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特に会話も無いまま、市場に向けて二人で歩く。
サチがここまで静かだと調子狂うな…どうしよう。
今日の宴会の料理の話しをしてみても、蟻の話しをしてみても、カミラ達の話をしてみても返ってくるのは短い返事のみ。
会話も続かないまま大量の食材を抱えて歩く僕、市場の隅にある小さな広間に荷物を置いて少しやすまないかと声をかける。僕は近くの露店で飲み物を買ってくるといってその場を離れる。
飲み物を買って戻ってくるとサチは不安そうに膝を抱えて下を向いていた。
僕の渡す飲み物を受け取り、また下を向いてしまう。
僕はどうしていいかわからずに黙ったまま隣に座る。しばらくしてサチが下を向いたまま僕に話しかける。
『みんないい人達ね、ハーン。それにあなたも楽しそう』
僕は強く頷き、毎日楽しくブラド達とお金を稼いで、馬鹿なこと言い合って、充実しているといった。
それを聞いたサチは肩を震わせ声も無く泣き出してしまう…
『ハーン、あなたはここに、この町にいたほうが幸せになれると思うわ』
サチは立ち上がり走り去ろうとする…
気がつくと僕はサチを強く抱きしめていた。
『私不安なの、ハーンがハーンがもう帰ってこないんじゃないかって、今は帰れないって聞いたときから、ひょっとしてハーンはこの町にいたいんじゃないかって、それなのに勝手に私、追いかけてきて、ハーンが迷惑って思ったかもって、私…私…。それでも会いたかったの、どうしようもなく会いたかったのよ…』
目を真っ赤に腫らしてサチは堰を切ったように話し出す。
僕はサチの気持ちなんか全然考えていなかったことを悔やんでいた、お金を稼いで普通に帰ってなんて軽く考えていた、いい人達にも会えてすべてが順調に運んでいると…思い上がっていた。僕は馬鹿だ、大馬鹿だ…
サチが落ち着くまで待って声をかける。
『ごめん、僕を待っててくれる人なんて今までいなかったからサチの気持ちも考えられなくて、ごめん』
サチは僕の顔を見つめる。
『僕はこの町にとどまる気はないよ』僕はなぜお金を稼ごうと思ったのか、今は帰れない理由をサチに話す。
お金を稼ごうと思ったのは孤児院の子供たちに防寒用の服を贈りたかったから、シスターと話していて僕も何かできればと思ったこと。今はサチがあの孤児院をお金の面でも支えているのを知ったから、その手助けもしたかったこと。
お金はたくさん手に入れられたけど、ガルツさん達は蟻がいる限り僕がいなくなればいづれ食べることにも困る、僕に良くしてくれたみんなをほってはおけないこと。
サチは驚きながらも真剣に聞いてくれている。
『なにより僕はサチのところに居たいよ』
『私も、ハーンと一緒にいたいの』
僕らは強く抱きしめあった。
突然回りから拍手が聞こえる。
物陰からブラド達鉱山隊と頬を全開に膨らまして不機嫌なカミラが出てくる。
『ハーン、おせーからみんなで手伝いに行こうって来てみれば、仲良いことで』
ブラドがおどけた調子で僕らをからかう。
サチは顔を真っ赤にして僕から離れる、カミラがサチに抜け駆けずるいと追い討ちをかけている。
『頑張った俺達が腹すかせて待ってんのにひでーぜ』そう言うとブラドはみんなに指示を出し買ったものを運ばせる。『急いでいくぜ、しっかり運べ』この辺の連携もしっかり一人前だな。
サチもカミラにずるいずるいと言われながらも手をつないで歩き出している。
最後に残ったのは僕とブラド。
ブラドは先ほどまでのおどけた様子も無く真剣な表情でこう言った。
『ハーン、お前にはカミラのことも稼ぎのことも感謝してる。俺達はもう大丈夫だから気にしなくていいんだぜ』
僕は何もいえなかった。
『さあ、宴会の準備だおいてくぜハーン』
ブラドは前を行くみんなを追い立てて家に向かう。僕もその後を追っていった。




