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翌朝、サチの声で目が覚める。そこにはなんか懐かしい侍女姿のサチが立っていた。
『ハーン、おはよう朝ごはんできてるわよ。あと旅の支度も簡単にまとめておいたから』
ありがとうといいながら食堂へ一緒に向かう。
『ハーン遅いぜ。早く行こうぜ。待ちきれない気持ちがにゅーんってしてるぜ』
昨日買った鎧をガチャガチャさせながら相変わらずよくわからないことを言っている…
奥を見れば、絨毯を背負ったベアが子供を乗せて『空飛ぶ絨毯じゃー』と楽しそうにしている。
リーチェは昨日買ったドレスを着ていろいろなポーズをとっている。
とにかく、僕は朝食を食べた。やっぱりサチのご飯はおいしいな。おいしそうに食べる僕を見てサチも嬉しそうだ。微笑みあい、ゆっくり食事を食べながら言葉は無いが幸せな時間が流れる。
『ハーンさんちょっといいかしら。サチもそろそろお城に行く時間じゃないかしら』
気がつくと、孤児院のみんなが僕達をじっと見ている…
あわあわと支度をして出て行くサチ。軽く咳払いをして旅支度を確認する僕。みんなの生暖かい視線の中。サチが入り口からちょっと顔を出してこちらを見ている。
『あの…ハーン気をつけて。それと、早く帰ってきてね』それだけ言うとさっとまた行ってしまった。
また僕に視線が戻る。サチが準備してくれたかばんを背負い。
『いってきます』といって孤児院を飛び出した。
街外れまで一気に走り。後ろを振り返るとリーチェ達はいつもの格好で立っていた。
『朝から、いちゃいちゃするからこんな目にあうのよ。ほんと馬鹿ね』
4人ともお互いの顔を見て、みんなで笑った。
『さて、ハーンあなたは鉱山で力の制御がかなり上達したようね。さっきの走りも見事だったわ。全身に軽く力を流して走れば、そこらの馬より速いからその目的の砦まで一気に行くわよ』
『じゃあ、そこまで競争だな。普通の道は人の目があるから真っ直ぐ行こうぜ』
『真っ直ぐなら迷うことも無いじゃろうて。ちょうど左手に見える山があるじゃろうその麓じゃから万が一迷ったら高い木にでも登ってみればすぐわかるぞい。そんなことしたら最下位確実じゃがな』
『話しは決まったわね、終着点はなんとなく砦の近くよ。最下位はみんなの言うことを何でも聞く、でいくわ。異論は認めない』
3人がそれぞれ体にうっすらと力を纏わせていくのが左目に映る。全身均一によどみなく力を制御する姿に僕はしばし見とれてしまった…
『スタートよ』リーチェの声とともに我に返る。しまった出遅れた。
ベアは少し高い位置を抵抗も無く飛び。
ヴァル少年は邪魔な岩等を弾きながら突き進み。
リーチェは障害物をすり抜けているかのように進んでいった。
3人の姿はあっという間に見えなくなった。
慌てて、力をめぐらせる。必死に追いかけるが一向に3人の姿は見えない。僕は集中してひたすら前へ前へと突き進む。森を抜け、岩の散乱した丘を抜け、でかいクマが木にめり込んでいたりする、きっとヴァル少年が通った後だな。
日が真上を通り過ぎ、沼地で泡を噴いたカエルを見て、確信した。少なくともヴァル少年は近い。カエルの泡はまだ新しい…
日が傾き、空が茜色に染まる頃。前方から声が聞こえる。
『とーう、ダー、エイホッサー』
巨大な蛇の頭を地面にめり込ませていた。
『追いついたぞヴァル』
ぎょっとした表情で僕のほうを振り返る。蛇をほったらかして急いで前に進むヴァル少年。
追う僕。僕を突き放そうとするが徐々に距離を詰める。2人のスピードはどんどん上がっていく。
前方に山が近づいてくる、あと少し…
『はい、2人ともそこまでよ』
僕とヴァル少年は地面に打ち付けられた。




