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大平原を離れ、森の泉に着いた時、僕は崩れるように倒れこんだ。
『おっと、ハーンしっかりしろよ』ヴァルが僕を支えながら言う。
『まったく、どこまで無理すれば気がすむのかしら。よくここまで倒れなかったわね』
『ほんとじゃよ。あれだけのことをやって、さらにわしらへこれほどの力を送るとは…一歩間違えれば即死もんじゃ』
『小言は後で聞くから、小屋で休ませてくれないか、頼むよ』
『ほんとに世話が焼けるぜ』
ヴァルに担がれてみんなで小屋の中へ入り、ベッドに横になる。
『ハーン、これからどうするの』
『僕は、ここで一人で暮らすよ、そのために小屋も建てたしね』
3人は黙ってしまう。
『3人とも、ありがとう。みんなに逢えなかったら僕は何の為に存在しているのか分からないままだったよ』
『ハーン…なによ、私達がいるじゃない、私達が…』
『かっこつけんじゃねーよ。馬鹿だな…』
『リーチェ、ヴァル……ヴァルには馬鹿扱いされたくないけどね』
『うるせい』そういいながらヴァルは涙を流していた。
『2人とも、やめんか。ハーンは気付いておるんじゃろう。そうじゃな』
『ベア…。3人は目的があるって言っていただろ。封印がとかれて、力が戻るたびにできることも動ける範囲も増えていってた。力を取り戻せばいずれ目的を果たしに行ってしまうんじゃないかって…』
『そうはいっても、ハーンが動けない間くらいは一緒じゃよ。な、2人とも』
『あたしが看病してあげるからゆっくり寝てなさいよ』
『じゃあ、俺はご飯でも取ってくるわ』
2人とも僕に顔を見せないように外に出て行った。
『すまんなハーン。あやつらも、わしも一緒に居たい。心からそう思うほどこの短い時間はわしらにも大事な時間。ありがとうハーン』
『やめてくれ、僕も楽しかった。また一人に戻っただけさ。大丈夫、昔の弱い僕じゃない。生きていけるさ、少し寝るよ』
僕は一人布団の中で泣いた。
目を覚ますと、小屋が家になっていた。
『ははは、どうだ驚いたかハーンお前の作った小屋があまりにもちっぽけだったから勝手に大きくさせてもらったぜ』
『わしらにかかればこれぐらいは簡単じゃな』
『はいはい、3人ともご飯よ』
机にはこれでもかと思うほどの食べ物と飲み物が用意されていた。そのほとんどはただ焼いただけだったけど。リーチェは『焼くのも料理よ』となぜかヴァルの頭を叩いてたけど。
『いただきます』全員揃って食事をいただく。
『そういえば、最後に女王達になんて言ったの』
『ああ、あれね。『敵の敵は味方だろ』ってね』
『あんた、本当に馬鹿ね。分かってたけどあきれるわ』
『ほんとに攻めてきたらどうすんだよハーン』
『そのときは、すみやかにお帰り願うさ』
『言うようになったもんじゃ』
『馬鹿ね、本当に両方敵にまわすなんて』
『言っただろ、僕はもう人じゃない、魔王様なんだから』
リーチェにコツンと頭を叩かれた。
それから7日間ほどで僕はヴァルとまともに戦えるほどに回復した。
『それじゃあ、お別れねハーン』
ヴァルは涙が止まらないようで何も言えないでいる。
『強くなっても、身体には気をつけるんじゃぞ』
3人も僕もその場をなかなか動けなかった。時間だけが過ぎていく。
ベアが突然にやりと笑う。
『ほれ、邪魔者はとっとと退散じゃ』
ベアを睨むリーチェとヴァル。しかしすぐににやりと笑って。
『バイバイ、ハーン元気でね』
『もう逢うことはないぜ、元気でな』
『じゃあの』
3人は笑いながらスッとその場から消えた。
『なんだよ急に…』堪えきれず声を上げて泣く。地面に座り込むと手元に小さな芽が生えていた。
『時間は進んでいる。僕も進まなきゃ』
一人では広すぎる家の中に入る…
さっきまでにぎやかだった部屋はただただ静かで、本当に1人になったんだと実感させられる。
不意に扉が叩かれる。
僕はリーチェ達が帰ってきたのではないかと思い。慌てて扉を開ける。
そこにいたのはリーチェ達ではなかった…僕が二度と逢えないと思っていた人が立っていた。
『サチ…』
『帰ってきてくれないから、来ちゃった』
僕はサチを抱きしめる。
『待ってたんだから、みんなが何て言っても待ってたんだから。でも待てなかったの自分で確かめるまで納得できなかったの』
泣きながら話すサチの口を塞ぐ。口づけしたままお互い落ち着くまで抱きしめあった。
サチと2人で食べる夕食は最高に幸せで僕は満たされていた。
サチの話しでは、僕が戦場を離れた後、女王とラスクはその場ですぐに停戦を決めたそうだ。現在も前線の砦や戦後処理の話し会いは続いているみたいだが、僕という第3の脅威に対抗する為と両国の王の意見があっているため争いになることはなさそうだ。
僕の姿はだいぶ誇張されていて、大人2人分の大きさだとか、頭から角を生やし漆黒の羽を羽ばたかせ飛び去ったとか、伝説にある竜の様であったとか。誰だよいったい、と思うような話が飛び交っているようだった。
驚いたことにサチに僕のことを伝えたのは女王だったらしい、最後の囁きで僕の意図を汲み取り。正気であると教えてくれたらしい。サチは女王から伝言を預かっているとのことだった。
『女王様はね、ほとぼりが冷めた頃にまた遊びに来いだってよ。それと私はあきらめていないって。どういうこと』
おもわずサチが入れてくれたお茶を噴出してしまう。慌ててむせる僕をじーっと見つめるサチ。
『ハーン、話してくれるわよね。ね』
僕はしぶしぶ女王にせまられたことを話した。
頬を膨らませ不機嫌なサチの隣に座り。
『僕のあるべき場所はサチの隣だけだよ』と囁いた。
真っ赤に照れるサチを抱きしめ。
『また、みんなに逢いに行こう』というとサチは腕の中で頷いた。
これから何があるのか分からない。先のことなんて分からない。でも、僕は今こうして幸せを手の中に感じている。それでいいと心から思った。
『サチ、愛してる』『わたしもよハーン』
おしまい




