、私の立場を悪くするだけ。分かっている。分かっているからこそ、腹が立つ。

私、海野 唄詩[うみの うたう]は、本妻の娘じゃない。遊女の母から生まれた、アトランティス王国の卑しい王女。宮中でも立場がなくて、居心地が悪かった私は毎日を死んだように生きていた。

けど、そんなとき出会ったのがルキ。彼は私にとっての光になった。私を陽の当たる場所へと連れ出してくれた。世界の全てになった。


「大丈夫よ、ルキ。...さ、参りましょう」


腰掛けていたベッドから下り、部屋を出る。

この宮中は無駄にでかくて、無駄に豪華。だけど私は、そんな凄いところでも隅に追いやられ、存在さえ無視されている状態。そんな私に、お妃様は一体なんの用なのかしら...。

考えているだけで、気が滅入りそう。


「お妃様、唄詩です」

「入りなさい」

「...失礼します」


事務的な言葉を交わし、入室する。部屋には花の匂いが溢れ返っていて、海の中なのにありなのか、と、疑う。けど、気にしても無駄。あの人がありと言えば全てがありになる。そういうシステム。


「久しぶりですね、唄詩。ますます、美しさに磨きがかかったようで、何より」

「お妃様も、健やかにお過ごしのようで、お喜び申し上げます」


足音をたてずに歩きながら、心にもないことを言う。失礼に思うだろうけど、相手も同じなんだから、問題ない。私も、あの女も、お世辞を言うことには長けているんだ。


「ルキ、ご苦労様でした。下がりなさい」

「....畏まりました」


一礼して、静かに出ていった。その姿を見送った後、相手に向き直る。


「急に呼び出してご免なさい、唄詩」

「前置きは良いので、用件を言ってください」

「あらあら、相変わらず手厳しいこと」


こっちの気も考えないでよくもぬけぬけと...!白々しさに吐き気がする。こんなやつに、母は...!!


「早速だけど、用件は1つだけよ。人間と婚儀をあげなさい」


ーはぁ?

何をいってるんだ、この人は。私が人間を嫌っているのを知っていながらーいや、知っているからこそ。なのかもしれない。

何にせよ、悪趣味な...!


「お断りー」

「ダメよ?断っちゃ。これは、唯一この国で人間の姿をしている、貴女にしか出来ないんだから、ね」


私はこの瞬間、この魔女には嵌められたと気付いたのだった。



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