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日が暮れる前にと宴会の準備は大忙しだ、僕とカミラもサチを手伝い、女性陣プラス僕で大急ぎで仕度に入る。
サチはさすがと言うしかない手際で料理を仕上げて行く、ある程度のところで酒屋から飲み物も届きしばらくして宴会の準備は完了した。
ガルツさんはブラドに始まりの挨拶をするように言うと珍しく緊張した面持ちで軽く咳払いをする。
『俺は難しいことがよくわからねー。ただひとついえることは今日は腹いっぱい食おう。そしてハーン、ありがとな』
ブラドはそう言うと僕に乾杯の音頭をとるようにいう。
『みんなお疲れ、乾杯』
宴会は始まった。サチを始めとした女性陣は料理の追加をどんどん運んでくる。
すごい量の食べ物、飲み物がどんどん無くなっていく。
みんながある程度食べ終え、ゆっくりしてきた頃を見計らって僕は立ち上がる。
みんなの視線が僕に集まり、場が静かになるのを確認してから。
『みんなに聞いて欲しい、僕は女王蟻を倒そうと思う』
突然の僕の言葉に一同声は無く、ガルツさんも神妙だ…
『俺も連れて行ってくれんだろうな』ブラドは真っ直ぐ僕を見つめる。
僕は静かに首を振った…
『僕は1人で行こうと思う』
ブラドは僕の首もとを掴み、壁に押し付けた。
『俺達は今まで一緒にやってきただろ、ここまで来て置いていくのか。俺達は足手まといか』
激しい口調で掴みかかってくるブラドをガルツさんが片手で引き剥がそうとする。その手を振り払い、なんでだ、なぜなんだと僕に問い続ける。
他の鉱山隊のみんながブラドを引き剥がす。
一緒に鉱山に入った仲間達はブラドを抑えながらも気持ちはブラドと一緒だと口々に言う。
『お前達やめないか、ハーンさんの気持ちも考えるんだ』
ガルツさんが鉱山隊のみんなを一喝する。みんなも納得できないがしぶしぶ引き下がった。
『ハーンさんブラド達がすまなかった』ガルツさんが僕に謝る。
僕もみんなに場をめちゃくちゃにしたことを謝る。今日の宴会はここでお開きとなった。
少し外へ出る。
僕は1人月夜の中を歩く、これでよかったんだ、ブラド達をこれ以上危険な目にあわせるわけにはいかない、これでよかったんだ…
なぜか僕は涙を流して月を見上げた。
少しして片づけが終わったかなと思われた頃僕は家に戻る。サチが起きて待っていた。
『ハーン、今から行くんでしょ。私、起きて待ってる。あなたの帰りを』
そう言って、冷たい水を差し出してくれる。僕は無言でその水を飲み干し。
『行ってくる』
僕はまた、月夜の道を鉱山へ向けて歩き出した。
鉱山の入り口が近くなる、色々な思いが僕の中を駆け巡る…
この町に着て良かった、本当に良かった、みんなに恩を返すんだ…
僕の前に立ちふさがる影が現れる。
『よう、ハーン奇遇だな。こんなところまで散歩か。俺達も眠れねーんだよ。勝手についていくぜ』
ブラド…みんな…
僕はブラド達の横を通り過ぎる、何も言わずに僕の後ろをついてくるブラド達。馬鹿やろう…
鉱山の入り口は相変わらず柵がされていて、組合の人間が見張りをしていた。
『お前達、夜は蟻の活動が活発になる。危ないから明日にしなさい』
僕らを止める見張りの言葉を無視して柵の中に入る、慌てて人を呼びにいく組合員。
『ハーンちょっとまちな、うちらにも面子があるんやで、あんま勝手したらあかんよ』
ミヤが後ろから声をかけてくる。僕は意図的に無視して歩き続けようとする。
『女王ヤリにいくんやろ、あんまり刺激したら町に蟻が溢れんで、ええの』
僕はその言葉に足を止める。
『そっちは頼む』振り返りミヤに話しかける。
ランにど叱られるわと言いながら組合員に連絡を頼んでいるミヤ。
『十分気いつけてな』といって腰から剣を抜いて柵の前に陣取る。
僕はブラド達に最後に聞いた。
『本当についてくるのか』
『いまさらそれを聞くのか、ハーン俺達の答えはわかってるんだろ』
『狙うは女王蟻ただ1匹…遅れるなよ』
『お前ら、聞いての通りだ親父達を酷い目にあわせた女王様にきっちりご挨拶しにいくぜ』
始めの頃のおどおどした様子はまったく無く、そこには一人前の誇り高い鉱夫しかいなかった。
僕らは音もなく鉱山の闇を切り裂いていった…




