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『いくわよ、みんな』リーチェの号令におうと答えたベアとヴァル少年。
僕の頭に声がする。
『ハーン、俺の背中に左手を伸ばせ、バーンと行くぜ、ゴーだゴー』
両手を自分の目の前にそろえ、馬車に向けるヴァル少年。
その背中に左手を添える。
『背中を借りるぞい、制御はワシに任せておけ』
ベアが僕の背中に張り付く。
『私が力を引き出して衝撃から守るわ、ちょっと力使いすぎるけど、死なない程度にいくから安心して』
リーチェが僕に肩車の格好で乗ってくる。
ヴァル少年が砲身、ベアが制御、リーチェが守護と装填…僕は玉入れか…
背中に板を背負い、少女を肩車して、少年の背中に手を添える…何だこれ…かっこ悪い…
ファミングは腹を抱えてこちらを指差し笑っている。
あの女王までも苦笑いだ…
バロンですら顔に手を当てて笑いを堪えている。 僕は落ち込んでいる気分ではなくなった。
『さあ、ハーン行くわよ』気分の盛り上がっている3人には悪いが、恥ずかしい…
『いくぞい、三、二、一。術式開始』ベアの言葉と同時に身体の奥底から何かが引き釣り出される。
立っているのがやっとだ。
『さあ、ハーン根性見せなさい。ヴァルから手を離したらあんた破裂して死ぬわよ』
簡単に言ってくれる…
一瞬で全身に力が満ち溢れ左手に流れ込んでいく。
『来た来た、もっとだ、もっとドーンと来い、ハーン俺はまだまだいけるぞ、ゴーゴーゴー』
どいつもこいつも…くそったれ。
急激な力の高まりに、魔法を使えるものも使えないものも言葉を失い、見ている者から笑いを奪っていく…
僕は青い光に包まれ、ベアから緑の光が僕の身体につながれる、ヴァル少年の両手は真っ赤な光に包まれ、徐々にその色と強さを増していった…
『さあ、ハーンぶちかますわよ。号令を』
『どうなっても知らないからな。いっけぇぇぇぇぇっ』
ヴァル少年の手から白い小さな光の玉が打ち出される。
馬車に当たった瞬間、玉は馬車を包み込み音もなく消え去った…馬車があった地面ごと。
破片のひとつも残さず、その場に空いた穴だけが残った。
誰もが言葉を失い、僕の激しい息遣いと地面に膝を着く音だけが響いた。
『いかがでしょうか、女王』リーチェは僕から降りて女王に軽く一礼する。
『今回は城内でありましたので、軽い術式でしたが、物足りませんでしたかな』ベアも背中から離れて進言する。
『久々だからこの程度かな』ヴァル少年は両手を見ながらつぶやく。
『うぁっぁぁぁあぁぁっぁ』ファミングが膝を着いている僕に魔法を放つ、動けない…
リーチェは奴を見ずに僕のほうに手をかざす。
見えない壁に奴の魔法は弾かれる。
『ファミング、この馬車の件の始末覚悟しておくように』
女王は奴を見ずに冷たく言い放った。取り巻きに担がれながら奴は下がっていった。
『リーチェとやらその力よくわかった、ハーンに従うのならば今はこのエリカトル・ディクトールの味方も同然。よろしく頼むぞ』
『ハーン様の意思に我々は従うのみ、それでは』
リーチェ達はすっと姿を消した。
女王は僕ににこやかに、これからも頼むぞといい城の奥へ戻っていった。
僕はバロンに肩を借り自分の部屋に戻っていくのだった。
後で聞いた話だが、ファミングの奴は翌朝最前線の砦に飛ばされたとのことであった。




