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エリオットは『これがなければ非の打ち所が無いのに…』とつぶやいて、僕に説明してくれた。
『あの鉤爪は肘までを防御できるガントレットになっていて、短めの爪は相手の剣を捉えたり、盾や鎧の隙間を狙うことが出来る仕様になっています。手先は自由に動かせるしあの黒い金属は魔法への耐性が強く高価で扱いが難しいものです。最前線に出る騎士団の装備にも部分的にしか使用されない代物です。ハーンの動きを妨げることは無いでしょうね。』
エリオットはさすが団長、これ以上の選択はないと絶賛した。
『エリオットも詳しいんだね』というと。
『団長は酒が入ると自分の集めた装備品の話をするのが趣味だからね、あれだけ聞かされれば自分の物じゃなくても憶えてしまうよ』とあきれ気味に言った。
『聞いているのか、2人でこそこそ話をして。まあ、いいこの続きは今度たっぷりとしてやろう』そう言うとバロンさんは僕にその鉤爪を渡してくれた。
『大事なものなのでは』と聞く僕にバロンさんはハッキリと。
『装備品は自分を活かしてくれる者に使ってもらえるのが一番の幸せなのだ、この一品はお前のために作られたような物、大事に使ってやってくれれば私は満足だ』
バロンさんは娘を嫁に出すような嬉しさと寂しさの織り交ざった表情で僕を見た。
『ありがとうございます。大切に使わせていただきます』
僕はバロンさんに深く頭を下げた。
『さあ、装備してみてくれ』
確かに、美しい…僕はゆっくりと腕に鉤爪をつけてみる。小柄な僕にぴったりの大きさ、バロンさんの言葉が頭に繰り返される。大事にしなきゃ…
装着感を試している僕の後ろから『赤と黒の色使いが目を引きますね』とエリオット。
『お前もそう思うか、やはり使用する人間を選ぶ装備もあるよい例だな』
2人の感想は上々のようだ、確かに僕も自分でそう思う。懐かしさすら感じるほどの装着感、自分の身体の一部のような感覚。
『では、特訓だ。私の装備品を渡すからにはしっかりと使いこなしてもらわねばな』
『私も再戦の約束。しましたよね』
風を感じるほどの威圧感を放ちながら2人の騎士は構えを取る。この世の地獄は今この場に作り上げられたのだった。
バロンの槍とエリオットの剣が降り止まない雨のように僕に降り注ぐ、近づけばエリオットが離れればバロンが僕はただただ必死に動く。
まともに受け止めれば弾き飛ばされてしまう…ニヤニヤしながら攻撃を繰り出す2人の速さはこちらの様子を見ながら徐々に高まっていく。僕は槍と剣の軌道を逸らしながら何とか直撃を避けていく。
息があがる、呼吸が苦しい、息を吸う暇もなくなってきたころ。
『なにをやってるんですか』と聞き覚えのある声が訓練所にこだまする。
腕を組んで僕達を無表情で見るサチが立っていた、有無を言わせない雰囲気をかもし出しながら矢継ぎ早にしゃべりだす。
『ハーン、お昼になっても戻ってこないから、何してるかと思えば、連絡ぐらいしてくれてもいいんじゃないの』
顔は笑っているが目は笑っていない。僕はすぐさま頭を下げて謝った。
それを見たサチは顔を無表情に戻してバロン達のほうを向く。
『バロン様…これはいったいどういうことでしょうか。説明、してくださいますよね』
丁寧な言葉がかえって怖い、エリオットはバロンの後ろにさりげなく隠れた、バロンはまるで悪戯がばれた子供のようにおろおろしながらサチに話しかける。
『サチ、これはハーンのために特訓をしていてだな。使い方のわからない装備では危ないと思って、な、エリオット』
『そうです、そうですとも、命を預ける装備も使えなければ…ね、団長』
黙ったままのサチはぽつりとつぶやいた。
『お2人とも、ずいぶんと楽しそうでしたけど…』
バロンとエリオットは特訓の時よりも速く頭を下げた。
そんな2人をチラッと見て僕の首根っこを捕まえてサチは歩き出した。
『次はありませんからね』2人にお礼もいえないまま僕達は目で会話をしながらサチに引きずられて騎士団を後にした。
サチを怒らせない、僕は心にこのことを刻み込んだ。




