―当日―
一昨日のあの後は宿に戻り、昨日は大事を取ってゆっくり休んだ。決戦は今日の24時。武器の手入れも済ませ、頂上に近い部屋の中にいた。
PM11:00 戦いまで、一時間を切った。アルスは窓枠に座り、ファイは柱にもたれていた
沈黙が支配する空間。そんな中、城壁に取り付けられた時計が11:00を指し、時計塔が連動して鐘を鳴らす。堅い沈黙のなか、星空を見ていたアルスが空から視線を外し、正面を見据えて呟く。
「いよいよ…か」
「そうね…。まさか城のこんなとこで戦うなんて、思いもしなかったけど」
もたれていた柱から離れ、肩を竦めてみせるファイ。
「…ゴメンな、ファイ」
突然の謝罪に目を見開き驚くファイ。
「どうしたの?急に」
「いや…なんつーか、それと…ありがとう」
続けての感謝の言葉にポカンとした様子でいたファイだったが、クスクスと笑いだした。
「変なアルス」
するとアルス窓枠から離れ、ファイに近づくと軽くデコピンをした。
「痛っ!もー……何するのよっ」
不満の声を上げるファイにアルスは意地悪い笑みを浮かべた。
「バーカ。お前と一緒だからだよ」
「へっ!?」
言葉を理解し、みるみる顔を赤くするファイ。見るとほんの少しアルスの顔も赤かった。頬を掻きながら、どこか照れ臭そうに言ってきた。
「何か……会って一週間もしてないけどな。オレ、お前のこと──」
「ま、待って!まだ言わないで」
突然の制止に疑問符を浮かべるアルス。
「な……何で?」
「どうせなら、天使を倒して、一息ついてから言って。ね?」
そう言いながら上目遣いに見てくるファイ。その様子に絶対に折れないと踏み、ふぅ、とため息を吐いた。
「……あぁ、わかった」
膠着してしまった空間。それを変えるため、ファイは全く別の質問をした。
「ねぇ。アルスは、この戦いが終わったらどうするの?」
その質問に暫く考えるそぶりを見せてからアルスは答える。
「んー。とりあえず、故郷に戻って荷物まとめてから旅に出ようかと思ってる」
その答えにファイが顔を赤くしながら付け足した。
「ねぇ……私も……一緒に行っていいかな?」
それに目を見開いて驚いたが、先ほど同様に意地悪い笑みを浮かべ告げた。
「断ると思ってるの?むしろ、嫌がったとしても、さらって行くけどな」
「バカ…。恥ずかしいことさらっと言わないでよ…」
二人で笑い合う。すると───、
突如鐘の音が鳴り響いた。
「今の音…鐘楼からか!!」
二人して屋上へと段跳ばしに階段を駆け上がる。そしてアルスが扉を蹴り開けると上空には純白の羽を散らし空中に浮遊する天使の姿があった。あの存在が世界を滅ぼしつつあるのに見ているだけで神々しさを感じる。
「あれが……」
「天使みたいだねぇ」
『!?』
二人で呆然としていると、後ろから声が聞こえた。思わず振り返るとへらりとした掴みどころのない表情と共に弓を背負った人物。それにアルスが思わず歓喜の声を上げる。
「彰吾!お前、来てくれたのか!」
その言葉に呼ばれた人物の彰吾はニヤリと悪そうに笑んだ。
「頼まれたからには来ないわけにはいかんでしょ?休暇満喫中だったとしてもさ」
そう言いながら、自身の武器である弓を構える。
「やれやれ……久々の仕事だ」
この場にいること、武器を構えていること。それにファイは戸惑いを見せる。
「え…。貴方、戦えるんですか!?」
それにあっさり答えた。
「裏では、割と暗躍してるから……っと、ヤバ気な雰囲気だな」
そんなことをしてる間に天使は両手に光球を溜めつつあった。
「ゲッ!あんなん食らったら全滅じゃないか!!」
「あぁ。心配いらんよ」
そう言い矢を番えて構える。風切り音がしたと思った刹那、天使の手に矢が突き刺さり光が霧散した。
「出される前に、叩き潰せばいいだけだろ?」
したり顔の彰吾の顔にアルスは思わず破顔する。
「ハッ、違いねぇ!やっぱおっちょこちょいのバカだな!!」
そう言いながら背中のホルダーから槍を抜き放ち、その切っ先を天使に突き付ける。
「命知らずのバカの命、預からせてもらう!!手ぇ貸してくれんなら遠慮なく借りさせてもらうぜ!!目標、大天使ガブリエル!」
ファイも双剣を抜き、構えを取る。
「彰吾さん、頼りにしてます!行きましょう!!」
そこまで言うと、黙していた天使が刺さった矢を抜き捨てると口を開いた。
「愚かな人の子風情が……。よいでしょう。あなた方を消してから、この星に裁きを与えましょう」
バサリと羽をはばたかせる天使。その様子に、戦闘態勢万全の三人。
「ま、様子見と行くか」
そう言うと矢を番え、引き絞る。
「烈火、鳳仙花!!」
焔を纏った矢が突き刺さる─かと思いきや、寸前で止められて反転して襲いかかってきた。それをアルスが一振りで叩き落とす。
「へぇ…やるなああいつ」
アルスが呟くとファイも双剣の他の物のチェックをさっと済ませ、戦闘態勢を完璧にした。
「私も行くわよ!」
「さて……行くぜ!!」
掛け声と共にアルスは踏み込んだ。