―当日、そして―
ココハドコダ………?
オレハシンダノカ…?
何もないが光が溢れる空間。しかし自分の存在が希薄になるのが分かる。四肢をダラリと垂らし、何もない空間に浮かぶだけ。これで忌々しい血ともお別れだと思った。しかしまだまだ心残りがある。
ファイ……。
自分が死んだとなったら彼女はどれほど泣くというのだろう。
彼女を残し死を迎えたことに激しく苛立つ。もはや感覚すら消えかけているが歯をギリと噛み締める。
すると虚空の光が渦の様なものに吸い込まれ、人間の輪郭が浮かび上がった。
勇なる者よ……。
話し掛けられ、虚空に四肢を曝け出したまま横を向き答える。
オマエハダレダ…?
すると、こちらの問い掛けを無視して声の主は質問をしてきた。
卿、再び仲間の元へ帰らんと望むか。
その問い掛けに目を見開く。頭でしっかり理解したときにはすでに口が動いていた。
アァ…ノゾム...
承知した。
淡白に答え、手を前に出す。すると零れ落ちた光の粒子が収束し、球体を紡ぎだす。その行為のさなか、アルスは再び同じ質問をした。
オマエハ……ダレダ?
声の主は荘厳な声で答えた。
我が名はゼウス。神の一切を統べるものなり。立場が違えど、ガブリエルが迷惑を掛けたそのわびだ。何、ここは死が支配する場の一歩手前。ハーデスには文句を言わせんさ。
その答えに中途半端に納得が行かないまま取り敢えず頷く。
アリガ……トウ
するとゼウスは光の塊をアルスに差し向け、僅かに微笑むような仕草を見せ、光の塊を振りかぶった。
貴公に幸あれ。アルス・ファースよ。
ゼウスがその光塊をアルスにぶつける。その瞬間、アルスに全ての感覚が戻って来た。一気に全ての感覚が戻ったため視界が眩む。そして先程とは違う温かい光に包まれその世界で意識を自分のいた世界に飛ばした。
光り続けていたダークスピリチュアル像の光が弱まり、像が音を立て壊れていった。
「ファイ、安心しろ」
「なに……が……?」
泣き腫らして目が真っ赤になりながら聞き返してくる。それに彰吾は優しく答えた。
「死を反する儀式、死反し。それは本来あってはならないこと」
道理中の道理を言われキョトンとするファイ。
「お前が持ってたのはそれを例外的に叶える像。あんまりそんなことされると困るから昔壊したはずなんだけどな。要するに、そいつはそれを違反し、生き返ることが可能なんだ」
「そ、それって……!」
希望が見えた。しかし次の瞬間にはまたそれが閉ざされ掛けた。
「まぁ、試練を突破しないと駄目らしいけどね」
「そんな……」
脱力し、腕の力が抜けた。スルリと腕から落ちそうになるアルスの身体。腕から落ちる数瞬前、わずかに筋肉がピクリと反応を示した。
「!!!!アルス!?」
ほんのわずかに筋肉が揺れた。それが現つでも幻でも関係なく声をかける。それこそ、声が枯れるほどに─。
ゼウスから光球を受けて感覚が戻ってから、全ての感覚が同時に作用したため頭がグラグラして気持ち悪くなる。嘔吐感に捕われつつもオレは確信していた。
アイツに会える。
どのくらい声をかけていただろう。しばらくするとゆっくりと目を覚ました。
「アルス………?」
疑問形で聞かれたことに内心苦笑いを溢し、あまり動かせない筋肉を無理矢理動かし微笑む。
「ただいま……」
「アルス……!!」
熱い抱擁。しかし見ていた彰吾が弓の末弭でアルスの顔をどついた。
「ズベシッ!!!!にゃ…にゃにひやがりゅ(何しやがる)」
「人に散々迷惑かけて、いきなり惚気は無しだろ」
「だからってご挨拶じゃねぇかよ!」
反論するもプイとそっぽを向いてしまった。微妙に文句も入れられつつ生き返ったことを実感する。正面を向くと、とびきりの笑顔でファイが迎えてくれた。
「アルス、格好よかったよ!!」
その言葉に耳まで真っ赤になるアルス。朝日が、彼らを祝福した。