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ヴァル少年は僕を砦から少し離れた小高い丘まで引き返した。そこには既にリーチェとベアが待っていた。
『ハーン、大丈夫。何があったの』心配そうに事情を尋ねてくるリーチェ。
僕は力なく座り込み、切り付けられ反射的に子供を殺してしまったことを話した…
リーチェは何も言わずにそっと僕を抱きしめてくれる。
しばらくして、リーチェは僕に言った。
『何かを守ることは何かと戦うことよ。そしてそれは相手も同じだわ。帰りましょうハーン』
僕は頷きゆっくりと立ち上がる。砦は来たときは違い灯りがともり僕を探しているのかたくさんの灯りが周辺に広がりつつあった。
僕は左手を砦へ向けて唱える。
『炎陣、2門開放、拡散、10式、解』
砦に向けて火の雨が降り注ぐ、砦のあちこちに火の手が上がり、ここからでも相手の動揺が伝わってくる。
僕は止まらない涙をそのままに先に動き出したみんなの後を追った。
僕が街へ戻ったのはそれから4日後だった。涙は2日後には止まっていたがみんなとの会話は無く。みんなも無理に話そうとはしないでそっとしておいてくれた。
街に着き、僕らは孤児院へ帰る。酷く疲れきった顔をしている僕を見て、シスターは『お帰りなさい』といって横になることを勧めてくれた。
リーチェ達が女王への報告はしてくるからといって城へ行ってくれた。
僕は気がつくと眠りについていた…
『僕は家族を、守るために、王様のために頑張ったのに、どうして』
死んだはずの子供が胸から血を流しながら近づいてくる。
殺す気は無かった、許してくれ、許してくれ。
胸から血を流した子供が僕に剣を突き立てる…
『よくも弟を、許さない、許さないからな』
君の家族を奪う気なんてなかった、本当なんだ。
僕のわき腹に槍が突き刺さる。
だれか、だれか助けて、僕はどうすればいいんだ、どうすればよかったんだ。
許して…助けて…
『お前のせいで村はなくなったんだ、私達はお前に殺されたんだ。面倒見てやった恩も忘れやがって』
育った村のみんなも手に武器を持って近づいてくる。次々と振り下ろされる。
助けて、誰かだれか、ダレカ…
アアアアアアアアアアァッ
僕は耐え切れずに力を解放しようとする。でも力は解放されなかった。
『なんで…』
『そうやって、また我々を殺すつもりだったのか。この人殺しが』
『ハーン、ハーン』
僕を呼ぶ声にハッと気づく、目の前にはサチが心配そうに僕の両肩を掴んでいた。
覗き込むサチを抱きしめ押し倒す。
サチは戸惑いながらも僕をそっと抱きしめてくれる。
そのまま、僕はまた眠ってしまったようだ。
目を覚ましたのは翌日だった。
『ハーン、起きたかしら。女王はとてもご満悦だったわ。私たち4人での砦への調査、こちらの被害ゼロでの相手への打撃。どれをとってもすばらしいと絶賛だったわ。ハーンの気も知らないでね』
僕はリーチェからの報告を何の感情も起きないまま聞いていた。
『そうか…、ちょっと出かけてくるよ』
僕はサチたちにもひと言告げて1人街をふらつく。
気がつくと酒場についていた。中に入るとカウンターに見覚えのある男がいた。
『隣いいかい』
『誰かと思ったら、ハーンじゃないか。どうぞどうぞ』
『暗いな、なんかあったのか』
ラスクは声をかけてくる。僕は人を守るために人が傷つくことに迷っていることを話した。
ラスクは別人のように雰囲気を換え、遠い目をしながら考えているようだ。
『それは仕方がないことじゃないか。自分がいて、相手がいる。事情も立ち位置も違う。ならば自分の事を優先するのは仕方がないと思うぞ』
『そうなんだけどね…』
『ハーン、俺は南の国にちょっとした知り合いがいる。もしよかったら来ないか』
僕が殺した子供の最後の言葉を思い出した。
『お母さん、国王様、やりました』
あの子は無理矢理前線に立っていたわけじゃないってことか、確かに女王よりはいいのかもしれない。でも、進んで死ぬ可能性があるところに向かう気持ちにさせることもいいとは思えない。
『俺はもうすぐこの街を出る。色々調べたが女王の考えではみんな振り回されるだけだ。付き合い切れんと思ったんだ。敵の敵は味方になりえる、どうだハーン』
『かといって、この国には僕が守りたい人がいる。南にはいけないよ』
『まあ、そう簡単にはいかないよな。短い間だったけど色々面白かったぜ。じゃあ、またな』
そう言って、今日は俺のおごりだといって支払を済ませて帰っていった。
『敵の敵は味方か…』




