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ラスクとその家臣たちはお互いに誇らしげに顔を見合わせている。
一方、女王とバロンは既にこの戦いが終わったかのように暗い顔して俯いている。
この戦いの結末が既に見えているような空間の中、僕は口を開く。
『女王は、自分の理想のために周囲を押さえつけ、痛みを与えた…バロン、間違いないな』
『確かにそうだ。それをお止めできなかった私も同罪。責められるのは私も同じ』
肩を落とす女王、その瞳に涙を浮かべ、すがるような表情で僕を見る。
『ハーン、それでは俺と共に来てくれるんだな』
『ラスク、僕はある砦で、子供に切りつけられて、この鉤爪をその子供に突き立ててしまったんだ』
静まり返る場にラスクが話す。
『今は戦の最中だ、相手が誰であれ身を守るのは仕方がないじゃないか。ハーンは悪くない』
『その子供は最後にお母さん、国王様やりました。といって自分の剣で自分の命を絶ったよ』
ラスクは酷く悲しそうに涙を浮かべ黙り込んだ。
『民が、部下が喜んで命を投げ出す。それを自分の理想の礎になってくれて感謝しているだって。笑わせる』
その場の誰一人として動くことはなく、静かに僕は立ち上がる。
『同じじゃないか。結局、こんな争いをするお前達は同じじゃないか。理想って何だ。ラスク答えてみろ。民の為に民の命が消えていく。おかしくないか』
『しかし、我々は勝手に王のためにと思っているだけです』
『それを知っていて、止めない時点で利用しているのと同じこと』
『僕は妄信的な民の上で踊っている奴も、自分の都合で周囲の民を押さえつける奴もどっちもごめんだね』
『ずいぶんと好き勝手に言ってくれるじゃないか、ハーン、ではお前はどうするつもりだ。この戦場の真ん中でどちらにもつかないだと。ふざけるな』
『相変わらず、口だけはよく回るなファミング…簡単なことだよ。全員潰す』
その言葉にバロンは女王の前に立ちふさがり。ラスクの前にはパメラさんがその身を庇うように躍り出る。
『ハーン、血迷ったか』
『バロン、僕は正気さ。ただ、僕は人を超える』
僕は黒い霧に包まれる…その密度はどんどん濃くなり、闇の塊となった。
『女王、ラスク…僕と一緒に来てもらうぞ…部外者は引っ込んでいてもらおうか』
闇から影を伸ばし、女王とラスクを捕らえようとする。
バロン、パメラは盾になろうとするがその足元は既に闇に飲まれていた…
『パメラ、俺はそう簡単にはやられんぞ』
ラスクはすばらしい動きでパメラを捕らえている影を切り裂こうとする。しかしその大きな刃は影をすり抜け地面をえぐる、その勢いのまま刃が僕に向けて振るわれる…
『無駄だよ、ラスク。人に僕は殺せない…』
闇が刃を噛み砕く、そのままラスクを闇で包み込む。ラスクの兵士達は全員武器を手に僕へ突っ込んでくる。誰一人として僕の闇を貫くことはできない。
音もなく、バロンが僕の顔に剣をつきたてようとする。
『バロン、無駄なんだよ、もう誰も僕には届かない…』
バロンを弾き飛ばし、女王も闇に取り込む。
向かってくる者をその場に叩きつけ、うめき声が漏れていた。
『ハーン、いやハーン様。すばらしいお力。お1人では何かと不便でしょう。このファミングに何なりとお申し付けくだされば、あなたのお役に立ちたいと心より願っております』
『目障りだ。黙れ』地面にめり込むほどの力を上からぶつけてやる。奴は静かになった。
『では、最後の仕上げと行こう』
僕はテントを吹き飛ばした。




